第47話 最終決戦5


「な、なにか、ないでしょうか」


 “わけ知り顔”は、研究室を見回すが、これまでの戦闘で壁はえぐれ、機械は壊れ、まともなものはないように見えた。

 いわんや、この劣勢をくつがえすものなど、見つかろうはずがない。


「お、“お嬢さま”、無事ですか……っ」


 遠くでたおれる“お嬢さま”へと声をかけるが、やはり反応はない。

 大声を発し、少しでも這い寄ろうとする、ただそれだけのことでデス畳の殴打おうだを二度もまともに浴びた全身には激痛がかけめぐった。


「なぜ、私は、こんなにも無力……」


 “わけ知り顔”の目に涙がにじんだのは、嘆きのためか痛みのためかわからぬ。

 あるいは、死が眼前がんぜんへと迫ってきている恐怖のためか。

 そんな彼の耳に、合成音声のはげましがとどいた。


『あきらめては、いけないデス……』


 声の主は、むろん――メカ畳である。


『ワタシは、デス畳を、殲滅せんめつ……します』


 デス畳が余裕の表情で挟み、メカ畳が懸命けんめいに押しとどめ、一進一退の攻防をくり広げている。


『それがワタシの……存在理由……』


 デス畳が、タミ、タミ、とあざ笑う。


「ふむ、なら、このままつぶして存在を消してしまえば、理由もいらなくなるな。楽に……してやろう」


 そう言って、圧力を増す。

 メギ、というメカ畳のボディのはがねがきしむ音が、きこえた。


『楽になることを、望んでなど……いないのデス。マスターの、歴代メカ畳の無念を……晴らす!』


 メカ畳は、ふわふわと浮遊していた手裏剣オプションを自身の前面に格納すると、今度は猛烈な勢いで目前のデス畳へと射出しゅしゅつした。

 射出しゅしゅつと格納を高速でくり返し、ズドドドとデス畳のおもて殴打おうだしつづける。


「ム……」


 人間でいえばボディブローの執拗しつような連撃によってひるんだデス畳であったが、しかしいまはメカ畳を破壊する好機でもある。

 連日ジムに通う筋トレ愛好家がシックスパックを誇負こふするように、ぎゅっと殴打おうだされているあたりに力を集中してこらえ、同時にメカ畳を圧殺あっさつしてしまうべく挟む力をさらに強化してゆく。

 とうとう、メカ畳の後面こうめんに――ピシリとヒビが入った。


「メカ畳さん!」


 “わけ知り顔”の悲鳴もむなしく、メカ畳の劣勢はくつがえせない。


「タミ、タミ、どら、もう少し……」


 デス畳は、ますますメカ畳を追いつめてゆく。

 そのとき――メカ畳の内部から、キュインキュインという音がひびいた。


『チャージ……開始』

「これは……先ほどのレーザービーム!?」


 “わけ知り顔”はさけんだ。

 メカ畳の大きなひとみが、丸みを帯び、あやしげな光を放ちはじめる。


「この至近距離で喰らっては、さしものデス畳氏もただではすまないはず……!」

「……タミ!」


 デス畳は、くやしそうにペッとメカ畳を吐き出し、距離をとった。

 メカ畳は多少ふらつきながらも着地する。

 が、キュインキュインという音はじきにおさまり、ビームが出てきそうなけはいもない。


「ど、どうしたんですか!?」


〈エネルギー残量不足デス〉


 “わけ知り顔”の問いに答えるように、機械音声がエラーメッセージを吐いた。


「タミィ……ただの、ハッタリか」


 デス畳が、いまいましそうにつぶやいた。

 メカ畳は、もくして語らぬ。

 その対応に、ただ余裕のなさだけが、うかがえる。


「まあいい……キサマをつぶす方法など、いくらでもある。そうだな、サービスだ。弟が唯一つかえた奥義、キサマが正面からとめてみせたアレを、いま一度見せてやろう。オレも、あの奥義のあとではそう自在には動けん。耐えればキサマの好機、通ればオレの好機……どうだ?」


『……受けて、立ちますデス』


 メカ畳が応じると、デス畳がニヤリと笑った。

 デス畳のまわりに、どす黒い瘴気しょうきが漂いはじめる。

 少しの前傾姿勢をとったあと、デス畳が――低く、気合きあいを発した。


「奥義、〈雷?いいえあれは畳デス・ワイルドスピード〉」


 あまりの超スピードに、デス畳の姿が一瞬でかき消える。

 “わけ知り顔”がどこへと視線をさまよわせていると、気づいたときには、すでにメカ畳の眼前がんぜんへと到達していた。


『秘技、〈炯眼なる女王の侍衛メカ・マルマルシールド〉』


 対するメカ畳は、その言葉とともに、その場で真球しんきゅうが完成したかと思うほどなめらかに、美しささえ感じる超回転をしてみせた。


 いうなれば、最強のほこと、最強の盾とがぶつかる――


 爆発的なエネルギーが、ぶつかり合い、まざり合っていく。

 そののち――メカ畳の球体は、崩れない。

 同時に、デス畳の突進がとまった。


「とめたッ!」


 “わけ知り顔”が爆風にあおられながら、壁を背にして拳をかため快哉かいさいをさけんだその直後、ブン、というぶきみな音が生じた。

 デス畳のからだが、その場でこまかく振動し、ぶれているような……


 耳をつんざく、ズドドドという道路工事のドリルのごとき騒音が部屋に満ちたのは、少し遅れてのことであった。

 目をこらせば――まさしくドリルがコンクリートを粉砕していくように、すさまじい回数の連打がメカ畳のシールドに叩きこまれているではないか!


 そのままデス畳は残像をのこしてぶれつづけ、やがて、ピシリとメカ畳のシールドが割れてゆく……

 ついに、デス畳のからだはメカ畳へと到達し、轟音ごうおんとともにメカ畳を思いきりぶちのめした。


「この奥義の真の姿は、超スピードによる連撃れんげきだ……弟のごとき、一発で終わるものではない……」


 ゆらりと、幽霊のようにたたずみながら、デス畳が言いはなった。

 メカ畳は、“お嬢さま”のすぐそばまで吹き飛ばされ、こわれた機械のごとくバヂバヂと電流をほとばしらせている――

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