十四通目 絵描き

 西欧でルネサンスが花開き始めた頃、一人の絵描きが究極の絵を描くと言い出した。究極など聞こえはたいそうなものだが何をもって究極なのかわからない。

 友人たちが何を描くのかと聞いても、彼はまぁ見てろと言うきり地下室にこもっている。それから街にも出てこず、友人たちとも会わなくなった。

 心配になった友人たちは彼の家に行ったが、不思議なことに中から見知らぬ人間が引きも切らずに出てくる。こぎれいな身なりの夫人から活気にあふれた少年、くたびれた漁師の老人まで。

 彼らを避け、友人たちはとうとう地下室にたどり着いた。するとどうだ、あれほど開けてくれと頼んだ扉が開いている。中には大きなキャンバス、そしてそれから出てくる人間。友人たちは驚きキャンバスをのぞき込んだ。すると例の絵描きがこちらを見ながら筆を動かしている。彼が人物を描くたび、その描かれた人物が実体を持ってこちらに出てくるのだ。

 友人たちは絵描きに呼びかけたが気づくそぶりもない。絵の中でただひたすらに描き続けている。恐ろしくなった友人たちはキャンバスに火をつけ、地下室を埋めてしまったということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る