第17話 再会

 俺は両親から受け取った小銭袋を机の上に置く。

 中に入っているお金は銅貨が二十枚。俺の好きな果物が一つ銅貨三枚くらいの値段だ。これだけあればある程度の価値のあるものまで買うことが出来る。

子供に持たせるには大金だ。

 これほどの出費、両親としても用意するのは簡単じゃなかっただろう。

「これは使い所を考えなきゃだよななぁ…」

 とりあえず俺は手に入れたお金を引き出しの中に入れておく。

 明後日は狩猟祭だ。何か変わったものがあったら買ってみるのもいいだろう。そして何を買ったのかを両親にきちんと報告して、感謝を伝えるのだ。

 それが今の俺に出来ることだ。

 俺は明日やることを考えながら、布団の中で眠りについた。


 家の手伝いを終わらせた俺は、いつもとは違って村の中をふらふら散策していた。みんな明日に迫った狩猟祭に向けて、準備で忙しそうだ。

 何をしようか迷っていると、父親が向こうから歩いてくる。

「あ、お父さん。何してるの?」

 お父さんの方に駆け寄ると、俺のことを抱っこしてくれた。

「おお、ルーカス!外で遊んでたのか?いやなに、最近ちょっと魔物の数が多くてな。今日は少ない方だが、念のため魔道具の点検をしてたんだ。」

「ほえー。なんか大変だね。手伝…」

 『手伝えることある?』と言おうとしたとき、俺は巨大な魔力の反応を察知した。 

 バッと振り返り、戦慄する。

 不味い。

 俺はこの大きさの魔力を持つ存在を知っている。

 一つは竜。世界に広く生息している最強の魔物。その種類は多岐にわたり、水中にいるものから高い山に住んでものまで様々だ。

 もし近づいて来たのが竜だったのなら、こままま静かにしておけば滅多に攻撃してこない。竜は最強だが、同時に事なかれ主義の奴らが多いからだ。その長い生のなかで戦うことに飽きた個体は、大体自分から襲っては来ない。

 問題はもう一つの存在だった場合だ。前世で何度も何度も戦い、俺の仲間の命を沢山奪っていった怪物。

 それは魔族だ。

 この世界の生態系に存在していない、外側からくる異形の存在。前世ではこいつらのせいで何度死にかけたか分からないくらいだ。面白半分で命を貪っていくやつらは、世界の敵と言っても過言では無い。

「ルーカス、どうしたんだ…?」

 俺はお父さんの言葉を無視して空を凝視する。

 どっちだ?

 どっちが来る?

 もしも来るのが魔族だった時は、もう正体がどうとか言ってる場合ではない。今の手持ちの戦力を使い切る覚悟で挑まなければ勝てないだろう。いや、それでも死ぬかもしれない。

 だが、やるしかない。ロムルス程度の強さでは魔族には歯が立たない。それこそ欲を言えばアスティア程度の戦力が五人は欲しいところだ。

「大変だ!竜が飛んで来たぞ!」

 俺はその村人の声を聞いて、すぐに空を飛ぶ大きな存在を目視する。そして、その見覚えがある特徴に俺は唖然とする。


 飛んできた竜は左腕がなかった。全身を青い鱗で覆っており、大きな翼を広げながら森の奥に向かって行った。そして、その全身に負ったおびただしい古傷。忘れるわけがない。


 俺はお父さんの腕の中から脱出して、あいつが飛んでいった方に走り出す。

「おい、ルーカス!どこに行くんだ!」

「待てロムルス、村の安全を確かめるのが先だ!お前の息子なら普段から賢いって自慢してただろ!信じるんだ!そんな子が竜を追いかける訳がない!」

「だが、くっ…!わかった!」

 後ろからお父さんの声がしたが、俺は無視してあいつを追いかけ続ける。だが、速度が違い過ぎる。

「クソ!見失って堪るか!こちとらお前に言いたいことなんて山ほどあるんだよ!!身体強化!加速!」

 俺は無詠唱で自身に強化を掛ける。これで多少速度の差はマシになった。まだ目視できる距離にいる。

角を曲がって、森の方に走っていく。村人が、全員村の中心に避難していく中、俺一人だけが、逆方向に進んでいた。

「ルー君!?どこ行くの!?」

そして、その道中、子供たちを避難させていたマリーとすれ違う。

「俺は大丈夫!マリーはみんなと避難するんだ!」

「ルー君!」

 俺はすぐに視線を空に戻し、森の中に入っていった。


「広場に集まって!戦える奴は厳戒態勢のまま待機だ!」

 俺は広場に避難してくる村人たちに呼びかけ続ける。少し待っていると、ローナも広場に走ってくる。

「ローナ!大丈夫か?怪我はしてないか?」

「あなた、ルーカスがいないの!ここに避難してきたか知ってる!?」

 俺はその言葉を聞いて青ざめる。さっきルーカスは村の外側に走っていった。まさか、本当に竜を追いかけて行ってしまったんだろうか。いや、気になったことはとことん調べる子だ。ありえない話ではない。

「ロムルスさん!ローナさん!大変なんです!ルー君が!」

「マリーちゃん、何か知っているのか?」

 話を聞いたところによると、ルーカスはすごい速さで森の中に入っていったらしい。

「ルーカス…普段は良い子にしてくれていたのにどうして…」

 ローナが泣きながら両手で顔を覆う。ルーカスはこれまで一度だって言いつけを破ったことはなかった。他の家の子がすぐに森に入っていくので、叱るのに苦労していると聞いて驚いたくらいだ。それなのにこんな時に限ってどうして森の中に行ってしまったのか。

「ルー君、『俺は大丈夫』って言ってました。何か考えがあるのかもしれません。でも、流石に一人は危険すぎます!ロムルスさん、ローナさん、私がルー君を探してきます!」

 マリーちゃんが森に向かって走り出す。

「それはダメだ!マリーちゃんはここに居るんだ!俺が…」

「ロムルス!魔物が来るぞ、構えろ!」

 仲間からのその声で、俺は素早く剣を握る。そこには竜を見て逃げてきた数匹の魔物が、魔物除けを突破して村に侵入していた。

「ロムルスさんはみんなをお願いします!」

「マリーちゃん!クソ…!すまん!ルーカスを頼んだ!」

 息子のことをマリーちゃんに託し、俺は抜剣する。


 仲間と共に迫りくる魔物に対峙していった。

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