第35話 “可憐”、ミニ畳の出生の秘密を知る
“可憐”は室内にあったイスに座り、この騒動がはじまって以来のゆったりとした気もちでこりかたまった足をもみほぐしていた。
(すぐに起動できなかったのは想定外だけれど、どうにかなりそうね……)
ドアのスイッチの近くに
少しでも情報を仕入れておくため、問いかけた。
「ねぇ、この部屋の入口の扉なんだけど、あそこ重すぎない? あなたのご主人は、あれを毎回開けてたの?」
『……質問の意図がわかりかねます。部屋番号8にある洋タンスの、裏の壁に金庫が設置してあり、そこを開けると先ほどのものと同じ形状のスイッチがあったはずデス。それを押せば30分間扉がひらくしくみになっていますので……それで開けてきたのではないデスか?』
「あー、スイッチがあったんだ……。わからなかったから、こじあけてきちゃったの」
『あの厚い鉄の扉を? ゴリラレベルの腕力がないと不可能ではないデスか?』
と
「あはは! ゴリラレベル、ふふ、そうかもね。本物もいたしね。くく、そうね、じつはゴリラが2体いたのかもね……」
『……?』
妙におかしげに笑いつづける“可憐”を、自由に動けたならば首でもかしげるようなそぶりを見せたメカ畳。
“可憐”はひと息ついたあと、ふたたび質問を投げかけた。
「ねぇ、デス畳って、あれはなんなの? どうしてあんなものが生まれたの?」
『理由は……わかっていないのデス。ご主人もその点について追求したものの、解き明かしようがなく断念しておりました。ただ……時点は判明しております。デス畳が最初に命を奪ったのは、マスターの
「
『そのとおりデス』
「被害にあったのは、全員? 生きのこりはいなかったの」
『全員、殺害されたと聞き及んでいます。ご主人がデス畳を
「その時期に、あなたたちの開発をはじめたってことね」
“可憐”は、小さくうなって、あごに手をあてた。
そうしていると、ひしっとメカ畳にしがみつき、「たみぃ」とほおずりするようにこすりつけているミニ畳が目にとまる。
「……そういえば、その子、やたらあなたにしがみついてるけど、畳同士でひかれあうものでもあるの? そういう性質?」
『……ああ、この子は、私のこどもデス』
「ああこどもだから……」
と応答したあと、限界まで目を見ひらいて
「いや畳のこどもってどういうこと!? 今度こそ交尾!?」
『今度こそ……? 正確に表現しますと、この子は6代目メカ畳のこどもと推測されますデス。ワタシと6代目は、エネルギー源以外は同じ構造をしていますので、おそらくワタシを母と誤認識してくっついているのでしょう。ふふ……しかし、こうしていると機械にすぎないワタシの胸に、ないはずの母性が芽生えてくるようデスね……』
(どこが胸だ……?)
いぶかしげに眉をひそめてから、“可憐”はなにも言わずに近づき、しけじけと二体を観察する。
『この子のフチをご覧いただければ、機械がまじっているのがわかるはずデス。内部の多くは機械で、表面をいぐさがおおっているにすぎないのデスが、少し中が見えるでしょう』
「あっ、たしかに、なんか鉄みたいな金属がある……。じゃあこの表面のいぐさは、ぜんぜん別のものをくっつけてるだけってこと?」
『それは……この子の父のいぐさです。父というのは、新デス畳のことデス。ワタシにしがみついてくれているので、先ほど成分分析をしてみましたが、99パーセント超の確率でまちがいありません。つまり、新デス畳と6代目メカ畳のハーフが――この子なのデス』
「デス畳と、メカ畳の……」
“可憐”は「なにを言ってるかまったくわからん」とさけびかけたが、さすがに本人でもない7代目メカ畳に疑問を
「なにを言ってるかまったくわからん!」
と絶叫した。
そうして、ひとつの大いなる疑問がむくむくとふくれあがり、そのかれんなる胸のうちをぐちゃぐちゃにかき乱してゆく――
(畳同士って、どうやって交尾するの……?)
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