第84話 ウゲツ走る

ウゲツは走る。

戦艦ミノカサゴの中を、走る。

兵士が通路に出てくる。

ウゲツは通路の床を蹴り、そのまま側面を走る。

側面から跳躍をして、天井に足を着地させて、そこからさかさまになって走る。

予測できない動きに、兵士が目を丸くしているのがわかる。

ウゲツは走りながら、武器を構える。

何という武器かは知らない。

ただ、殴るのにはちょうどいい。

邪魔するものすべてぶちのめす。

ウゲツは目を開き、兵士達に突っ込んでいく。

さかさまになっているそこから、まるで自然に逆さ跳躍して、

自分の重さと重力に任せた宙返り蹴りを繰り出す。

そのまま床に着地するまもなく、武器を振り回して、兵士を昏倒させる。


ウゲツはどうしてこんなことができるのかを知らない。

ただ、ウゲツの身体になじむように、

重力が無視されているのを感じる。

サクラだろうかと、また思うが、

当のサクラはそのウゲツの考えを、無視しっぱなしだ。

ウゲツの右手に、武器。殴るのに特化している気もするが、

別の使い方もあるのかもしれない。

サクラも説明しようとしていないし、

ウゲツも追い求めようとは思わない。


ネココに首飾りを返して、

そして、町に戻るんだ。

ウゲツの思いが、凶暴な衝動の奥底で、小さく響く。

ウゲツは目を閉じる。

大きく深呼吸する。


ウゲツは頭の中のサクラにたずねる。

ネココはどこにいそうかと。

サクラはちょっとだけ黙って、

道筋をウゲツの頭の中に展開する。

この先にはもっと、兵士が集中しているはずだという、おまけつきの情報だ。


サクラが、ウゲツの頭の中で問う。

ネココを奪還してから、どうするつもりだ?と。

ウゲツは答えない。

考えていない。

サクラは頭の中で、ため息をついた。

身体のあるものは違うな、と。

その手で運命をつかみ取るようにできている。うらやましい限りだ、と。

ウゲツは意味がわからなかったが、

兵士の足音に反応し、

ウゲツはまた、衝動に飲み込まれて走り出した。

今は考える暇はない。

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