誰の耳元でもささやける私は異世界で神となった。
@baibaisan
第1話 風の噂(改)
何のためにうまれて何をして生きるのか?
たらたたーら🎵たららら🎵・・・・
子供用の曲が鳴り響く。
自分からこの曲を選んだわけではない。
自動再生でたまたま選ばれたのだろう。
仲の良かった友人からの連絡がなくなって早6年。
友人を含め地元の同級生たちが次々と結婚をして子供も生まれているということは
ママが何気ない会話のなかで話していた。当時はASMR配信者として軌道に乗り始めお金がふんだんに入り出していたので、気にもとめていなかった。
それよりも自分の仕事ぶりを褒めて欲しかった。
平均所得の倍以上を稼ぎ、好きなものを食べ、好きなものを買い、好きなように寝ていた。この家もそうだ。
配信者として防音や、セキュリティ面に配慮された勝ち組の家。
ママも喜んでいた。
けど結局ママの気持ち的を察するにそういったことを私に求めてはいなかったのだろう。会うたびに地元の人の話や、あなたにはいい人いないの?と聞いてきた。
正直鬱陶しかった。
何度も同じ話をされるのが。
頑張ってたのに。
でも今はあの時とはちょっと違う。
田舎だの、古いだの、馬鹿にしてきた他の人の幸せが少し羨ましい。
興味がなかった知り合いのSNS。
何となく気になって調べたはいいが押し寄せる幸せの波に悔しさと、苛立ちと
その他諸々の感情が湧き出てしまって途中で見るのをやめてしまった。
全員が全員成功をしているわけではないのだろう。
でもさっき見た人たちはみんな幸せそうだった。
習慣的に開いていたアプリによって流れる曲を止めるため
力なくスマホの電源を落とす。
最悪の気分だ。
私にヒーローはいないのか。
王子様でもいい。
目頭が熱くなるのを感じる。
ポロッと垂れてきた液体がそのまま枕に吸収された。
スタートを切ったかのように涙は止まらず、嗚咽も出てきた。
出てくる嗚咽でのどが痛まないか心配だったが止めることはできなかった。
どのくらい泣いたのかわからない。
頭がぼーっと温まっているのを感じる。
スンスンと鼻はまた鳴っている。
その時リビングの時計が夜の12時を回ったことを告げた。
明日は今日になった。
私は通知がこないかスマホを持ちあげ顔の上で電源をつけた。
今日は私の誕生日だった。
誰からの連絡もない。
当たり前か。
ママもこの時間帯には寝ている。
分かってはいても期待をしてしまう。
そんな自分がなんとも情けない。
もしかしたら、誰かから、おめでとうと連絡が来るんじゃないか。
誕生日だけでなく、正月にもそんな期待をしている。
本当に馬鹿らしい。
と思いながらも数分スマホを眺める。
何も通知が来ないのを確認して電源を再び落とす。
直後激痛が顔を襲った。
スマホが顔に落ちたのだ。
この世のものとは思えない痛みが全身をめぐる。
こう言った痛みは怒りが先行して周りのものに当たりたくなるが
ベットの上なので枕を強めに握るぐらいしかできることがない。
本当に痛い。
笑い事じゃない。
なんでスマホを落としただけなのに!!!
怒りがどんどんと湧いてくる。
怒りで頭に血が昇ったのか鼻血も出てきた。
ポタポタと可愛いシーツを汚していく。
本当にこいつ・・・
まじで・・・・・・
顔をおさえベット横のティッシュを取ろうともう片方の手を伸ばす。
届かない。
なんで・・・?
何度も腕が空を切る。
もう使い切ってたっけ?補充を忘れてた?
激痛に身を悶えさせながらもなんとかベットから身を乗り出す。
ずるっと体が大きく動く。
それは予測していなかった動きだった。
ドスッを鈍い音を立てながら顔を襲った衝撃は、
そのまま首へと伝わった。
んぐっ・と息を呑むのと同時に眠気が襲った。
眠気は泣くことで熱を帯びていた頭を急速に冷やし
そのまま意識を奪った。
尋常ではない光が目を差した。
朝になったのだろうか?パソコンをつけっぱにしていたのか?
瞼を閉じても関係なく私の目を焼いた。
「もう・・・何!?」
しょうがなく身を起こし目をひらいた。
そこは真っ白な場所だった。
夢?
と思える時点で夢ではないのか?
何もない。
だだっ広い空間が白色で塗りつぶされている。
いわゆる明晰夢というやつなのだろうか。
自分の思い通りにみることのできる夢。
試しに何か出てこいと念じてみる。
するとモワッと目の前の場所が歪むのを感じた。
歪みは少しずつ大きくなり形作り始めている。
まじか!?
えっどうしよう・・・
どうしようどうしよう。
なんとなく念じてみたはいいものの何を作り出すかは決めていなかった。
イケメン!?
イケメンでも作ってみる!?
かっこいい旦那様でも作ってみちゃう!?
いや待て!!
旦那様よりも大切なものがある。
推しカップリング。
これだ!!
これしかない。
目の前で推しをみる。
これすなわち我が生涯に一片の悔いな
「おはよう」
どこからともなく声がした。
男とも女とも取れないが、高級な声。
ASMR配信者として様々な機材を使ってきた経験の中でも
体験したことのない声。
最近は仕事が手に馴染み切ったこともあり積極的に
調べてはいなかったが新しい機材でも出たのだろうか?
しかしこれは数百万円ではきかないのではないだろうか。
今までで一番本能に訴えかけてくる、直接心に響いてくるような
感覚だった。
どんな環境を使っているんだろう。
体と共に寂れていたASMRへの情熱がまた燃え上がり始めた。
夢でもなんでもいい。
もう少しその声を・・・
「ごめんけどその期待には応えられないよ」
また声がした。
どこから・・と耳を向けると先ほどの歪みから声がした。
煙のような形だった気がするが、今は球体の歪みとなっている。
球体から謝られたのだろうか。
というかこの球体はなんだ?
私は何を考えていたっけ?
推しへの想いが足りず人の形どころか、球体になってしまったのだろうか。
それとも美的センスの問題?絵はそこそこ描けるはずなのだが・・
悩んでいるとまたもや歪みから声が聞こえた。
「推しの形になることもそうだし、僕の声を体感できる環境を教えることも」
ん?
喋った!!!??!
しかも私の考えを見抜いてる!?
やっぱり夢!?
奇天烈な展開、やはりゆめ
「夢じゃないよ」
「これは夢じゃない。残念なことにね。」
「ここは死後の世界」
「正確には世界と世界を繋ぐ隙間だけどね」
多角的に声がする。
目の前にいるような遠くから聞こえてくるような・・・
不思議な・・
じゃなくて死後の世界!!!!!!!????!?!!?!?!?!?!?!
「そうだよ」
そうだよって何!?!?!?!?!?!
どういうこと!?!?!?!?
「君は死んだんだ」
死んだ?why?
なんで死んだ?死ぬようなことしましたっけ?
何もしてない。何もしてないよわたしまだ!
寿命で死ぬどころか
子供もいないし、結婚もしてない!!
というか彼氏!!!というかしょじ
「君は死んだんだ」
若干呆れた声で歪みから声がする。
高級な声だからか、呆れた声が染みわたりそのまま呆然とする。
「落ち着いたかな?」
「まあ驚くよね」
「自分が死んだって言われたら」
「でも本当のことだから」
夢とかではなく?
「夢ではなく」
死んだ?
「死んだ」
死んだ・・・・・・・・・
いやそういう夢か?
人は無くなってから後悔する生き物だ。
焦る気持ちがこんな変な夢を見せたのか?
「まあ信じなくてもいいよ」
「どちらにせよ君は」
「君のいうところの夢のなかで」
「暮らすことになる」
夢か死後かそれは目覚めるか否かによって決まる。
夢だと一蹴してもいいがなんとなく目の前の歪みが
喋る言葉が気になった。
暮らすっていうのは?
「やっと本題に入れるね」
「君には異世界で暮らして欲しいんだ」
「異世界で暮らす中で僕の願いを聞いてほしい」
異世界で暮らす?
異世界転生的な?
「そう」
存在は知っている。ラノベやアニメで散々みてきた。
「知っているなら話は早いね」
「僕は神」
「君には神の使いとして」
「僕の存在を広めてほしい」
神なら自分で広めればいいんじゃない?
「今の僕にはそこまでの力はないんだよ」
「だから君に力を貸してほしい」
私が力を貸すメリットは?
「君は意外と図々しいね」
「第二の人生なんて望んでも」
「手に入らないというのに」
いやいきなり異世界生活なんて無理でしょ。
どうせあれでしょ。無法地帯なんでしょ。
モンスターとか倫理観のない人間とかヤバすぎる衛生観念とか。
絶対無理。
しかも布教活動?
嫌だね。
今でこそ宗教勧誘とか白い目で見られる程度で済んでるけど
法もない中で神がどうとか言ってたら速攻火炙りよ。
「確かにそうかもしれない」
かもじゃなくて絶対。
「じゃあどうすれば手伝ってくれるの」
それはさっきも言ったけどメリット次第。
チート能力とかハーレムとか。
お姫様に生まれ変わるとか。
絶対苦労しないとか。
なんかないとやる気出ないし、最悪生まれた瞬間ここに直帰。
「チートか・・」
「何がいいだろう」
え?くれるの?くれるなら一目見たら惚れられるとか、
逆に一目見たら嫌な奴を殺せるとかすごいのがいいんだけど。
歪みは悩んでいるようだった。
他にも適当なチートを言ってみたがうんともすんとも言わない。
欲をかきすぎただろうか。
けどここで妥協すれば苦労するのは自分だ。
ASMRの仕事での話し合いでもぼかしたり曖昧にしたり、意見をきちんと
いうことができなかったせいで嫌な思いは何度もしたことがある。
ここは押すべきだ。
相手は自称神だし。
しばらくすると結論が出たのかまた歪みは話し始めた。
「決まったよ」
「君には加護を授ける」
どんなのを?
歪みの声が少しニヤリとした気がした。
顔なんてないのに。
「君は人に声を届けるのが得意だね」
得意というか・・ASMRを仕事にしてるだけだけど・・
「あまりにかけ離れた加護は」
「身を滅ぼしかねないからね」
「得意なことに準じるものがいい」
そういうと歪みの球体はぐにゃりと形を変え始めた。
歪みが広がっていく。
結局何のチートなの!?
「それは向こうに行ってのお楽しみだよ」
歪みが白を塗りつぶし、やがて私の体も包み込んだ。
その場を動いていないにも関わらず
体が浮いたり、曲がったり、縮んだり。
自分が自分でなくなるような感覚だった。
オーレリア国 剥落の街 アウリス
風の噂によるとこの町には神の加護を受けた子供がいるらしい。
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