第85話 伝播

ガラクタが、つまづき転びそうになりながら、

ひどい姿勢で走っている。

走り慣れていないし、元が結構な猫背である。

とにかく、伝えなくちゃと、それだけで。

むき出しになっている配管に足を取られ、派手に転げる。

痛いなどと感じることは、あとでもできると、

ガラクタはむくりと起き上がり、またひどい姿勢で走る。


ガラクタはカガミを見つけた。

通路の奥を曲がっていったのが見えた。

ガラクタは、とにかくカガミを呼ぼうとする。

息が切れて言葉が出てこない。

カガミがいってしまう、伝えなくちゃ、とにかく、マルの思いついた、あの、花を、

考えるのに、息が出て行く音ばかりがする。


瞬間、何かが走った。

形のあるものでない、何か。

ガラクタの内側を突き抜けて、走り抜ける何か。

びりびりと、痛みのように。


カガミがガラクタに気がついた。

通路の奥からやってきて、

ガラクタの頭をぽんぽんとなでた。

なぜかわからないけれど、

カガミはこれからハコ先生のところにも、

ガラクタの伝えようとしたことを伝えに行く気がしたし、

また、みんながもう、そのことを伝え合っているかのような気がした。


ガラクタは路地にうずくまる。

走って伝えようとしていたことが、

言葉なしで何か伝わっている、

何が起きた、あの瞬間、何が起きた。

植物学者では説明つかない何か。


「伝播がおきたね」

ガラクタが顔を上げると、被り物をしたソロバンが首をかしげていた。

「電波の伝播。ギムレットならきっと語ってくれる」

「でんぱのでんぱ?」

「電気が内側を伝えるんだ」

「それは……」

「うん、構築式では語りつくせないことなんだ。よくわからない」

「そうか……」

ガラクタはうつむく。

内側が伝わる。

ガラクタの伝えたいことが、カガミに言葉なしで伝わった。

それは電波の伝播だという。


「連鎖して町に広まるよ。一体何を伝えたかったんだい?」

ガラクタは息を大きくはいて、

「花を咲かすんだ」

と、つぶやく。

「はな」

ソロバンはやっぱりわからなかったようだが、

被り物をかぶっているのに、なんだか楽しそうに見えた。

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