#005 磁石と令嬢⑤

 はぁ……毒ですか。

 怖いね!

 関係ないけど!

 「別にそのオーラ浴びなきゃ関係ないんだろ?」

 「それは、そうだけど……」

 そんな悩みなのだろうか。

 確かに人殺し専門みたいな能力だからなぁ。俺も今んところそれしかできないからな!仲間だぜ!

 「で、何なんだよ、それだけか?」

 「…………」

 何か言いづらいことのようです。

 告白か?


 ———そのときだ。


 何やら馬鹿でかい足音が聞こえてきた!


 「何⁈何なの⁈」

 「———ここまで育つことはないはず———」

 クロエは相当焦った表情を見せる。


 ———あれ?てか育つ?


 ———魔物あれ育ててんのか⁈


 いや待てよ、ビオトープってのを聞いたことがあるぞ!なんか限りなく自然に近い環境で動植物を放し飼いにするんだ!

 つまりはそういうことか!

 魔術の練習台として育ててたんだな!

 なるほど〜!納得納得!

 ———で、その中で規格外に育った個体が出たと。


 ———あれ?やばくない?それ。


 何やら先ほどの猪が人型になったみたいな見た目をしているが———いやまぁそこは最悪目を瞑れる。

 一番の問題は。

 ———そいつが紫色だったことだ。

 クロエのオーラは紫色だった。

 つまるところ———。


 クロエはオーラを展開して、その巨大な猪男にそれを浴びせる!

 しかし、特に効く様子もなく、暴れ始める!

 クソッ!マジで面倒だ!

 「逃げて!ハセベ!」

 クロエは距離をとりながら、俺に対して本当に心配した表情を見せる!

 普段からそうしろ!マジで!

 「お前がこんなことするからじゃねぇのか———動物は適応するんだぞ!」

 「———それは、そうだけど」

 「だから俺が相手をしてやる」  

 化け物の前に立つ!


 ———いやデカ!

 ———ちょっと足が震えてきたな……帰りたいです!あの屋敷に!

 しかしだ!俺は!今ここで!力を発揮して!なんかこう、なんだ!主人公っぽくならないといけないんだ!多分ここは!そういうとこだ!

 「喰らいやがれ畜生がよ!!!」

 俺は灰色のオーラを展開する!

 そしてそのままそれを奴に向ける!


 ———奴は当然吹っ飛ぶ———はずだったんだけど———なんだ、なんか耐えてるぞ?足を引きずってるだけだ!

 なぁぜなぁぜ?

 生憎相手はそれなりには足止めを喰らってる。だからこっちには思考時間があるぜ!

 何故あいつは吹っ飛ばない?

 吹っ飛ばした奴らを例に見ていこう。

 ゴブリン。

 見ればわかるな。かなり軽い。武器は棍棒。

 しかしここで武器を持っていない猪も吹っ飛ばされていたので、武器は関係ない。

 じゃあ何だ……?あの猪男と俺が飛ばした魔物たちとの違いはなんだ?

 

 ———そうか!体重だ!!!!!!


 そう考えると、猪もそんな大きな個体ではなかった。となると、俺の体重と同じくらいか?


 ———そうかそうか、俺の体重以上のやつは吹っ飛ばせないって訳?

 じゃあ無理じゃん!!!どどどどーすんのどーすんの!

 負けるかもしれません。

 悲しきかな。


 「どいて!」

 

 するとクロエが前に出た!やめなさい!あんたは逃げなさい!俺が囮になる……!

 しかし押し飛ばされたので僕には何もできない。あぁ無常。

 「自分の過ちは自分で清算する!」

 銀行が潰れたみたいなもんだっつってんだろ!ボケ!


 ———その通りというべきか。


 ———俺の背の方に蹴っ飛ばされる。


 「クロエ!」

 「……はぁっ、はぁっ……私はいいから……逃げて……私を狙ってるはずだから……」

 奴を一目見る。

 確かに!クロエの方しか向いていない!

 でもここで逃げる奴普通いないと思うんだよね。

 「うるせぇ!」

 俺はクロエの前に出た!主人公だからね!それくらいしなきゃ駄目ですよ。

 「馬鹿!」

 「馬鹿で結構」

 でもどうしょうもないんだよね〜。

 うわ〜めちゃくちゃ鼻息荒いよ〜興奮してるよ〜勝てるかな〜勝たなきゃ!

 ということでとりあえず自分の身体をオーラを纏ってみる。

 あれだけ吹っ飛ばすんだ!纏ったらオートで吹っ飛ばすとかしてくれるんじゃないかしら!

 よし!

 猪突猛進猪突猛進!

 ということで突っ込んでみた!

 

 ———当たる直前で弾かれた。


 ———より正確に言えば、間に何かしらの力があった。それもかなり強い。あれから先には進めなかっただろう。


 ———まるで


 ———んん?


 ———磁石だとォ〜⁈


 周囲を見回してみると、何やらカタカタと動くものがあった!

 なんだアレ?悲しいことに僕そんな目よくないんですよ、目を細める。


 ———ナイフ。


 なんでこんなとこに落ちてんだ!でもここ人の敷地か!そっか!それくらい落ちてても仕方ないよな!そういうことにしようよ。

 でもさぁ……。


 僕ちょっと思いついちゃったかもしれないぜ!!!!!!

 

 勝てる!勝てるかも!勝利の法則は決まった!

 「バーカ!テメェの負けだよこの畜生がよ!同人エロゲの敵みてぇなチンコしやがってよ!」

 「……あまりそんなこと言わないで」

 「ごめんなさい」

 気に障ったのか奴もなんか雄叫びを上げやがった。うるせぇな!今何時だと思ってんだ!

 ということでクロエめがけて突進してくる———だがたかが耐性がついてるだけの獣。


 クロエを急いで拾って避ける!

 「あんた!死ぬわよ!!!」

 「死なねーよ、ゴキブリだからよ」

 しかし今の僕は自信に満ちています。


 考えてみれば長い期間だった……ウェブ小説で能力解明まで五話かかるってなんだよ……読者舐めてんのかよ……ってなりますよね。僕もそう思います。

 ですけどね!溜めってものをね!皆さんにね!わかってもらいたいんですね!えぇ!

 今月はね!一日からね!飛ばしていきますよ!もう中頃だけどね!

 生憎敵は木に衝突して目眩を起こしているところだ。バカで助かったぜ。


 お前の命は助からないんだけどな!!!無様な死を迎えやがれ!!!

 

 俺は瞬時にナイフを拾う!

 そして灰色のオーラを展開し、ナイフを奴に向けて飛ばす!

 背中向けてるからよく当たる!グサっと刺さった!

 ちゃんど悶える猪男。よかったぜ、お前にも痛みがあって……そのまんま死ね。


 俺はそのまま奴に向かってオーラを飛ばした!


 ———すると、最初こそさっきと同じだったものの、途中からギアが変わったように、かかる速度は加速する!


 ———そしてそのまま、引きずっていた足は、やがて宙に浮いていく!


 ———そして———ジェットエンジンが点火したように———ギュン!と飛んでいって———木々を薙ぎ倒しながら———やがて、見えないところで何かが潰れるような音が聞こえた!!!

 

 「死にやがったぜ!ざまぁ〜!!!」

 「あんた……何がどういうことなの?」

 「あぁ、オーラを纏った時に、かなり強い反発する力が奴のところに発生したんだよ。ってことはさ、それを合わせれば俺の体重を超えた力を発生させられるわけ。だからナイフをあいつに刺して、押し出し一本で勝ったわけ。わかる?」


 「……さっぱり、わかんない」


 呆れるように言うクロエ。しかしその声色はこれまでで一番優しかった。

 「さて……俺の力は見せましたが、何?何の話?そもそもここに呼んでさ」


 「あなたの力を見てからじゃないと、言いづらかったの」

 

 「へぇ、何さそれ?」

 何だろう。特別手当?


 「……あなたが帰りたいって言うのなら、ひとまずの方法がある」


 「ひとまずの方法?」

 そりゃ働くことでしょうよ!働かざる者食うべからず、つまり生きるべからず。そうしなければ駄目だ!


 

 「———魔術学園に、入る気はない?」



 「魔術学園?」

 なんだいそれ、ハリーのポッターみたいな話かしら。ヴォルデモートみたいな俺が?中に入るのか。どうもこんにちは、シモ・リトルです。

 「異世界についての研究も行われてる。だからあなたが帰る方法も見つかるかもしれない」

 へぇ!

 それはそれは!

 「……話を聞く限りは、まぁそうした方が良さそうだけど」

 「……でも、基本的なレベルが高いの。だからあなたが魔術なら無理だった。でも」

 「でも」

 「問題なんてどこにもなさそう」

 「そりゃどうも」

 「……帰りましょう、それも早く」

 「はぁ、そりゃなんで?」


 「……明日がね、新学期なの」


 流石にひっくり返った!

 俺間違ってないと思う!!!



 「わぁ!どうしたんですか!そんなに汚れて」

 流石のマルタさんも心配して駆け寄ってきた。

 「……ちょっと魔物が突然変異を起こしていたの」

 「だからあれほど練習台は一回一回変えろって言ったじゃないですか……」

 「ごめんなさい」

 「……あれ?ってことは……」


 「———そう、ハセベが倒したの」


 マルタさんが目をまん丸にしている。

 名前の通り。どうでもいいけどね!

 「……はぁ、はぁ、はぁ?」

 事態を飲み込めていないようだ……あんたにとって俺はどう見えてるってんだ?

 「それで、マルタ。話があるの」

 「はっ、はいなんでしょう」


 「……こいつを、魔術学校に入れようと思うの」


 俺みたいにひっくり返るマルタさん!

 そのまんま逆再生みたいに回転して立ち上がる!なんなんだその身体能力⁈

 「……本気ですか⁈」

 「ええ。彼ならよくやれるはず」

 「いや、まぁ、それならいいんですけど……」

 「そういうことだから。明日よろしくね」

 そのまんまスタスタとまた去っていくクロエ。

 怪我人だろお前!!!

 「あ、あぁ、あ……」

 何やら膝をついてうなだれるマルタさん。

 「働かなくちゃいけませんね」

 「いや、まぁ、それもそうなんですが……」

 「……何かまた別にあると?」


 「……魔術学校って、めちゃくちゃ学費高いんですよ……」


 「え?それってどれくらい?」

 「でかい金塊ひとつくらい……」


 金塊1キロ……?

 どんくらいなのかしらそれ……?

 「何が買えるかで言ってください……」

 「……家が一軒買えます」


 一千万以上!!!!!!!!!!!!


 二人してひっくり返った!これだから金持ちはわかんねぇんだよな!!!!!!


 その後シャワーを浴びて、また同じ服を着て、そして寝床に寝っ転がった。

 ———なんかもうめちゃくちゃだ。

 ———こんなところまで飛ばされたかと思いきや、使用人生活をするかと思いきや学園生活だもんな。

 ———これから俺どうなるんだ?

 ———てか俺帰れるのか?

 ———まぁ仕方ない。できることをしっかりやるしかないのだろう!やり切れる場を用意してくれたクロエに感謝しかない!

 ということで!寝るか!夢見ればきっと桃源郷!そう思って生きていけば少し幸せ。


 しかしそういう時に限って夢を見ない。

 そんなこんなで朝が来た。

 「起きてください!地獄へ行く時間ですよ!」

 「地獄なの?」

 「私が!」

 「知らねぇよ⁈」

 そんなこんなで起きます!起きます!

 とりあえず扉を開けると、なんか服を投げつけられた!

 ———洋服だ。青いワイシャツとベージュのベルト付きのズボン。かなりかっちりしている。

 「あなたずっとパジャマですよ」

 ———そういえばそうだ!あの激戦もずっとそうだ!アニメ化した時どうすんだ⁈これ!

 ということで急いで着替える。

 新しい服に着替えた時のひんやりした感触。二日ぶりだ。毎日味わっておきたいですよね。

 「ほらほら、さっさと朝食とったら列車に乗らないといけないんですよ!」

 「列車あるの」

 「ええ。長くて早い列車」

 「なら急がねば」

 食堂に急いでマルタさんと降りると、既にクロエは食器を残して消えていた。

 あの野郎!あんたおらんかったらどうしょうもないっちゅーねん!

 「かっこんでください!急いで!急いで!」

 目玉焼きとサラダとトースト!

 三十秒で全部食い終わった!こんなの初めて!ラピュタ!

 そのまんまバタバタと外に出ると、クロエが既に待っていた。

 「それじゃ、いったんお別れね」

 「ゑ?」

 

 「———魔術学園はね、全寮制なの」

 

 「え、じゃあ」

 「そう。一旦マルタとはお別れ」

 「そんな……」

 少し悲しい。これから長い付き合いになると思っていたのに!

 「……また会えますよw」

 そうすげぇニヤニヤしながら言うマルタさん。お前サボる気満々だろ⁈

 「また会いましょう。会えたら」

 「ええ。会えたら」

 ということで再び握手。

 ひんやりとした手だ。朝から仕事してくれたのだろう。ニートなんて言ってごめんなさい。

 「それじゃ、行くわよ」

 もちろん先に行くクロエ!

 「それじゃあ、また!」

 「ええ、いってらっしゃいませ」

 そう上品に、手のひらの指を揃えて振ってくれた。

 やはりあの人はプロなのだ。

 変な人ではあるけども。


 はい。というわけで皆さん。


 痛快娯楽劇にご期待ください!!!

 

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