第12話 恐怖大変
ホラーアトラクションの中に入った俺たち。あと少しだってところで、椎崎が唐突にホラー苦手宣言をぶちかましてきた。まさかここまで来て言うとはな…。俺たちは果たして無事に帰れるのだろうか。
「絶対手を離さないでくださいよ!」
「わかってるって」
二人席のトロッコに乗り込むと、椎崎は俺の肩に両手をがっちり掴み、ガタガタと震え始めた。その震えが伝わるほどの力強さだ。本当にこいつ、ホラー苦手なんだな。
「動きました!!うごきましたよ!」
「いいから落ち着け」
ここまで怯えられると、逆に面白く感じてしまう。本人は必死なんだろうけど。そんな中、トロッコはゆっくりと廃病院の中へと吸い込まれていく。
「暗いし、音もないです!」
椎崎は目に映るすべてを逐一俺に報告してくる。その度に肩をガクガク揺らすのはやめてほしい。
「あ、あそこ!誰かいますよ!」
薄暗い手術室に差し掛かった瞬間、椎崎が叫ぶ。ベッドの上には人影がうっすらと見え、そのシルエットが徐々に起き上がり始めた。
「い~の~ち~を~よ~こ~せ~」
「いやぁぁ!!!」
椎崎は悲鳴を上げながら一気に俺の胸に顔を押し付けてくる。その勢いでトロッコから落ちそうになり、慌てて俺もバランスを取る。
「ちょっと待て!落ちるって!」
「無理!いや!もう帰る!!」
残念ながら、そういうシステムはこのアトラクションには存在しないんだよな。
椎崎の震えはますます強くなり、服に涙が染み込んでくるのがわかる。仕方ない、頭を撫でてやるか。
「大丈夫だから。ほら、もうすぐ終わるって」
俺が言うと、少しずつ呼吸が落ち着いていくのが伝わってくる。この瞬間だけは、妹をなだめてる兄貴みたいな気分だ。普段の堂々とした態度はどこへやら、小動物みたいに縮こまっているこいつを見ていると、不思議と愛着すら湧いてくる。
「絶対離さないでくださいよ!!」
「だから俺を落とそうとしてるやつが言うセリフじゃねえって」
トロッコはまだ先へ進む。このままだと俺も気が休まらない。
「ほら、一旦落ち着け。してほしいことがあるなら、極力なんでもしてやるから」
「助けてください!まず音です!耳を塞いでくれれば…解決です」
…音が怖いなら、ここに来る意味の九割は消えるんだが。
「わかった」
俺は両手でそっと椎崎の耳を塞いでやる。すると、それだけで椎崎の震えが嘘みたいに収まった。
「このままでいてください。あったかいです…」
椎崎は完全に落ち着きを取り戻し、トロッコの揺れに身を任せている。どうやら、廃病院モチーフのエリアで安らぎを得るという前代未聞の体験をしているようだ。
「あと少しだから我慢しろよ」
「……」
返事がない。完全に音が聞こえてないらしい。まあ、これでゆっくりアトラクションを楽しめるな。
暗闇に浮かぶ廃病院の陰鬱な雰囲気、グロテスクな視覚演出、そして不意打ちの音響効果。その全てが織りなす恐怖は半端じゃない。これを一人で体験するとなると、俺でもためらうレベルだ。
それにしても、椎崎、本当に何も反応しなくなったな。…いや、まさか。そっと肩を揺さぶってみるが、返事がない。さらにほっぺたを軽くつねってみるが、それでも反応なし。
「…おい、嘘だろ」
確認するまでもない。こいつ寝やがった。トロッコの中で、この最恐アトラクションの中で、安らぎを得た挙句、寝やがった。
「はぁ…」
もういい。俺だけでもこの恐怖を存分に味わってやる。仕方ないから、こいつが起きたら感想でも聞かせてやるか…。
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