Episode-1.

 2023年4月。


 まるで新しい門出を祝うかのように無数の桜たちが綺麗に咲き誇る中。


 真新しい制服に身を包んだ私は、念願だった神奈川県立明陵高等学校かながわけんりつめいりょうこうとうがっこうに入学した。






 ❇︎❇︎❇︎






 そして、入学式から5日後の放課後。


 バタバタしていたのが少しだけ落ち着き、私は坂口先輩を見るために体育館へとやって来た。

 

 果たして坂口先輩はいるのだろうか、ドキドキしながら中の様子をそうっ、と伺う。











 キュッ キュッ!!!











「ナイスパス!!!」


「そのまま決めろ!!!」


「ディフェンスしっかり!!!!!」




 






 体育館の中を覗くと、バスケットシューズのスキール音と熱の入った大きな声と共に、ボールを追いかけながらコートを走り回っている男の人たちの姿があった。


 端に寄せてあるボール籠には「明陵男子バスケットボール部」と、マジックで太く書かれている。


 どうやら今、私の目の前で汗水を垂らしながら練習をしているのが明陵高校の男子バスケ部らしい。


 運動部とは無縁に生きてきた私。


 バスケ部の練習風景を眺めながら感心していると、ある男の人の姿が目に入って来た。


 その人はバスケ部の中で1番背が高く、ガタイも良かった。


 おまけに顔もイカツイ。


 まるでゴリ……いや、止めておこう。


 とにかく、このバスケ部で1番存在感のある人だった。


 そして「あっ」と思った、次の瞬間。













 ドガアアアアアアッ!!!!!!











 そのゴツイ男の人が豪快にダンクを決めた。




「ゴリラダーンク!!!」


「誰がゴリラじゃ!!!!!!」




 そして「ドッ」と館内には笑い声が響き渡った。



 やっぱりゴリラなのか……でも、みんな仲が良さそうでいいなぁ、とホッコリした。







(……ところで……)







 あのゴツイ男の人に気が入ってしまったけれど。




「どこにいるんだろう……」




 小さく辺りを見回す……が、坂口先輩の姿が見当たらない。


 それどころか、名前すら聞こえて来なかった。


 坂口先輩は、中学では有名人だったみたいだから、高校ではキャーキャー騒がれていると思っていたのに……。


 私の予想とは裏腹に、騒がれているのは綾瀬隼人あやせはやとという、私と同じ1年生の人で、坂口先輩ではなかった。











 ……結局、最後まで坂口先輩らしき人が現れることはなかった。

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Tip Off! 南 梨香 @sae12345

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