第23話 揺さぶられる感情 センボウシャ(羨望者)
チトセははカントクシャにユイの情報と母親の
魂籍とは境界門を
なので境界門を潜っていないメイコンシャ、ホウコウシャとシンショクシャはもちろん記載されていない。それに
ここ数日、ミレの様子が明らかにおかしいとチトセは感じている。浴衣姿の写真を送ったが返信がなかった。代わりに、なぜかカコから合格の返信が来たのだ。変だとは思ったが、むやみに
授業中、先生がプリントを配る。前から回されてくる。ミレは受け取ると後ろの席の彼に回す。彼が受け取ろうと掴む。そして引っ張る。しかし彼女は手を離さない。
彼は強めに引っ張るが彼女の指から引き抜けない。不穏な雰囲気を感じた取った彼は力を緩める。しかし、指を離すわけにもいかず途方に暮れる。
先生が気付く。それで彼女に話しかけるが反応がない。それでチアキが振り向き話す。それでも反応がないので彼女はミレの肩を
チトセは受け取ることが出来た。フリントを見ると
昼食時間、あれから彼は考え込でいる。それで、彼の食欲は失せてしまっている。さっぱり理由が分からない。彼は勇気を振り絞り決断する。それはカコに連絡を取ることだ。
彼はスマホを取り彼女にメッセージを送る。するとすぐに返信が来た。チトセの高校まで出向いてくれるとのことだ。わざわざそうして下さるのだから、ただ事ではないのかと
「チトセ〜?」
「誰とメッセージのやり取りをしてるんだ〜い?」
「うっせぇ」
「彼女かい?」
「……キズナだよっ!」
「男同士でメッセージのやり取りなんて、むさ苦しいね〜」
「黙ってろ」
「仰せのままにぃ〜、チトセ〜」
「気持ち悪いんだよ」
二人のやり取りをチアキは聞いていた。彼女はスマホを取出し、とある人物にメッセージを送る。30秒もかからず返信が来た。それを見て彼女の表情が曇る。
放課後、彼は校門を左に曲がり歩き出す。しばらくすると立ち止まる。カコからのメッセージを待つためだ。そうしていると彼女から近くにいるとメッセージが来たので歩き出す。しばらくして彼女と合流する。
「待った? チトセ」
「全く」
「んっ、んっ。なんか忘れてない?」
「あっ……全く、カコ」
「よしっ! 早速で悪いんだけど話題に入ろっか?」
「ぜひ」
「そんなにミレって変なの?」
「物静かさが恐怖を掻き立てるといいますか。ここ数日、一言も会話を交わしてないんです。いつもなら難癖……あっ、何でもないです」
「なんとなくだけど予想は付いてるんだけどね」
「何なんです?」
「チトセの浴衣姿よっ、おそらく原因は」
「えっ、合格って返信くれたじゃないですか?」
「そうよ」
「なら、どうしてです?」
「欲しくなったんじゃない?」
「浴衣がですか!? あれ男物ですよっ?」
「違うよっ、もうっ。察しなさいよ」
「見当が付かないんですが……」
「仕方ないな。ヒントあげるね?」
「あっ、お願いします」
「あっ、やっぱ。その前に聞きたいことがあるの? 聞いてもいいかな?」
「あっ、はい」
「なんで下からのアングルで微妙に
――まさか! ユイのことを疑ってるのか? いや! 有り得ない。見えたのか? 彼女にはユイがいる時に会ってない
「言いづらいよね?」
――えっ……あり得るのか!
「まぁっ、見せなくないものねっ」
――偶然、ユイと自分を見たのか? いや、絶対に見えるはずない。ユイが声を掛けた小学生の子たちは同じ年頃だから惹き寄せられて見えたんだ。カコさんの年齢では有り得ない
「ズバリ言っていい? 申し訳ないんだけどぉ」
「いや、それは……」
「ダメでも、やっぱり聞きたい! 言うね!」
「ちょっと……」
「チトセってナルシストでしょ?」
「えっ……」
「やっぱ、そうなんだね?」
「…………」
「そういう年頃よっ。大丈夫、安心して。誰にも言ったり見せたりしないから。私はね、私は」
「あぁ、別にナルシストではないんですが」
「認めたくないものよね。でも、いつの日か若かったんだって笑える日が来るから気にしてないでっ」
「はぁぁ…………」
「あっ、そうだ! 今はミレのことが優先よ。そうでしょ?」
「ですね」
「ヒントいい忘れてたよね?」
「そうですね」
「じゃあ、言うね?」
「お願いします」
「雑誌とかでさ、素敵な服を着てる異性を写真とか見たりすることあるでしょ?」
「私はないですが」
「じゃぁ、見たと仮定するね。でぇ、その服を好きな人が着てるのを想像することあるでしょ?」
「いやぁ、ないですね」
「例えばチアキとかね」
「…………」
「そしたらさぁ、その服着てるチアキの欲しいと思うでしょ?」
「…………」
「スバリ! ミレは浴衣姿のキズナ君の写真が欲しいのよ。チトセがチアキの浴衣姿の写真が欲しいように。あっ、チトセの場合はチアキの制服姿かな? それとも私服姿かな? まっ、そういうことよ」
「…………………………」
「ちょっとぉ〜、聞いてる?」
「あっ、はい。なんとなく理解は出来ました。あくまで理解出来ただけですよ」
「はいはい、分かった分かった。本当は欲しいくせにぃ〜」
「ちがっ……何でもありません」
「でっ、どうしょっか?」
「と言いますと?」
「キズナ君の浴衣姿の写真を入手することよっ」
「あぁっ、そういうことですかぁ」
「チトセ?」
「何です? カコ」
「嫉妬してる?」
「私が嫉妬ですか?」
「キズナ君を
「えっ……」
「だって、そういう関係なんでしょ?」
「関係って何です?」
「そのう〜、キズナ君はチトセ……つまりチトセにとってのチアキってことよ。キズナ君の場合は」
「んっ?……違いますって!……って違います!」
「えっ、違うの?」
「もしかしてミレさんから聞いたんですか?」
「そっ」
「違いますっては違います」
「その言い方ややこしいからやめない?」
「それでいいんでしたら構いませんが」
「でさぁ? 本当に違うの?」
「違いますって!! 私はミレさんに否定しましたよ、ついこの間」
「その話聞いたよ。それでも疑ってたよ?」
「ハァ〜ッ」
「溜め息を付くと幸せが逃げるよ」
「お気遣いどうも」
「じゃあ、本当に違うのね?」
「そうですよっ!」
「分かった。信じるわ」
「それは良かったです」
「じゃあ、頼めないよね? 男が男に浴衣姿の写真を撮って送ってくれなんて」
「私が頼めば何とかなるかと」
「そうなの?」
「えぇっ。それに……」
「なに?
「言いますけど、誤解なさらないで下さいよ?」
「うん、分かった」
「実はキズナの浴衣姿の写真なら持ってます」
「やっぱり……」
「違いますって」
「この際、どうでも良いわ」
「だから違うんですって!」
「冗談じゃなぁ〜い」
「本当ですか?」
「ほんとよ」
「見せますね?」
そう言うと彼はスマホを取り出しフォルダを開く。そして彼女に見せる。
「送るのどれにしますか?」
「なんでこんなにいっぱい? やっぱり……」
「違いますぅて! 記念に十枚ほど撮ってくれって言うから連射機能ですぐ済ませようとしたんですよ。そしたら結局は連射機能にしたまま十回撮ったんです」
「でかしたわよ」
「あっ、そうですか。どれにしますか?」
「何を言っているの? 全部送ってあげるに決まってるじゃない」
そう言うと彼女は彼からスマホを奪い取る。そして操作をはじめる。その様子を彼はしばらく眺めている。
「よしっ! これで完了」
そう言った彼女はしばらくすると頭を上げ彼を驚愕したような目で彼を見る。
「この待ち受け画面は何?」
「えっ……」
「だから〜、この待ち受け画面は何だって言ってるの?」
「それがどうかしましたか?」
「どう考えてもおかしいでしょ?」
――んっ? どういうことだ? まさか! ユイが見えてるのか?
「ちょっとぉ〜、無視?」
「もしかして見えてます?」
「見えるも何も当たり前じゃないのっ! もしかしてバカにしてる?」
「いえ……」
「なんで部屋の写真なんか待ち受けにしてんのっ。明らかにおかしいじゃないっ!」
「あぁ〜、そういうことでしたか。安心しました」
「なに安心してるの。どういうことなら、おかしいのよ」
「…………」
「やっぱりナルシストなのね?」
「えっ……」
「もしかして、これ自分の部屋?」
「そうですが」
「重症だわ。自撮りに飽きて部屋とは。高度過ぎるわ」
「はぁ……」
「この待ち受け写真の部屋を背景に色んなポーズを決めている自分を妄想しながら自分はイケメンだと自分に陶酔しているんでしょ!」
「………」
「顔も良くて高身長でスタイルもいいからって調子乗るんじゃないのっ」
「えっ……」
「んっ…………」
思わず言ってしまったのだ。カコは頬を赤らめる。そして彼女は俯いてしまう。そうしながらも気まずい状況を変えたい。しかし、なぜ自分が好きでもない奴に気を遣わないといけないんだと段々ムカついてきた。
「チトセッ!!」
「なっ、何でしょう? カコ」
「この右の拳が
――いきなり何なんだ! 情緒不安定なのか? いやっ、まさかの中二病なのかっ!? そういや、ミレさんが近所に中二病がいるとか言ってたような〜。もしかしたら彼女なのかっ?
「チッ、チトセ。どっ、どうすればっいいの?」
「どっ、どうしたらいいんでしょうね? カコ」
「分かってくれないの?」
「残念ながら、ちょっと分かりかねますかね」
「おっ、お願いしたら聞き入れてくれるっ?」
彼には中二病の取り扱い方が全くもって分からない。それでどうすべきかと思い悩む。とてもカコはそんな感じかしなかったので戸惑ってもいる。
二人を様子を見ている者がいる。それはチアキだ。今、見始めたばかりである。チトセを付けていた訳ではない。カコと駅で約束していたのだ。カコはミレのことがあり、すっかり忘れてしまっているのだ。
チアキは駅へ向かっている途中で偶然二人を見たのだ。引き返そうとも思ったが気になって仕方なかった。それでカコが来た方向へ少し遠回りし、道を出た所の電柱の陰に隠れて見ている。
今の彼女には正面を向いたチトセと後ろ姿のカコが見えてるのだ。二人の声が聞こえてくる距離である。
「チトセ?」
そう言うと彼女は握り拳を作る。そして彼の胸を軽く叩く。彼には何が何だか理解出来ない。
「最近、ミレから習ってるんだぁ」
「何をでしょうか?」
「だからこれよ」
そう言うと彼女は再び彼の胸を先程よりは強めに叩く。それでも彼は理解出来ない。痺れを切らしたように彼女は彼の顎に拳で触れる。ようやく彼は理解出来た。
「習い始めたんですね?」
「そっ、そうなのよ」
「どのくらいですか?」
「一週間前くらい前からかな?」
「そうなんですね」
「そうっ。でさっ?」
「何です?」
「受けてくれないかな?」
「何をです?」
「これよ」
そう言うと彼女はまた彼の胸を叩く。彼は彼女がしてみたいことを理解する。
「あのう〜」
「何? チトセ」
「初心者がそれやると痛めると思いますよ? カコ」
「大丈夫。ミレから、きちんとやり方習ったから」
「でもですね。痛めたりでもしたら、ミレさんから報復を受ける可能性が。私の友人を傷付けた罪だと言われて」
「大丈夫だって。ミレには絶対に言わないから。たとえ痛めたりしてもね。私たち二人だけの秘密よっ。ねぇ? チトセ〜」
「でもですね、カコ」
「お願い、付き合ってよ〜」
そう言うと彼女は手を合わせる。そして何度も両手を
「もし、やるにしても
「大丈夫だよ。ここは人通りが少ないから」
そう言うと彼女は周囲を見回し始める。チアキは慌てて電柱に隠れる。チトセも見回す。
「いないでしょ?」
「ですね」
「付き合ってよ〜っ、チトセ」
「分かりましたよ」
「んっ、んっ」
「分かりました、カコ。お付き合いしますよ」
「嬉しい〜。よろしくね、チトセ」
「……はい、カコ」
「じゃぁ、今からお願いねっ。チ・ト・セ」
ふと彼は思う。名前を一字ずつ切って言う呼び方はミレにも言われたのを。その時、チアキがいたことを思い出す。それで彼は背後を見る。そこには誰もいない。彼は安堵する。
「こんな所にいるはずもないかぁ」
「どうしたの?」
「いや、何でもないです」
「付き合ってくれるんだよね、チトセ。
「もちろん付き合いますよ、カコ」
「じゃぁ、するね」
そう言った途端、彼女は殴った。彼は心の準備と受ける為に力を入れてなかった。それにしても思いの外、カコのパンチが強烈だった。しかも
一瞬、彼は呼吸が止まり前のめりになり頭を下げる。咄嗟に彼はカコの両肩を掴んでしまう。
その様子をチアキが見ている。彼女からは二人の顔同士が重なり合っているように見えてるのだ。彼女は二人がキスをしているのだと思い込んでしまう。すると前身の力が抜けていき彼女は電柱に
「チトセッ!!!」
その声の主はチトセが振り向く間もなく飛びつき両腕を首に絡みつかせる。そして両脚で彼の腰を挟みロックした。そうしたのはミレだ。
その声に茫然自失としていたチアキは正気を取り戻す。チトセは首が締まり次第に息がしづらくなっていく。
「しかと受け取ったぞぉ。私の想いを受け取ってくれ、チトセ〜ッ」
「ちょっと離れなさいよっ、ミレ」
「なんでよ? カコ。今日はチトセを離さないのっ!」
「嫌がってるじゃない」
「嫌でも関係ないのっ。今の私の気持ちなんだから」
チトセの顔が赤くなっていく。このままだと大変だと思ったカコがミレを彼から引き剥がしにかかる。
「チトセ君!!」
その声の方へとチトセは顔を向ける。ミレとカコもそうする。ミレは彼の背中に乗ったままだ。しかし、突然の大声に彼女は腕の力を無意識に緩める。
彼らの前方に眉間に皺を寄せ鋭い目つきで口を
「チトセ君!!!!」
「…………あっ、はい」
「私の大切な友人を天秤にかけて気持ちを
「チアキ! 一体どうしたのよっ?」
「ミレはそれでいいのっ! この男はカコにキスしたのよっ!!」
「してのかっ!」
その問いに彼は答えられない。なぜなら、突然のチアキの言葉に呆然としているからだ。
「ホントにしたの!? カコ!」
「するわけ無いでしょ!! こんな好きでも何でもない男と」
「そうよね」
「嘘つかないで、カコ」
「チアキ?」
「私、告白してたの聞いてたんだからねっ!」
「誤解だって! チアキ」
「ミレの前だから、そう言うしかないんでしょ!」
「違うんだって! チアキ、話聞いてよ」
「私、頭がおかしくなりそう。だから聞けない。そこの男の人!!!」
チトセに彼女の声は届いてない。返事させないとマズイと思ったミレが強めに彼にビンタする。すると、彼は正気を取り戻す。
「聞こえないの! 私はその程度の存在でしょうけど」
「……いえ、聞こえてます」
「今のミレのビンタをしっかりと受け止めて! ミレは深く傷付いてるのよっ!! それほど酷いことをしたのよ!!! 自覚しなさいよっ!!!!」
「これは違うよ、チアキ?」
「違わないよっ。私が代わりに言ってあげるからねっ、ミレ。そこの男の人!!!」
「……あっ、はい」
「アンタは人間の
そう言うと彼女は背を向けて走り出していく。ミレが彼から飛び降りる。そして、呆然としている彼に先程より強烈な一発をお見舞いする。彼は我に返る。
「吉報を待ってろ、チトセ」
「えっ……」
「吉報を待ってろって言ったんだ、チトセ。じゃあなっ!」
そう言い残し手を振った彼女はチアキの後を追う。最初の彼女の一言目、彼は悲報の聞き間違いだと思っていた。彼は悟る。からかわれているのだと。ミレにとっては自分のこの状況は吉報でしかないのだと。
カコが不意に彼の手首を指で掴む。彼は咄嗟に手を引っ込める。彼女に目をやると不敵な笑みを浮かべる。彼はミレにも前にそんな表情をされたことを思い出す。そんな笑みには嫌な思い出しかない。
「脈ありだね」
――んっ? 疑ってるのか? 私の正体を確かめたのか? ミレさんの友人だし、彼女も独特の雰囲気があるしな
今の彼はチアキに投げつけられた言葉で頭が混乱し思考が貧弱になっている。だから、そんなことを考えてしまっているのだ。いや、現実逃避というべきかもしれない。
「もしかしてぇ〜、照れてるの?」
「そっ、そうですね。女性に触れられるなんて滅多にありませんし」
「ハァ〜ッ」
「どっ、どうしました?」
「なんでもないよ」
「……あっ、はい」
「とにかく頑張って、チトセ」
そう言うと彼女は彼の背中をパンと叩く。彼は前に
「返事はなし? なら応援できないかな?」
「なっ、何をでしょうか?」
「走り出さなきゃ! チトセッ」
――あぁっ、体育祭を見に来て応援してくれるのかぁ〜
そう彼が思っていると再び背中を叩かれる。また、
「ぜっ、ぜひお願いしますね」
「なんか忘れてない? 私たちの約束あったでしょっ?」
「あっ、ぜひお願いしますね、カコ」
「まかせてぇ。じゃあ行くねっ、チトセ」
「お気をつけて、カコ」
「サンキュ! チ・ト・セ」
そう言うと彼女は彼に手を振った後、二人を追いかけていく。彼は手を上げ彼女の後ろ姿を見送る。声を
翌日からチアキは教室の後ろ扉を一切使用しなくなった。
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