もしもそばにいられたら

牙崎鈴

1 

逃げていた。暗く、湿っぽい路地を、死に物狂いに。

追っ手は見当たらない

何から逃げているのかはわからない。

とにかく走っていた。

息が荒くなるのも、汗がどれだけ噴き出してきても、それでも走っていた。

突き当りの角を曲がり、行き止まりに当たったところでようやくそのは止まった。

道に倒れこんだ。

息はまだ荒く、でもその子供は歓喜に満ちていた。

子供はスリだった。

毎日のように通行人から財布を盗み、それで日々の生活をしていた。

今日はその中でも最も大きな大金を盗めていた。

それが子供にとって喜ばしかった。

この金で、どのくらい生きられるだろうか。

子供は期待していた。

「それはだめだろう。」

不意に、背後から声がした。

背筋が凍り付く。

慌てて振り向くと、そこに人がいた。

長い、女性と間違えそうなほど腰まで伸ばした赤髪に、ジャケットを着こんだ男の人。

腰に刀を三本差していた。

男はスリをされていたのだ。

子供は慌てた。

殴りかかろうと腕を振りかぶるが、よろけて倒れこんだ。

無理もなく、子供はまだ何も食べれていなかったのだ。

男は子供を見下ろし、やがてかがみこみ手を差し出した。

「ねえ。」

子供が顔を上げ、男を見た。

その目は怯えと、諦めが混じっていた。

それとは対照的に、男の目には親愛に満ちていた。

「私と一緒に来ない?」







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もしもそばにいられたら 牙崎鈴 @akihiro1306

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