003.台湾の台は台風の台

「雨の日」で強く記憶に残っている日がある。台湾で体験した台風である。私が中学生くらいのころ、家族で台湾に行った。そこで台風が直撃し、1日ホテルに足止めされることになった。あまりの雨風に全く外に出ることができなかった。私たちはホテルでできあいの弁当を食べて過ごした。夏の日のことだった。

親が雇っていたガイドさんが、「台湾の台は台風の台だからね」と言っていた。ガイドさんは明るくからからと笑う。東アジアの中でも南方に位置する台湾は、日本の本州よりずっと台風が身近なようだ。あまりにもあっさりした諦めようは、頻繁に旅程の変更を経験したのだと感じさせる。日本だともっとガイドが謝りそうではあるが、台風は誰のせいでもないので、開き直るのも正しいと言えば正しい。私も親もガイドさんを責める気にもなれず、すごすごとホテルの部屋に戻った。

今となっては笑い話であるが、海外旅行に行く機会が少なかったので当時は結構落ち込んだ。当時は子どもだったから、自由に旅行先を選ぶこともできない。楽しみにしていた旅行がだめになるのは辛かった。

台湾には晴れの時期にもう一度行くことができたので、そのことはよかった。台湾に行くときは、台風が少ない時期を選ぶのをおすすめする。しかし、昔のことはどんどん忘れていくのに、こういうトホホな記憶は覚えているのはなぜだろう。あの日の情けない感情を何かと思い出してしまう。老人ホームでも、介護士さん相手にトホホな失敗談を話をしてしまいそうである。


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