魔王人生 第1章 第3話 闇は語らず

神代が能力を開花させてから数日が経ち、大天使との戦いで受けた傷もすっかり癒えていた。

神代は次の行動を起こそうとしていた――


「ふぁ~……腰いてぇ……」

大きくあくびをしながら、神代はリビングへと向かう。 すると――

「おはようございます! 諌大さん!」


ナスカが朝早くから起きて朝食を作りながら、元気よく挨拶をした。

「今日は早いですね! 何か予定でもあるんですか?」

そう尋ねるナスカに、神代は腰をさすりながら答えた。


「……まぁな。大天使との戦いから時間も経ったし、傷も治った。能力の使い方もある程度わかってきたし、そろそろ動こうかと思ってな」

もちろん、外で見回っている天使兵を能力の練習がてら倒しに行くとは言えない。 大天使との再戦に向けての準備・・・

そう言いたいところだが、運動という理由で誤魔化しておこう。


神代はナスカには本当の目的を伝えず、軽く運動をするとだけ言い残し、外へと出かけた。


――その頃、天使の拠点では。

司令室では、天使たちが雑談を交えながら作業をしていた。


「そういえば、最近私たち天使と人間との交流を積極的に進めるって話、知ってる?」

「えぇっ!? ここの世界の人たちって面白いものを作るから、すごく楽しみ!」


天使Aと天使Bが楽しげに話していると、突然後ろから声がかかる。

「すごく楽しそうですね~! 私も混ぜてください!」


不意に会話に入り込んできたのはベルだった。

「ひゃっ!?」

「あははは~驚かせちゃいましたか?」

「いえ、気づかなかった私たちの方が悪いです!」


驚きながらも、天使Aはベルがここにいることを不思議に思った。


「しかし、ベル様がこちらにいらっしゃるのは珍しいですね。もしかして、ウリエル様にご用でしょうか?」

ベルは司令室を見渡したが、ウリエルの姿はなかった。


「そうなんですよ~……うーん、ここにはいないみたいですね~」

ベルは少し残念そうにしながらも、ふと話題を変えた。


「私の個人的な話ですけど……ミカちゃんたちが戦った彼、生きてますよ」


その言葉に、司令室の空気が一変する。

「ベル様! そ、それは本当ですか!?」

天使Cが驚愕しながら尋ねると、ベルは軽く頷いた。


「彼が逃げる際、私は背中をズバッと斬ったんですけど……その瞬間、一瞬だけど彼から魔力のようなものを感じたんですよね~。もし能力に目覚めているなら、自力で傷を治す手段くらい考えますよ。彼がの後継者なら、なおさらですね~」


ベルの言葉に、天使Bはすかさず反論する。

「ま、待ってください、ベル様! それだけでは神代という人間が生きている理由には……」

「――闇の衣ダークフォース

ベルがそう呟くと、司令室にいた天使たちは困惑した。


そこへ、ウリエルが静かに歩み寄る。

「よくご存知で。その能力は、かつて魔王が持っていた力の一つ。ただの能力ではないということが、わかりました」


その言葉に、ベルを含めた天使たちは驚く。

「ウリちゃん! 初めて聞きましたよ? どういうことですか?」

「その呼び方は……はぁ……。まあいいでしょう。あれは能力というには、いささか不可解な点が多いのです」


ウリエルは冷静に説明した後、ふと思い出したようにベルに告げる。

「ああ、それから。ベル様、あなたに神代諌大を捕獲するよう命令が下りました」

ベルはほっぺを膨らませながらも、不服そうに承諾する。

「……了解ですっ!」



――その頃。

神代は静まり返った街を歩いていた。

かつて車が行き交い、通勤や通学の人々で賑わっていた街は、今では天使の襲来により静寂に包まれている。


「本当に誰もいないんだな……」

そう呟きながら、見回りをしている天使兵に気づかれないよう、海の方へと移動する。



――闇の衣ダークフォース――


神代の身体に黒い紋様が浮かび上がる。

そのまま、近くを飛んでいた天使兵へ強烈な蹴りを叩き込んだ。


ドガッ!!


「ぐはっ――!」

天使兵は吹き飛ばされ、ビルの窓ガラスを突き破って地面に転がる。


「……」

やっぱり、この能力は異常だ。 普通のジャンプでビルの六階まで飛べるとは……。 まあ、着地しても足が痛くないだけマシか。

だが、これほどの力を持っていても、今の自分では大天使には到底及ばない。

修行を積めば、一ヶ月もすればミカエルやラファエルにも届くはず……。


そう考えながらも、次々と天使兵を相手取る神代。


すると少し遠くで人の姿を見かけ、物陰に隠れる

「!?」

誰だ? 天使兵にある「翼」は生えていない・・・

というか、俺以外にまだ人が居たのか?


神代はゆっくりと彼女の方に近付く


だが、その時。

「――あれっ!? 神代諌大くんじゃないですか! 探しましたよ~」


数十メートル離れた場所にいたはずの人物に、神代は一瞬で気づかれる。

「初めまして! 私は“女神”って呼ばれているナール・レスト・ベルです! ベルでいいですよ!」


神代は反射的に後退しながら考える。

こいつ……やばい。

俺の直感が告げている。


ミカエルよりも強い――


そして何より、目的が読めない。


「……なんで俺の名前を知ってる?」

神代の問いに、ベルは無邪気な笑顔で答えた。


「もちろんです! 私は大天使ちゃんたちからしたら上司みたいな立場ですから!」

神代は思考を巡らせながら、静かに逃げる策を探し始めた――


「・・・っ」

今、こいつと戦うのはマズい。

逃げるしかないが、家からここまではかなりの距離がある。

仮に戻れたとしても、こいつを振り切らなければならない。

正直、厳しいな……戦いの最中に、うまく身を隠せないだろうか。


「・・・――たんですか? お~い!」

気づくと、神代の目の前にベルが立っていた――



「――っ!?」

神代は反射的にベルへ攻撃を放つが、あっさりと躱(かわ)される。



「わぁおっ! すごく速いですね! でも、いきなり攻撃されるとは……」

ベルは少し残念そうに呟いた。

「いや、どう考えてもお前、敵だろ」

警戒を強めながら、神代は構えを取る――


「残念です。話せば分かり合えると思ったのですが……仕方ありませんね――」

ベルは腰の鞘から剣を抜き、構えた。


――


「ハァッ!!!」

先に仕掛けた神代の拳がベルの剣に受け止められる――


ドォォンッ!!!!!


ベルは衝撃を受け、思っていた以上の威力に後方の建物へと吹き飛ばされた。

「・・・いやぁ~、諌大くんは私たちが知っている以上に強いですね~!」


しかし、受け身を取り、無傷で立ち上がる。


「・・・」

そりゃあ、「闇の衣ダークフォース」のおかげで、ミカエルと戦ったときよりも身体能力が向上しているからな。


神代はそう考えながらも、間髪入れずに攻撃を続ける――


ドォォン! !ゴンッ!!!キィィン!!!!


破壊される建物、砕ける地面、ぶつかり合う剣と拳――衝撃音が周囲に響き渡る。


「フッ! ハァアッ!!!」

ミカエルと戦ったあの時よりも戦えている……が、何かがおかしい。


戦いながら、神代は違和感を覚えていた。

コイツが、俺に合わせて戦っている――?


ガキィンッ!!!!


神代とベルは距離を取る。

「・・・何なんだ、お前は俺を倒しに来たんじゃないのか?」

神代が問いかけると、ベルは軽い調子で返す。

「あははは~、そんなつもりはありませんよっ! ただ、諌大くんに興味を持っただけですから~」


神代は唖然とする。

「・・・は?」

こいつ……

お気楽にも程があるだろ!?

「興味を持ったから会いに来た」だと!?

ふざけんな・・・! こっちは命がけなんだよッ・・・!!


神代は冷静さを取り戻し、構え直す。

「テメェ……あのミカエルよりも強いだろ。 その気になれば、一瞬で俺を倒せるくせに、なぜやらねぇんだ?」


問い詰める神代に対し、

「そんなことするわけないじゃないですか……私を何だと思ってるんですか? 私は天使と人間のハーフ、【女神】に任命されたんですよ!」

ベルは少し怒ったように言い返した。

「・・・いや、ただの人間じゃねぇか。 天使の血が混じってるからって、人間じゃなくなんのか?」


「それは……っ」

ベルは言葉に詰まる。


しかし、神代の言葉がなぜか嬉しくもあり、同時に苛立ちも覚えていた。


「あのな、地位や権力を持っているから、姿が人間じゃないから偉い存在……だから何なんだよ。 意思疎通ができるなら人間じゃねぇか。 何が【女神】だ……馬鹿げた話だな」



神代は小さく呟きながら、その場を離れようとする――

「――待ってくださいっ!」



ベルは神代を引き止める。

「・・・私は、ある王国の王女の一人でした。 先程言った通り、私は天使と人間のハーフ……国民や他国の者から崇められていました。 毎日、朝から晩まで、願い事や懺悔、相談を聞かされ……天使の血を引いていたから、そんな扱いを受けてしまうのかと何度も思いました。 ですが、あの時――」


「――フンッ!」

ベルの話を遮るように、神代は容赦なく攻撃を仕掛ける。


しかし――

「―――うひゃっ!?」

ベルはあっさりと避ける。


「人が話してる時に、普通攻撃します!?」

「いや、そもそも戦闘中に話すなよ。 漫画じゃねぇんだから」

神代は呆れたように言い放つ。


「・・・チッ」

しかし、今の不意打ちを避けられたとはいえ――・・・っ!?

瞬間、神代の体に鋭い痛みが走る。

「っ……何だ、今のは?」

「どこを見ているんですかっ!!」


ドガッ!!!


油断した隙を突かれ、ベルの一撃が神代を吹き飛ばす。

勢いよくビルに激突する――

ガシャァァン! !パリンッ! パリンッ!!

崩れるデスクに割れる窓ガラスが飛び散る


「――っぶねぇっ!?」

辛うじて脱出するが、ベルの斬撃がビルを切り裂き、崩れ落ちる。



「くっ……!!」

ベルが突然、攻撃を激化させた。



……さっきから、体の内側を触られるような感覚がある。

気味が悪い……もしかして、限界が近い・・・?



そう思いながら空を見上げると――

「・・・あっ!?」

戦い始めてから、既に半日以上が経っていた。

「そろそろ……!! やべぇな・・・!!」


神代は攻撃を止め、地面に向かって拳を振り下ろす。



ドォォォンッ!!!!



土煙が辺りを覆う。

剣を振るい、煙を払うベルだったが、神代の姿は既にない。


「あちゃー、逃げられちゃいましたか……」



一方、神代は天使兵の警戒を掻い潜り、自宅へと急ぐ。

しかし――

「――――・・・っぐ……!?」

闇の衣ダークフォースの反動が全身を襲う。

凄まじい痛みに、神代はその場で膝をついた







第4話に続く――

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