第10話【堕落】

 理由が分からなくても、当時の宇辻はがむしゃらにやり続ける事しか出来なかった。

 GMをやり、卓を開き、皆を迎えていき、そうしていくとドンドン隅に追いやられる感覚に襲われた。

「なんか。イベント事に関れなくなったな」

 意味不明な感覚に宇辻は困惑していた。

 今までなら卓を開けば人が来ていたのに、その人数も少なくなり、来る人も固定化されてきてしまった。

 難易度の高い卓をやったつもりはない。連続性がある卓をやっているつもりもない。

 初心者でも行ける難易度の卓を出しているというのにこの感覚はなんなのだろうか。

 いや、分かっている。原因は多分--

「囲いが出来てる」

 宇辻以外の誰かが自分の気に入った人を別のグループチャットで囲い、コミュニティの中でも別コミュニティを作ってしまっていた。

「……」

 頭が痛くなった。大本のコミュニティはこちらだというのに人を引き抜き、囲い、本元のコミュニティ活動の人を減らすなんて。

 何よりも、自分が誘われてないという事実が当時の宇辻にとって嫌だった。

「(自分の何が悪かったのだろう)」

 別コミュニティを作っている人に心当たりはある。

 コミュニティ初期に入った人物で、仲良い人と一緒にこちらのコミュニティに入った人なのだが、何回か一緒に卓もした事はある。

 だが、自分は選ばれなかった。

「………」

 そうして引き抜き紛いの活動のせいでこのコミュニティは衰退した。

 GMとして卓を開いているのも冷静に見返せば自分ばかりだった。

 虚しさに襲われた。

 

 自分が築き上げてたものというのは何だったのか。

 結局他人に全て掠め取られてしまったこのコミュニティはどうなるのか。

 最初の10人その人たちと”また”卓がしたい。

 その人たちと”また”卓がしたかったからコミュニティに残っていたのに。


「終わってたのか」

 いつの間にかコミュニティは過疎化していたことに気づいた宇辻。

 いや、もっと前からコミュニティで本格的に活動していたのは宇辻と数人だけだったのだろう。

 その事実をがむしゃらに頑張る事で、宇辻自身気づきたくなかったのだ。

 目が細くなり、机に倒れ込む。

 自身の頑張りが、ただただ寂しさを紛らわすための手段だったことに気づき、歩みを止め、立ち止まる。

「……皆、僕の事嫌いになったのかな?」

 遊びたかっただけだった。皆とただ、笑って、真剣に遊んで、時にふざけて。

 それの何が、悪かったのだろうか?

 宇辻はこの答えを一生得る事はなかった。


 そうして宇辻のTRPG活動は止まる。

 今までのアカウントを全て捨て去り、ネットの関係は全て捨て去った。

 だからと言って、宇辻の現実が充実したというわけではない。

 楽しくない。誰にも認められない灰色の日常を過ごしていく。

 

 それでも、そんな灰色の日常の中で、時々色多き夢を見るのだ。

 あの時、皆と楽しく笑い合ったあの日の事を。初めて触ったゲームに四苦八苦しながらも、頑張って行ったあの日の事を。


 お気に入りだったTRPGの新刊が出るというニュースをつい目にしてしまった時、宇辻の目から涙が零れた。

 ”また”あの暖かさに出会いたいと。

 ”次”は失敗しないと。


 宇辻は馬鹿者だ。

 その後に何度も何度も同じ失敗をした。

 だけど、それと同じだけ、思い出を作ることが出来た。

 今宇辻を動かしているのはその想い出たちだ。

 暖かく、楽しく、笑い合った。

 たった一瞬の想いたちだ。

 それを得るために、何度も何度も何度でも、宇辻はTRPGという沼の中に堕落していくのだった。

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