最終話 ボロボロの帰還
“お嬢さま”の
“ゲス野郎”は気絶しているが、かろうじて動ける“わけ知り顔”はベルトをはずし、座席から這い出る。
時間は、夜明けまえであった。
太陽こそまだ出ていないが、うっすらと、空が明るくなっている。
「屋敷が、くずれていく……」
“わけ知り顔”の
「“カタブツ”さん……“お嬢さま”……」
くやしげに“わけ知り顔”が独りごちていると、「おーい」とどこかから呼びかける声がある。
「こ、この声は……まさか!?」
“わけ知り顔”がクイッとメガネをあげると、そのレンズの奥にうつるのは……“カタブツ”と“お嬢さま”であった!
地下のガレキが積み重なって階段のようになっているところを、ふたりで支え合いながら、慎重にのぼってくる。
「ぶ、ぶ、無事だったんですね!?」
「ああ……メカ畳が、最期のちからをふりしぼって助けてくれたんだ……」
「で、ではメカ畳氏は……」
その問いかけに、“お嬢さま”が黙って首をふる。
それを受け、“わけ知り顔”はひとりしずかに
「それにしても、みんな……あまりにも
“わけ知り顔”の言葉に、みんなそろって笑った。
「それでも、命があることを感謝しなければな……」
「本当に、そうですわね……。さしあたって、どう帰るかが大きな問題でしょうか……」
「た、たしかにバスのエンジンも喰われてしまい、動かすことができません……。ど、どうしましょうか。デス畳がいなくなったから、なんとか歩きますか?」
「“ゲス野郎”がとくに重傷だから、連れていくことは難しいだろうし、比較的動けるぼくが急いでもどって、助けを呼んでくるか……」
と、今後の対応を協議していたところ、「オーイエス!!」という
「あ、あの声は……まさか“不沈艦”と“
そう、地下へとおもむく際に、別行動を申し出てバスへとこもっていた“不沈艦”と“
声のもとへと向かうと、洋館の入口に置いてあったバスがはげしくユサユサと揺れている。
「この大きなバスをも揺らすとは……なんというおそるべきピストン運動……」
“わけ知り顔”がメガネをクイッとあげながら、ゴクリとつばを飲む。
そのときであった――
「オーウ、カモンカモンカモン! イエェェェェェス!!」
と、“
そして見よ。バスがロデオの暴れ馬もかくやというほど前後に跳ね、“不沈艦”の「んぬわぁぁぁ!!」という絶頂の声にあわせるように、目もくらむばかりの光の柱が立ちのぼったではないか!
バスは、動かぬようおさえていた車どめ(“ゴリラ”が人間にはとても動かせぬ岩を置いてくれていたものである)さえもついに乗り越え、ゆるりと、タイヤがまわりはじめた。
ほんの少しずつ、バスが前進していく――
「い、いかんバスが動き出すぞ!」
「え、え、どうするんですかとめるんですか?」
「――いえ、ここからかなり長くくだり道がつづいていたはず。むしろこれに乗って行けるところまで行きましょう!」
3人が顔を見あわせてうなずくと、座席ごとはずせたため手早く“ゲス野郎”を
“わけ知り顔”は先にふらふらとバスのステップへ足をかけ、
「おとりこみのところ、失礼いたしまぁす!」
と絶叫した。
ちょうど一戦終えて息をついていた“不沈艦”と“
「えっ、あっ、ごめんうるさかった!?」
「いやまあうるさいかどうかでいったら
「アタシはかまわないわよ」
「こちらがかまうんですっ!」
なんとかふたりを説きつつ、
(フィクションでしかありえないと思っていた発射回数、やはり、ただものではありませんでしたね……)
バスはくだり坂へと入り、どんどん加速していく――
「う、運転はどうする!?」
「す、すみません私は普通免許ももっておらず……“カタブツ”さんはどうですか!?」
「普通免許はもっているが、中型免許はもっていない……ええい! さっき『最初で最後の無免許運転』とタンカを切ったのに恥ずかしいが、やむをえない。道路交通法違反だ。今度こそ“カタブツ”人生最後の無免許運転だッ!」
“カタブツ”が運転席へドカリと座り、曲がりくねった山道をハンドルを切りつつ、スピードをころしすぎないようにしつつ突き進んでいく。
これが最後どころか、今後も
“お嬢さま”は疲れはてた、でもどこか満たされたような表情を浮かべながら、“カタブツ”のとなりに座った。
“ゲス野郎”はふと顔を起こし、「こいつ絶対死ぬだろ、と思わせて最後まで生き残る、それがこのおれ“ゲス野郎”さ」と不敵に笑うとまた気を失い、あまりにも疲弊したのであろう、“わけ知り顔”は
29人でおとずれた合宿は、もはや6人にまで減ってしまった。
しかし、それでも彼らは生きのびたのだ。
やがて太陽がのぼり、世界は明るく晴れやかになってゆく。
その光は、エンジンをなくしてなお必死に走るバスと、どんな建物だったかいまはもうわからないひとつの屋敷を、どこまで等しく照らして――
〈完〉
【サメ映画和風アレンジ】デス畳 - DEATH TATAMI - 七谷こへ @56and16
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