十通目 漠

 脳科学が発展し始めたころ、ある学術研究機関が漠を見つけたと発表した。獏は夢を食べると言われる伝説上の動物である。しかし、そんな動物を、どのように?

 研究チームは睡眠状態に入ったヒトの脳波を徹底的に解析し、コンマ何秒間か脳波が消える瞬間を見つけた。そしてそのタイミングが、脳波が落ち着く瞬間――すなわち夢を見なくなるタイミングとぴったり合致することも。

 さらに、数多くの被験者にランダムに、そして定期的にその瞬間が発生することも確認した。それはまるで動物の摂食行動のようだった。牛が場所を変えながら草を食べるように、獏も人を変えながら夢を食べているのだ。

 そして極めつけは最後の実験である。被験者を三日間覚醒状態にさせ、睡眠を禁じた。そして眠らせたところ、脳波の消失時間に優位な延長が認められたのだ。やっと食事にありついた動物がむさぼるように食事を取るように、夢が長い間消失していたのである。

 発表当初は話題になった研究だったが、それはレム睡眠とノンレム睡眠の違いに過ぎないという反論も現れ、実験自体の倫理的な問題もあり、懐疑的な見方をする人間が増えていった。

 今ではそんな研究があったかどうかも怪しいとされているが、獏は本当にいるのだろうか。もし人間が夢を見なくなったなら、獏は絶滅するのだろうか。

 

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