非日常4
『次に、過去に戻るときの注意事項を説明するよ。
注意することは2つ。』
『2つだけか。意外と少ないんだな。』
『まず1つ目。
持っていけるのは物事のとらえ方だけだ。それ以外は何も持っていけない。』
『物事のとらえ方?』
『そう。君はこう考えたんじゃないかい?
未来ではこの株が高値だとかこのコンテンツがヒットするだとか。
そういったものを予知したり投資したりすれば楽して億万長者になれるって。』
『ああ。でもそうじゃないってことなんだよな。』
『うん。そういった記憶は何一つ持っていけない。』
『・・・それがさっき言っていた制約ってやつか。』
『そうなんだ。だから君の世界には預言者は居なかったってわけ。』
『何一つってことは、今までの記憶はすべて無かったことになるのか?』
『そうなるね。
でも人生に絶望していた君が過去に戻れるだけ儲けものなんじゃないかい?
それはデメリットにはならないと思うけど。』
『そうかも知れないが、何も持っていけないんだとしたら、
また同じ人生を繰り返してしまうだけじゃないか?』
『ああ、そこは安心してよ。そうはならないから。』
『どういうことだ?』
『難しくなるから詳しくは説明しないけど。
君たちは一直線に同じ世界を生きているわけじゃない。
瞬間瞬間の選択肢によって無限の平行世界が存在している。
君が生きてきた人生はその中の一つだっただけなんだ。』
『ああ!ゲームや漫画でよくある話だな。
そんなことが本当にあったとは。
でも、俺が過去に戻っても、同じ平行世界の一つを選択するだけじゃないのか?』
『いいや、そうはならない。なぜなら君が生きてきた世界は消滅するからさ。』
『消滅?!・・・は?』
『そうさ。だから君が同じ人生を送ることは決してない。』
『消滅するってことは、、、俺の家族はどうなるんだよ?!友達だって・・・』
『少し言葉が極端だったね。その点も大丈夫。
君の選択肢が消滅するだけで、今までいた世界自体が消滅するわけじゃない。
だから、君の家族も友人も、その他すべての人間も消滅するわけではない。』
『そう・・・なのか。
じゃあ、その世界の俺はどうなるんだよ?
俺の意識は過去に戻るんだろ?そしたら抜け殻みたいになるんじゃないか?』
『本当に何も聞いていないんだね。
あのカセットテープのボタンを押した瞬間以降の人生は他の人間が買い取るんだ。
君の身体には買い取った人間の意識が入る。
だから抜け殻にはならないよ。』
『!!!?
え?!え?え?
じゃあ、、、じゃあ、今までの世界の俺は俺じゃなくなっちゃうってことか?』
『意識レベルで言えばそうなるね。』
『そうなるね・・・って・・・そんなあっさりと・・・
それじゃあ、その世界の俺は、もう俺じゃないじゃないか・・・』
『変なの。
人生に絶望していたんでしょ?なのに今までの自分に未練があるのかい?』
『そりゃあ・・・そうだろ?
どこの誰かもわからない人間の意識が俺のの皮を被って生活するってことだろ?!
そんな風に言われて、はい、わかりましたとはならんだろ・・・』
『ふぅん。そういうものなんだね。
まあでも、過去に戻って人生をやり直せば、そんな記憶も感情も持っていけない。
考えるだけ無駄じゃないかな。
ちなみに、ここに来た時点で今までの人生には戻れないよ。
仕方ないよね、君は契約書にサインしたわけだし。』
こいつは悪魔か?・・・
子どものような可愛らしい見た目だが、人間の感情や考えが通じない。
俺の身体に誰かの意識が入って生きていくだなんて・・・
母さんや父さん、学生時代の友人、会社の同僚、拓に愛・・・俺の大事な人たちと・・・
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