第25話 ホラー耐性MAX
「今度はこれやろ!」
双葉が勢いよく指さしたのは、巨大モニターに「最恐ホラーシューティング」と赤文字で書かれたゲームだった。文字の周囲には血飛沫のようなエフェクトが散っており、どこからどう見てもただの遊びとは思えない雰囲気を醸し出している。
「……大丈夫か、それ?」
俺はつい反射的に問い返してしまう。というのも、ついこの前の椎崎との一件が脳裏をよぎる。彼女も好奇心からホラーに手を出して、結果的に絶叫の嵐。こっちは周囲の視線が痛すぎて、二度とあんな目に遭いたくないと誓ったばかりだ。アトラクションならまだしも、ゲームセンターでの絶叫は本当に逃げ場がない。
「え、この程度でビビる人いるんだ?」
双葉はまじまじとこちらを見て、不思議そうに小首をかしげる。だが俺は、確実に“その程度で叫ぶ人”をひとり知っている。
「……とか言って、お前もどうせ叫ぶんだろ」
「うーん、それは……否定できないかも」
そう言って双葉は頭をかいた。ほんのわずかに頬が赤くなっていて、照れ笑いが混じっている。
「ならやめようぜ」
「やだ。耐えるから。お願いっ」
彼女は腰を折って小さくお辞儀した。だがその顔には“ここまでやってるんだから付き合ってよ”と書いてあるような、したたかな笑みが浮かんでいる。
「はぁ……叫んだら俺だけ出るからな」
「それでいいよ、ほんとに!」
しぶしぶプレイ席に座り、コインを入れると、筐体が低く唸りを上げながら起動した。画面には薄暗い廃病院が映し出され、埃っぽい空気と重苦しい静寂が伝わってくるようだ。これは想像以上にリアル……。
「じゃあ、シューティングは任せたよ。私、見る専門ってことで」
「見る専門? なんだそのポジション」
「だって、私がやっても当たらないし~」
選んだ理由がますます謎だが、とにかく集中して一気に終わらせるしかない。そう思った矢先――
「あほーねぇ、あれゾンビー!!」
耳をつんざくような大声が響く。だがその叫びは、怖さから来るものではなかった。
「血すっご!!グロいのにキレイ!!」
声のトーンからして、興奮しているのが明らかだった。どうやら彼女の“叫ぶ”は、怖くてではなく、テンションが上がりすぎた結果らしい。
「ねぇねぇ!あそこ撃って!撃ってってば!」
興奮した双葉は俺の腕をつかみ、激しく揺さぶってくる。
「無理だって、狙えねぇ!」
「あっ、ごめんごめん!」
慌てて手を離し、彼女は少し後ろに座り直した。表面的には落ち着いたふりをしているが、視線をやると彼女の肩が小刻みに震えているのがわかる。怖いのを我慢してる――というより、アドレナリンが出すぎて震えてる感じだ。
そんなこんなで、3ステージ目まで順調に突破。
「りんくん、うまいんだね」
「FPSとかやるからな。操作には慣れてる」
とはいえ、さすがに知らないゲームはキツい。集中力もそろそろ切れそうで、ゲームオーバーの気配がちらつき始めていた。
「なるほどね~」
双葉の反応がさっきよりだいぶ薄い。
「おい、飽きてきたろ」
「そんなわけ……ないでしょ? 面白いし……こわいし……」
どこか棒読み気味な返事。さりげなくスマホを取り出し、通知を確認している。さっきまでのテンションが嘘みたいに落ち着いているのは、ゲームの怖さに慣れてきたせいだろう。
「……あー、負けた」
4ステージ目でゾンビの大群に囲まれ、弾切れのタイミングで一気にゲームオーバー。無理ゲーすぎる。
「終わったぞ」
隣を見ると、双葉は目を閉じていた。
「あ、終わった? おつかれ~」
のんびりとした口調であくびをかみ殺す。完全に寝ていた。よくこの音量で寝られたな。
「怖くなかったか?」
「うーん……まぁ、結局は作り物だし。あくまで映像だからね。でもリアルさはすごかったよ。遊園地の人形ばっかのお化け屋敷よりは全然楽しい」
……こいつと椎崎を一緒に行動させるのは、やめた方がいいな。双葉が何かに誘えば、椎崎は間違いなく断らない。そうなった時、ふたりのテンション差でトラブルになるのは目に見えている。
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