第35話 あなたのため
ウゲツとネココは、磁転車で磁気掃除に行く。
いつもの調子でウゲツは磁転車を駆る。
天狼星の町の低い天井、配線や配管がごみごみと。
ネココが落ちないように、でも、ネココが楽しいように。
ウゲツの基準はいつしかネココで。
ネココが喜んでくれればなんでもする。
ネココに嫌われたくない。
カガミやカミカゼはわかってくれないと思うけれど、
多分町のためでないことになっても、ネココのためならウゲツは動く。
最近になってウゲツはそんなことを思う。
カガミは番人だし、カミカゼは町のために動くし、
列挙しないけど、みんな町のために動いている。
でも、と、ウゲツは自分を思う。
ウゲツはネココのためだけに動こうとしている。
仕事を増やし、収入を増やし、
ウゲツは少年なりに、ネココのためになりそうなことを選ぶ。
喜んでくれそうなことを必死になって選ぶ。
なぜだろうか。
執着だろうかとウゲツは思う。
それだけでないだろうけど、抱え込みたい感覚。
感覚ごとネココを抱きしめたい。
そう思うけれど、触れるのにも実は勇気がいる。
壊れたらどうしよう。奇跡のようなネココが壊れたらどうしよう。
「ウゲツってば!」
ネココの声が届くまで、ウゲツはぐるぐると考え事。
磁転車を止めるまでにさらに間がある。
ウゲツは振り返る。
ネココが恨めしそうに荷台から見ている。
「聞こえてなかった?」
「…うん」
嘘をいっても仕方ない。
ネココに嫌われるのにおびえながら、ウゲツは答える。
「さっきの部屋がお仕事の部屋なんじゃない?」
「通り過ぎちゃったか、うん、ごめん」
「ウゲツ最近変だよ」
「そうかな」
嫌われたくない。笑顔でいて欲しい。
ウゲツの中で同じことがぐるぐる回る。
「いつもの通りだよ。ネココは何も心配しなくていいから」
ネココは磁転車から降りる。
磁転車に乗ったままのウゲツをじっと見つめる。
「お仕事しすぎだよ、ウゲツ」
「そう、かな」
心配そうなまなざしをさせたいわけじゃない。
心配してくれるのはうれしいけれど。
ずっとネココがウゲツを見てくれるようになってくれたら。
ずっと一緒で、ずっとウゲツだけ。
ネココの笑顔のためなら、ウゲツは何だってしたいと思う。
だから、心配しないでと、ウゲツは言う。
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