第2話 First Flight

 姉ちゃんや村の人々に見送られながら、俺はテナと空へ飛び立とうとしていた。テナが翼を羽ばたかせて、大地を離れる。


 もっと上へ。もっと高く。空の青は、どこまでも続いていた。前世では、VRゲームで何度も目にした光景だ。いったい何年ぶりだろうか?


「アル、街はどの方向にある。」


「あの雲の向こうに。」


「む?それなら高度を上げなくては。」


「雲の中は飛べないのか?」


「我に飛べない場所は無いが……前が見づらいのだ。」


「オーケー。」


 残念だ。テナは推力とピッチを上げて上昇する。ついに俺達は雲の上へと出た。


「なぁ、テナどうやって推力を得てる?」


「風魔法であるな。」


「後ろに風を吹かせてるのか?」


「その認識で良い。ただし離陸するときは羽ばたいて推力を得るのだ。」


 確かに今は、翼を動かしていない。俺も後ろに風魔法を使えば更に加速できるだろうか?


 俺も風魔法を使う。するとスピードが少し上がった。


「アル、危ないであろう!」


「ごめん、テナ。」


 アフターバーナーみたいに一時的に加速することが出来た。面白いな。


「人間と一緒であるとこのようなことも出来るのか。」


「テナも出来るだろ。」


「それでも我の魔力を使わないことに価値があろう。」


 テナは関心していた。そしてしばらく飛んでいるとドラゴンが前に見えた。


「ボギー、12時の方向。」


「ぼぎー?」


「ボギーってのは不明機のことだよ。」


「あれはエメラルドドラゴンであるな……戦闘しても勝てぬ。降りるしか無かろう。」


「勝てないのか?」


「空戦のセオリーは向かい合って魔法をぶつけ合うのだ。我の魔力量では無理だ。」


 俺は驚いた。更に詳しくこの世界の空戦の話を聞くと随分と独自の発展をとげているようだった。俺は興味津々だったが、テナは早く着陸したいようだった。


「……なぁテナ勝ちたくないか?」


「無理であろう。そもそも種が違うのだ。」


「テナ、俺はお前が勝ちたいか尋ねた。どうなんだ?」


「……それは全てのワイバーンの願いであろう。」


「その夢、叶えさせよう。」


「何をするつもりだ?」


 俺はニヤリと笑う。テナを俺の相棒として認めさせよう。俺は前世の空戦理論を話す。如何に敵機の後ろを取るのか。これが肝心だ。それ以外の難しい理論は今後ゆっくり教えよう。


「敵機の後ろを取って一方的に攻撃するんだ。」


「しかしそれでは飛行が出来ないであろう?攻撃魔法を使いながら飛行魔法を使うのはとても難しいのだ。」


 だからホバリングして真正面で魔法を撃ち合うのか。確かに同時に別の魔法を使うのは難しい……というかできない。


「分担すれば良いだろ。俺が攻撃魔法、テナが飛行魔法だ。」


 テナは随分と考えていたがやがてこの理論に穴が無いことに気づいたのか関心していた。


「確かに可能かもしれん……。」


「だろ?あとは空戦で確かめるぞ。」


「……良かろう。」


 俺とテナは翼を横に傾けて、一気に急降下する。胃が裏返りそうだった。そしてまず上から攻撃を加える。


 エメラルドドラゴンは俺たちに気づいたのか急旋回する。


「テナ、旋回だ!」


 テナは体を傾けて旋回する。相対速度も完璧だ。


「アル!撃て!!」


 俺は『風刄』を放つ。相手の機首はこちらに向いておらず一方的に攻撃できた。着実に動きが鈍くなってる。


「テナ、ジグザグに飛んでくれ。」


 シザーズ機動ってやつだ。テナはそれを知らないだろうが直感で分かってくれている。


「了解!」


 敵機の後方を維持して更に攻撃を加える。相手は徐々に高度を下げていた。このまま行けば墜落するだろう。


 そしてドラゴンは木々をなぎ倒しながら森へ堕ちていった。


「……これは卑怯であるが強いな。」


「テナ、勝てば良いだろ?」


「そうであるな。」


 こうして俺たちを阻むものは無くなった。テナはよほどドラゴンに勝てたことが嬉しかったのか自慢している。


「アル、当たり前のようにしているがこれはすごいことなのだ。」


「他のワイバーンでも、すぐに出来るようになる。もっと練習しないと。」


「アルは末恐ろしいな。こんなことが出来る人間はそういない。少なくとも我は見たことがない。」


 そして俺たちは街を目指す。もうすぐだ。

 街に近づくにつれて、街道を通る人がどんどんと増えていく。そして地平線の向こうに城壁が見えてきた。俺達はゆっくりと下降していき、目立たないように少し遠くで着陸する。


「そういえばテナ、街で何する気だ?」


「我か?人間の料理を食べに来たのだ。」


「その姿だと入れないだろ。」


 俺がそう言うとテナは自らの体を小さくする。ちょうど俺のフードに入るぐらいだった。


「これなら良かろう?」


「多分、大丈夫。」


「では行くぞ!」


 テナがフードの中に入ってそう言う。仕方ないから俺は歩き出す。周りからの視線が痛い。テナが小さいからか、俺が子供だからなのか分からないけど、あまり目立ちたくなかった。


「ところで、アルは何しに来たのだ?冒険者になるのか?」


「冒険者か……ないな。とりあえず街を見て回るよ。」


「意外であるな。」


 俺とテナは城門をくぐり、街を見渡す。この世界に来て初めての街だ。

 大きな通りに出る。そこには屋台が出ていて美味そうな匂いが漂っていた。串焼きを売っているようだ。テナが興味深げに見ていたので買うことにした。


「アル、これは何だ?」


「焼き鳥。美味しいよ。」


「ふむ……鳥は食べるが焼いたことはないな。」


 串焼きを2つ持って路地裏に行く。街の中にあった階段に座って食べ始める。テナに渡すと串ごと食べてしまった。


「テナ、大丈夫か?」


「何を心配してるのだ?それよりもアル、美味かったな!おかわりはあるか?」 


テナは俺の手にある物を欲しそうに眺める。しかし、俺が渡さないと分かるやいなや、諦めたようだった。


「……これは俺のだからな。」


「ということは無いのか?」


「そういうことだ。」


「仕方あるまい。人間はやはり金とやらが必要なのか?それがたくさんあれば焼き鳥が食えるか?」


 テナは俺の持つ小さな袋を見てそう言った。


「まあそうだな。でもこのお金は食べ物を買う為ではないけど……。」


 俺は苦笑いして答える。テナもたまに鋭い考察をする。


「ふむ……ではなんのためにあるのだ?」


「……そう言われると難しいな。」


「まぁ良い。一応、我の目的は達成した。アルは何がしたい?何か夢はあるのか?」


「夢か……そうだな俺はこの異世界に空軍を作りたい!」


「お主……実はバカなのか?」


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