25年ぶりの再会 第3話

 翌朝、ニュースで「廃ビルで男性の遺体が発見された」と報じられていた。

 私は、テレビの音量を下げたまま、画面を見つめていた。

 画面には、あの廃ビルに警察官が出入りしている姿が映し出されていた。


「警察は、事故の可能性が高いとみて、捜査を続けています」


 そう言ったアナウンサーの声は、どこか他人事のように淡々としていた。


 仕事も休みだというのにスマホが鳴った。

 知らない番号。だけど、末尾が0110。多分警察だ。

 私は深呼吸をしてから、通話ボタンを押した。


「もしもし……」


「小山朱音さんですか?」


「はい……」


「私、徳島県警察中央警察署の松田と申します。少しお話を伺いたいのですが、中央署まで来られますか?」


 予想通りだった。

 私は落ち着いた声で返事をした。


「はい。わかりました」


♢♢♢


 警察署の応接室は、思ったよりも静かだった。

 ただ、取調室にいきなり入れられるよりかは、茶色いソファーのあるこの場所がまだマシだ。お茶にお菓子まで用意している。


 刑事は2人。年配の男性とまだ若い女性。中川経一なかがわけいいち阿部京子あべきょうこ

 さしずめ、年配男性は女性の教育係か何かで、彼女の聴取を補助する役割。私の正面に座ったのは女性だった。

 後ろから男性がまた1人遅れてやってくる。


「お待たせしてすみません。私、先ほど連絡をさせていただきました松田です」


 渡された名刺には「刑事課捜査1係 警部」と書かれていた。

 事情聴取されることを予見して、警察組織を調べていた。刑事課捜査1係は、殺人や強盗など凶悪事件の捜査を行うと書かれていた。

 私が殺したと疑われているのか。


「ああ、僕は聴取の記録を取るだけなので、気にしないでください」


 応接室の端に座り、パソコンの画面を見られないように背面をこちらに向けていた。

 女性の聴取が始まった。


「橋本さんとのご関係は?」


「彼とは高校の同級生です。当時はお付き合いをさせていただいてました」


「橋本さんとは、どうして会ったのですか?」


「10年ぶりに同窓会が開かれていて、そこに参加していました。彼はずっと県外にいて、同窓会の参加も久しぶりでした。なので、再会したときは驚きました」


「同窓会が開かれていたようですが、途中、どうして2人だけ別行動を?」


「久しぶりに会えたので、2人で話をしようと私が誘いました。昔話をしたくて、つい誘ってしまいました」


「どこに誘ったのですか?」


「近くの居酒屋です。大吉というお店です。同僚とよく行くお店で、料理が安いので選びました」


「店を出た後は、何をされてました?」


「2人で、取り壊し予定のビルに向かいました」


「どうして、取り壊し予定のビルに向かったのですか?」


「あそこに昔、よく行っていたカフェがあったのです。懐かしい思い出があったので、取り壊される前に彼と向かいました」


「どちらが誘ったのですか?」


「彼の方からです。彼は建築の仕事をしておりまして、解体予定だということも私は初めて知りました」


 女性刑事は、メモをとりながら頷いた。


「その後何かありました?」


「そのあとは……」


「ゆっくりで大丈夫です。嫌なことを聞くかもしれませんが、詳細をお話しください」


「彼が……彼が……」


 涙を流すふりをした。

 声を震わせることも忘れなかった。

 刑事は、私の顔をじっと見ていた。

 視線を合わせようと見られていたので、俯いて嘘がバレないように顔を隠した。


「彼が……私を、襲おうとしたんです……」


 震わせている私の手をとり「大丈夫」と女性刑事は言った。


「具体的に、どのようなことをされましたか?」


「彼に、首を絞められそうになったのです……私は怖くなって、抵抗しようとしましたが、彼には敵わなくて……押し倒されそうになった時に、彼を叩いたのです。そしたら、彼が私の頬を叩いて……本当に一瞬でした……その一瞬に隙ができたと思ったので、外に逃げ出しました……それからのことは、よく覚えていません。お酒も入っていて、記憶が混乱してしまっていて、すみません……」


「大丈夫です。疑っているわけではなく、状況を聞きたいだけですから。丁寧な説明ありがとうございます」


 この女性には嘘が通用したと思う。そうでなければ、ここまでのことはしないだろう。

 男2人は、何も言わないし、何もわからない。でも、彼女が調書を書いたら、私の言葉が全面的に受け入れられるだろう。だって、彼は……橋本は死んでいるのだから。


「今日はこれで終わりにします。また何かありましたら、こちらから連絡します。ご協力ありがとうございました」


 私は、静かに頷いた。

 この瞬間、何かが確定した。

 この事件は、事故として処理される。

 私の思い通りになる。


 ♢♢♢


 警察署を出て、私は空を見上げた。

 空は曇って、太陽は隠れていたが、雨は降っていなかった。

 不穏な、生暖かい風が髪を揺らした。

 排気ガスも混じって、臭く、煙たい。

 事情聴取は終わっているはずなのに、どこか見られている気がして、足早に警察署を後にした。

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次の更新予定

2026年1月20日 18:00 毎日 18:00

25年ぶりの再会(ホラー短編集) 倉木元貴 @krkmttk-0715

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