その屋敷、空き家のはずでした。──なのに。
- ★★★ Excellent!!!
「見てはいけないものを、見てしまった。」
山を切り拓いてできた奇妙な土地、そこにぽつりと建つ大きな屋敷。
白と黒の鯨幕が張られたその光景。
まるで現実から浮き上がったかのように異様で、圧倒的な不気味さを放つ。
この物語は、「見てはいけないもの」に触れてしまった語り手の視点から進みます。
しっとりと湿った描写、静かに迫る不穏さ、不意に視線を合わせてくる喪服の群れ。
何が起こっているのか、何が「真実」なのかは明言されません。
それでも、読んだ後にふと背後が気になる。そんな物語です。
何より恐ろしいのは、「確かに、葬式はあったのだ」と繰り返されるその言葉。
それは安心ではなく、不条理への突入を告げる呪文のように響きます。
ホラー好きにはたまらない、音のない恐怖がじわり染み込んでくるような一編。
ぜひ、静かな夜に読んでみてください。