第11話 Excuse me

 デパ地下のトンカツ屋さんで、何を買って帰ろうか、足元に重たい荷物を置いて、ショーケースの中を熱心に覗き込んでいたら、足元の荷物が後ろに倒れていたらしく、インバウンドらしき若い男性に、

「Excuse me!」

 と言われた。

 大手英会話スクールの講師を目指していたこともあった私だが、自分の実力、経験不足を思い知り、挫折して以来、英語ともどんどん疎遠になっていた。

 今や、英語には、SNSやYouTubeで触れるだけになっていた。

 男性はうっかり踏んでしまった私の荷物を私の方へ押し戻すような仕草をした後、先を歩く仲間と、洋菓子や和菓子を扱うフロアの方へと歩いていった。

 ーー礼儀正しいと言われる日本人でも、駅や、トイレの化粧室で、人にぶつかっても何も言わない。

 「すみませーん」と言って、子どもと喋りながら、座席の隙間が広がるのを待たずに座ってくるたくましいママもいる。座った後も、大袈裟な身ぶり手ぶりを加えて、子どもと喋り続ける。

 そういや、ずいぶん前、U田に行った時も、グランフロントのフロア案内を見ていた時に、私よりかなり背の高い白人女性が、私にぶつかったと思って、

「Excuse me!」

 と言われたことがあったっけ。

 国民性はあるかも知れないけど、礼儀正しさも人によるのかも知れない。

 以前、フランスに留学経験がある友達とフランスへ旅行したときに、

 「向こうの人は、自分の身体に対する意識が日本人より高いから、気をつけるように」と言われたことを思い出しながら、しばらく私は彼が去って行った方を見つめていた。

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