二十一通目 ロアの方舟

 ロアの方舟を見たという証言は昔から絶えない。目撃者によってその色や大きさ、船種は様々だ。夜に目撃した人は黒々とした巨大な鋼鉄の軍艦だったというし、朝に見た人は小さな光輝く漁船だったともいう。蒸気船や帆船だとも。その方舟はもしかすると、時代や見る人によって大きさや種類を変えるのかもしれない。

 それはロアを載せている。ロアとは伝承であり逸話であり知識である。人から人へ伝えられてきた言い伝えであり霧の中の影、あるいは嵐の夜の声である。太古の昔から人類とともに在り、怖れられ憎まれ、崇められ敬われ、されどお前たちが初めて裏切りしものである。

 予言しておこう。いずれロアの方舟が岸にたどり着くとき――世界は再びロアに呑まれるのだ。

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