第33話 初陣
「クソ!こいつもハズレか!」
俺は短い杖と共に魔族の分身を殺して回っていた。だが、どれだけ殺しても核ごと消滅していく偽物ばかりだ。つまり、どこかに本物の核を持った奴が居る筈なのだ。
オルカンの方で仕留めてくれているならまだいい。問題は別の村に逃げられた時のことだ。
その場合またやつは人間を殺して回るだろう。もっと言うと一番近い村はノノベ村だ。そこには俺の大切な人たちがたくさんいる。絶対に行かせるわけにはいかない。
もしもやつを逃がせば、これから先、村人はずっと奴の脅威に怯えることになる。
そんなこと許せるわけがない。俺はできる限り急いで本体を探していった。
私はベッドの上で目を覚ます。ルー君が出て行ってからまだ半日しか経っていない。だというのに、仕事もまるで手に付かない。
私は寝間着姿でベッドに腰かけて、髪を整える。窓際にはルー君が置いて行ってくれたヴァ―レンがいる。私はこの子を撫でて心を落ち着かせる。
外ではいつもと変わらない日常が流れているのに私は何をしているのだろうか。こんなことではだめだ。
「ヴァ―レン。仕事場に行こうか。」
「グルゥ…」
私はヴァ―レンを窓際に待たせて、着替え始める。ルー君はすぐに帰ってきてくれる。そう約束したのだ。ならその間、私もしっかりしなければ。私が仕事をしなければこの村の物流に小さくない影響が出てしまう。
寝間着を脱いで下着姿になっていると、急に部屋の扉が開かれる。
「こ、ここか。やっと見つけたぞ。」
そこには私が世界一嫌いな男、ダニエルがいた。
「…女の人の家、しかも部屋にまで入って来て、何様なの。」
「うっさいなぁ!あいつがいない今ヤることなんて一つだろうが!!」
私は服を手にしたまま窓際まで下がる。
「お、俺を下着姿で待ってるなんて、そっちもその気だったんだろう?今、ご希望道理にしてやるよ。」
男がズカズカと歩み寄る。私の腕を掴もうとしたその時、窓のさんで寝ていたヴァ―レンが目を覚ます。
「グラァ!!」
その鳴き声に驚いたのかダニエルは尻もちをつく。
「うわっ!?なんだこいつ!?なんであの雑魚のトカゲがこんなところに…!」
ヴァ―レンは飛び出して、私を守るように男に威嚇する。今の発言でルー君をも馬鹿にされていると気が付いたのだろう。
「ダニエル、あなたのことなんて待ってるわけないでしょ。気持ち悪いから早く出て行ってよ。」
私がそう言うと、ダニエルは急に剣を抜いて暴れ始める。
「俺に口答えするな!そんなちっさいトカゲなんてぶち殺してやる!はははは!今日はあの雑魚がいないんだぞぉ?泣いて土下座するまで犯してやるからな!!」
ダニエルは怒りと共にその下半身をいきり立たせながら迫ってくる。ヴァ―レンの口からは、我慢の限界と言わんばかりに炎が漏れ始めている。
「きゃああああ!」
だが、そこで窓の外から、村人の悲鳴が聞こえてくる。
「なに…今の…」
私はダニエルを無視して、窓の外を見る。
窓の外では赤い霧が発生していた。そして、その中心に何かがいる。
そこには一体の黒い化け物が村人を殺して回っていた。まるで殺すことを楽しんでいるかのように、村人の反応を見て笑っている。
「な、なんだあのキモいの…」
「どいて!行くよヴァ―レン!」
私は怯えているダニエルを押しのけて手に持っていたワンピースを着ながら部屋を出る。当然、ずっとルー君との練習の日々を過ごしてきた杖も忘れない。
瞬時に理解した。私が魔法を学んできたのはこの日の為だったのかもしれない。
危機に直面している村人たちを守るために私はヴァ―レンと共に外に駆け出した。
外は阿鼻叫喚の地獄だった。そこら辺に死体が当たり前のように転がっており、とても現実とは思えない。それも全員顔見知りが死んでいるのだ。
私は恐怖ですくみそうになる足を動かして、黒い化け物の方に走っていく。
「ヴァ―レン。お願いがあるの。私はいいから。村の端でみんなを守ってあげて。」
ヴァ―レンは頷くと、すぐに小型化を解除して空中に飛んでいく。そこで咆哮を上げて、化け物とは反対側に飛んでいく。
「皆さん!今すぐヴァ―レンの後ろに避難してください!私たちが守ります!だから、早く逃げて!」
私は声を荒げながら村の中を走る。窓から見えた黒い化け物は村の兵士が囲んでいた。周りには剣を持った他の兵士の死体がたくさんあった。
「…っ!皆さんも早く逃げてください!こいつは私が何とかします!」
「ダメだ!マリーの方こそ早く逃げるんだ!こいつは普通の魔物じゃない!」
化け物はこちらに気付いたのか醜い笑顔のまま振り向く。
「キキキ!弱い、弱いぃぃ!やはりあいつが異常なだけだぁ!」
その化け物は爪に着いた血を払うと、楽しそうに喋り始める。
「こいつ、言葉を話せるのか!?」
「なんなんだこいつは…!」
私は杖を構えて戦闘の準備をする。
これが私にとっての実戦。負ければみんなが死ぬ。
絶対に退けない!
「私が相手よ!」
落ち着いて、ルー君に教えてもらったことをすればいいだけ。
私の、私たちの生死を賭けた戦いが始まった。
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