第70話 連行
「みんな下がるんだ。僕が対応する。」
困り果てたその時、エントランスの奥からその声が聞こえてくる。
俺が顔を上げると、そこには会長とイムニス、イグルムの三人がいた。
全員制服に着替えており、他の子と違って気を引き締めているのがわかる。
「か、会長…!だめです!こんなやつに会長のようなお方を、近づけさせる
「大丈夫。僕が強いのみんな知ってるでしょ?いいから、僕に任せて。」
会長が真ん中にいた女子生徒の頭を撫でて、至近距離でその顔を見つめる。
あれは王子様と呼ばれるのも納得だ。事実、女子生徒の方は顔が真っ赤になっている。
「ひゃ、ひゃい…」
それを見て頷くと、会長はこっちに近づいてくる。
「で、誰だい。僕たちのお家に入ってきた不届き、者、は…」
そう言いながら俺と目を合わせる。お互いになんとも言えない空気が流れた。
「ども…イリスを送りに来ました。」
俺がそう言うと、会長は隣のソファで寝かされているイリスを見る。会長は少しの間、顔を片手で覆いながら上を見る。
「…僕、レイプ魔が現れたって聞いたんだけど…?」
こっちに向き直ると、会長は立ったまま俺に質問してくる。
「図書室でイリスと一緒に勉強してました。司書の人が証人になってくれるかと。」
横にいたイムニスが追加で質問する。
「扉を突き破って侵入したっていうのは?」
「普通にノックして反応がなかったから、扉を開けた。」
更にイグルムが質問を重ねてくる。
「えっと、下着泥棒だ、っていうのは?」
「それ、今初めて聞いた事なんだけど。俺の謹慎中にそんな事あったのか?」
俺の言葉を聞いて、三人が顔を見合わせる。
「どう思う?」
イムニスは会長の裾を掴みながら俺の方を指さしてくる。
「会長、お兄ちゃん枯れてるからありえないよ…私の魔眼にも、嘘はついてないって感じだし。」
「私も、放課後よく二人きりで居ますが、襲われたことなんてないですし…」
二人の意見を聞いて、会長は俺の方を見てくる。というか、誰が枯れてるだ張っ倒すぞ。
「はぁ…一応、身体検査だけさせてほしい。それで何もなかったら、解放すると約束する。全く…君には驚かされてばかりだよ…」
「わかりました。すいません。」
会長はやれやれといった様子で二人に魔法の解除を命令する。
そして、集まっていた女子生徒たちに何かを話していた。
「ねえ、お兄ちゃん知らないの?男子生徒はここに近づかないっていう暗黙の了解があるんだよ?」
イムニスは俺に小声でそんなことを教えてくれた。当然知らない。
「何それ…クラスで完全に孤立してる俺が、そんな事知ってると思うか?」
「あ…うん、ごめん…」
イムニスはそれで何も言わなくなってしまった。そんな可哀そうなものを見る目をするな。泣きたくなってしまうだろう。
「ルーカスさんは入学して早々に謹慎でしたからね。知る機会がなかったのも無理はないです。」
「お前はいつでも優しいな。嬉しいぞ、イグルム。」
味方をしてくれるイグルムを、俺は微笑ましく見守る。
「えへへ。」
そして、全ての拘束を解除し終わる頃には、人だかりは解散していた。
「じゃあ、最後は身体検査か。誰がやるんですか?」
それが終われば晴れて俺は自由の身だ。
俺がなんの気なしにそう言うと、いきなり周りの空気が変わる。
なんというか、三人が獣のような殺気を放っている。
「お兄ちゃんのことなら、私に任せてくれていいから。二人は帰っていいよ。」
イムニスはそう言いながら俺の首根っこを掴もうとする。それをイグルムが素早い動きで止めた。
「あはは。姉さん、何を言っているんですか?私がやるに決まってるじゃないですか。」
イムニスとイグルムがお互いに睨み合う。獣人なので尻尾の毛が逆立っているのが見て取れた。ガチで睨み合っているのだ。
「二人共帰るんだ。これは生徒会長たる僕の仕事だよ。」
そこに会長が待ったをかける。
「!」
「!」
うん。二人共、気持ちはわかるよ。クッソ怖い。会長が今まで全く本気で怒ってなかったことが、瞬時に理解できた。
普段ののほほんとしている姿からは想像もつかないほどの迫力が出ていた。
「会長、お兄ちゃんを独り占めするのはズルいよ…!」
イムニスが獣化の魔法陣を展開する。もしかしなくても、これってヤバい奴なのではないだろうか。
俺は低姿勢のままイリスの方に徐々にズレていく。
「それを言うなら姉さんもですよ。彼は私の後輩なんですから、盗らないでください。」
イグルムは杖を構える。魔法書を召喚して、それに魔力を込め始める。イグルムが魔法を使う姿は初めて見るが、あれが彼女の武器らしい。
「ふーん。二人共偉くなったね。まとめて掛かって来い。」
会長は自分に身体強化の魔法を掛ける。
「シールド。」
俺はソファのイリスを抱きしめて周りに固定シールドを張る。
次の瞬間、二人が会長目掛けて同時に攻撃を仕掛けた。
イムニスがものすごい速さで突っ込んでいき、イグルムがそれを魔法で援護する。
隙のないいいコンビだ。イムニスは上昇した身体能力で、床を蹴って会長に飛びかかる。凄い速さで俺は目で追うのがやっとだった。普段の俺との稽古の時とはスピードも鋭さも段違いだ。
そして、会長はというと────。
二人の攻撃を簡単に躱しきった。そして、それぞれに一撃ずつ入れて気絶させる。
「三人を運んであげて。」
会長は振り返ると、後ろの廊下に控えていたメイドたちにそう告げる。
「じゃあ、行こうか。ルーカス君。」
俺は笑顔の会長に腕を掴まれると、そのまま強引に引っ張られる。
「ど、どこに…?」
俺は怯えながら無理やり立たされる。
「僕の部屋。さーて、どこまで見せてもらおうかなー?」
俺はその舌なめずりを見て、持っていた微かな希望を手放す。
今日は帰るのに時間がかかりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます