第 1話 異世界に行ってみた
9月某日・・・ 東京 江東区北砂・・・
スマホに目をやると、少し前に着信があったようだ
電話の主は祖母からだった ちせは祖母に電話を掛けた…
「もしもしおばあちゃん なあに?」
「ちいたん(ちせ)にお願いがあって電話したの」
「だから何よ?」
「おばあちゃんも長くはないからさぁ…
ちいたんの誕生日のプレゼントも、いつまで渡せるか分かんないからね…」
「ま~た始まった… 〇なないように、私の為に頑張って生きなさいよね!
それでお願いって何なのってば?」
「今はもう誰も住んでないおばあちゃん
不用品をスマホで売るヤツ、ちいたんやってるじゃない
欲しい物があったら、全部持って行って売って良いから
売れたら、お金も全部あげるよ」
「全部貰って良いの?」
「良いよ~ 要らないのは、全部ゴミとかで捨てちゃってよ
粗大ゴミだったら、コンビニでシールを買って貼らないと持って行かないからね
掛かったお金は、後でちゃんと返すから」
「ふ~ん… 暇な時にやってあげるよ…」
「不要な物売ったら、そこそこ良い稼ぎになると思うけど…
それでもお金に困ったら、ケンちゃん(ちせの母の兄 ちせの伯父)
に相談すれば良いから
お金儲けの方法だったら、聞けば色々と教えてくれるはずだから」
「分かったよ… それはもう何回も聞いてるよ!」
「じゃあおばあちゃんは、ステーキランチに行くからね ばいなら~」
「ステーキランチかよ! ばいならって…」
ちせは、普段から不思議に思っていた…
おばあちゃんもケンちゃん(伯父)も働いてはいないが、お金はたんまり持っている
そのお金の出どころは… 良く分からなかった…
「ママ~ おばあちゃんたちって、なんであんなにお金持ってんの?」
「おばあちゃんたちのお金? さぁね、ママは知らないよ 何で?」
「おばあちゃんは働けないけど、ケンちゃんも仕事してないんだよ
それなのにさ、いつも良い物食べてんじゃん
今電話したんだけど、ランチステーキ食べに行くんだってさ」
「ママは分かんないよ… ケンちゃんもフリマとかオークションをやってるって
聞いた事はあるけどね… そんなに売れてるとは思えないけど…」
「・・・」
数日後・・・
ちせは日曜日に、祖母の家(空き家)の片付けに来た・・・
「使わない家があるってのは、勿体ないねぇ~
どうせなら、私にくれたら良いのに… 基地として使ってあげるのに…」
「これは売れそうだな… これは… 要らね~!」
独り言を言いながら、ちせは順調に部屋を片付けていった…
昼になり、昼食用に買った弁当を食べ始めた時に、1つの箱が目に入った
その箱には、これ見よがしにメモが貼ってあった・・・
"ちいたんは使用禁止"・・・
「私は使用禁止だと~! プンスカ! 一体なんやねん? モグモグ…」
ちせは箱を開けると… レバー式のドアノブとデジタル腕時計
一対の指輪にカードが数枚 商品のチラシが1枚入っていた・・・
「ケンちゃんが昔遊んでたカードゲームかな? モグモグ…」
カードは全部で5枚入っていた
一般的なトレーディングカードのように、絵と説明が書かれている
ノーマルスキルカード 3枚
【インベントリ+2枠】 スキル【インベントリ】の枠を2枠拡張できる
【ストレージ+5枠】 スキル【ストレージ】の枠を5枠拡張できる
【アイテムスタック】 同一アイテムを自動で"同枠"にまとめる事が可能
(インベントリ及びストレージ内に収納しているアイテムに限る)
※アイテムの収納数の上限は、1枠につき1個
スタックする事により、1枠の上限数は999個まで収納可能
※同一名称のアイテムであるならば、同枠に収まる
しかし、状態の悪い物や量の違いなどあっても、同枠に収まってしまう
特殊スキルカード 1枚
【アイテムカードメーカー】 持ち運びできるアイテムをカード化する事ができる
カードを破く事で実際のアイテムに戻る 再びカード化する事も可能
※カード化できる1日の上限数は100枚まで 保持できる総枚数の上限はない
※持ち運びできない物(荷馬車や建造物など)はカード化できない
※
異世界に生息する魔物や動物に限りカード化が可能になる
カード化するには、対象の魔物より総レベルが上回っている必要がある
人間や亜人はカード化できない
スキルカード以外のカード
【召喚状:ワイバーンLV1】(コスト20)を1度限り召喚する事ができる
実物のアイテム
【腕時計】 デジタルの表示が、"13時12分"で止まったままになっている
【一対の指輪】 とてもきれいな指輪だ
【ドアノブ】 下げてドアが開くタイプの、レバー式のドアノブ(片側)だ
【リアル箱庭ワールド ナッシュトルティーヤの夜明け】 取扱説明書"…
"新規プレーヤー参加者募集中!" "下記の番号までご連絡下さい"…
"今ならランダムでカードが3枚ゲットできます!!"
「ゲームするのに、いちいち電話しなきゃいけないのかよ… メンドイ…
でもカード3枚貰えるし… 高く売れるかも知んないから… 電話してみるか…」
ちせは記載されていた番号に電話を掛けた…
「トゥルトゥルトゥル… もしもしどちらさん?」
「あれ… NT事務局さんですか?」
「あっヤバ… えへん、えー お電話ありがとうございます NT事務局です」
「あの~ 新規プレーヤー参加者募集中ってチラシを見たんです カードゲームの
今ならカードが3枚貰えるって書いてあったんで…
それでお電話したんですけど…」
「お嬢さんはゲームとかやるのかい?」
「そうですねぇ そこそこですけど・・・」
「ゲームのような世界に、興味はあるのかい?」
「ゲームのような世界?」
「今、【異世界モノ】って流行ってるでしょ? そんな世界なんだけども」
「【ドラゴンファンタジェン】のテーマパークみたいな感じですか?」
「そうそう! でも、あれは作り物でしょ こっちは本物なんだよ」
「本物?ですか… カードゲームでしょ?(ヤベぇ~奴かも… 嫌だな…)」
「おじさん怪しくないからね… 今回の募集は最後の1人なのね
普通のトレカのゲームとは大分違うんだよ だから、注意点が幾つかあるんだよ」
「どんな?」
「まずはメリットから説明するよ
1回きりじゃなくて生涯行き来できるんだ
アニメの異世界モノって、最初行ったっきり帰って来れないのが難点でしょ?
でもこれは、好きな時に行って好きな時に帰れる これが最大のメリット」
「・・・」
「次に、発展途上の世界だから、お嬢さん次第で街や国が発展する可能性がある
やり方次第では、逆に衰退したり滅亡もありえるから危険だ
君自身が国を治めたり、王子様と結婚する可能性もあるよ
当然、目立たずにのんびりと異世界生活を優雅に過ごす事だってできるんだ」
「異世界生活…」
「次が注意点 その異世界では、死ぬ可能性があるって事」
「!?」
「ここの世界と違って、本物のモンスターがいるんだ モンスターは超危険だからね
王様に不敬を働けば、捕らえられて牢獄に入れられちゃうかも知れない
とは言えこの世界だって、交通事故や天災の可能性もあるじゃない?
どっちが危険かなんて、一概には言えないでしょ?」
「まぁ、そうですけどね…」
「剣と魔法の世界なんだけど、残念ながら参加者の方たちは魔法を使えないんだ」
「えぇ~使えないの… 異世界なのに…?」
「ごめんね~ だけどね、スキルって技が覚えられる可能性はあるんだ
物にもよるけど、魔法と遜色ないよ と言うか… ほぼ魔法だよ
その数は、実用的な物からくだらない物まで数百あるみたいだから
しかも条件さえ満たせば、複数覚えられるよ」
「カードとかのアイテムが何枚かあります それも使って良いですか?」
「持ち込んで使えるよ 他にアイテムはあるのかな?」
「ドアノブと腕時計… それと指輪がありますけど」
「あら~そうなんだ… それじゃあスターターキットは送らなくても大丈夫だね」
「注意点はそれだけですか?」
「そうだねぇ~… 口の軽い人は呼ばないで欲しいんだ」
「口の軽い人ですか?」
「そうだね… 絶対じゃないんだけど… 興味ある人もいるだろうけどね…
みんな良い人ばかりじゃないからさ 当たり前だけどね
信頼できる人ならまだ良いんだけどさ SNSは絶対にやめてほしいな
それに入退場は、パーティーメンバー全員でなきゃいけないんだ
増えすぎると移動だけでも大変だよ せいぜい4~6人くらいがベストかな?」
「面白そうな話で、凄く興味はあります… けど…
いつまでとか、返事の期限とかありますか?」
「特に無いですよ 好きな時に行って、帰りたい時に帰ってくれば良いんだから
後ほどSMSで入退の仕方を送りますね
もしもプレイしないのであれば…
カードやアイテムは、全て燃やして処分してね
この世界の事を知らない人に売ってしまうのは、規約違反になるからね
知ってる人同士の売買なら自由にできるよ」
「はい・・・気を付けます」
「お嬢さん 行くかどうか迷ってるみたいだけど、
お金持ちの中には、数十億以上の価値があるとか無いとか… 言われてるよ」
「・・・」
「怪しさ満点だろうけど、1回でも行ってきたらどうよ?
つまらなかったら、行くのは止めれば良いんだし
納得するまで考えて決めたら良いよ」
「はい、考えておきます…」
「お嬢さんの参加期待してるから じゃあね」
男は電話を切った…
午後9時過ぎ・・・ ちせ自室
ちせのスマホにSMSが届いた
それから月日が経ち・・・
11月29日 ちせ 14歳の誕生日前日
ちせはスマホに届いたSMSを読む
「”この度は、プレイ予約していただき、誠にありがとうございます”
”【地球9号】への新規参加予定者は、6名を予定しております”
”今回欠員が出たとしても、今回は補充致しません”
”【地球9号】では、人間を含め様々な生物が存在し、生活を営んでおります”
”どのような生き方をするのかは、あなた次第”
”冒険者、兵士、商人、勇者、町娘、職人、犯罪者、学者等… 無限の可能性”
”Tips まずは、現在の国(街・村)人の情報収集及び確認をしましょう”
”Tips お金を稼いでみましょう”
”Tips 生活の拠点を構えましょう”
”Tips 装備や道具を整えましょう”
”Tips 仲間を探しましょう”
”【地球9号】内は、とても広大なフィールドでございますが、
いつかどこかで他の
”当商品は、新たなワールド【地球9号】へ向かう為のアイテムとなります”
使用方法
”1. 不特定多数の人物が出入りできる環境は避け、
ご自身のプライベートな空間(屋内)で使用して下さい
例)自宅敷地内の自室、押入れ、クローゼット、脱衣場、倉庫など
”2. 設置する場所が決まりましたら、当該商品【十三階段への扉】を挿すだけ”
※当該商品は一般的なドアノブですが、壁などに挿すと扉が出現します
※設置する場所は、壁などの遮蔽物が安定感があり好ましいです
※タンスや冷蔵庫でも設置できますが、安定感がある場所に設置しましょう
”3. 付属する鍵は10個 その中から1つを選び、開錠して扉を開けて下さい”
”4. 鍵の色は、出現する場所と連動しております”
”5. 開錠に使用した鍵とそれ以外の鍵は、それ以後使い道はございません”
グレースフル帝国 主:魔王 国民:魔物 規模:超巨大
名所:???
金:首都マンダル 高級住宅街
銀:首都マンダル 貧民街
魔導王国ドルー 主:魔女王 国民:問わず 規模:巨大
名所:???
銅:首都ネイマ 高級住宅街
白:首都ネイマ 貧民街
赤:ドゥーラン王国 主:ドワーフ 領民:問わず 規模:中
名所:??? 特産品:鉱石・武器防具・酒
民族の特徴:物作りが得意 戦闘は向いている
青:連合国家ガイエン 主:獣人 領民:獣人 規模:中
名所:??? 特産品:特になし
民族の特徴:戦闘向き 人間以上に体力がある
黄:ファフ王国 主:エルフ 領民:エルフ 規模:中
名所:??? 特産品:布製品・木製品・皮製品
民族の特徴:魔法が得意 戦闘は後方からの遠距離攻撃または後方支援
緑:妖精の里ルルン 主:ピクシー 領民:妖精 規模:小
名所:??? 特産品:はちみつ・木の実・きのこ・野草
桃:タカミ村 主:人間 領民:主に人間 規模:小
名所:??? 特産品:???
茶:ワンダ村 主:小人族 村民:小人族 規模:小
名所:??? 特産品:???
黒:他のモニター様が選ばれた色は黒色になり、使用できません
”【注意】”
”選べる国家(村)は早い順となり、他参加者様と重複して選べません”
”既に使用されている鍵は黒く変化し使用できません お早めにお選び下さい”
”参加者最終6人目の鍵選択後、残った鍵は全て黒色になります”
”黒色の鍵はご利用できません ゴミとして廃棄して下さい”
”黒色以外の鍵を差し込み扉を開けると、もうそこは異世界
何をするのもあなたの自由 唯一気を付けるのは死なない事”
”それではナッシュトルティーヤ大陸で、無限に楽しんで下さいね”
「先ずは扉の設置か… やっぱ目立たない場所と言えばこの部屋か?
ドアノブを挿すだけって…」
ちせは散らかった部屋を片付け、スペースを作った
「次がドアノブの設置か… クローゼットでいいや」
ちせはクローゼット内の壁に、ドアノブを挿した・・・
「!? 本当に扉がでてきた… 〇〇〇〇ドアかよ!
この名簿みたいなのに、名前を書くのね…」
ちせはドアに取り付けられたホワイトボードの名簿に紐で吊るされたペンで、
"ちせ"と名前を書いた
「その次が場所の鍵ね 4個が黒いって事は、私が最後から2番目か
でも、もう1人は行かないのかな?」
有名ブランドの高級キーケースを開け、中にある鍵の色を確認した
「残ってるのは… 銀・白・赤・青・黄・茶…
どれどれ… ピンク以外は、主が人間じゃないのか… ふむぅ~
赤… 魔導王国ドルーの国民は"問わず"って事は、人間もいるかも?」
「心配なのは、人間以外の所でコミュとれるのかだよなぁ・・・」
「魔導王国行ったところで、私は魔法は使えないワケだし・・・」
「他の人は、良いところ選んだんだろ~なぁ…」
小一時間迷いに迷ったちせは、1つの鍵をやっと選んだ
鍵穴に挿し、鍵を回した
「ガチャ」
鍵を抜いてしまう
MSMに届いていたメッセージを頼りに、準備を開始する…
「ドアの色がピンクに変わった… そうだ!行く準備しなくちゃ え~と え~と…
"異世界時計 【インセプションウォッチ】を右腕に装着し、ドアをくぐると…"
"時間経過が異世界時間に自動で移行致します" 時計をはめて~…
靴は1足クローゼットに置いといて… 飲み物と… 」
準備とは言ったものの、普段外出する時と変わりなかった
「さぁ、行きますか!」
扉を開けると、内部の通路はお相撲さんでも余裕で通れるほどの横幅がある
日が差してる訳ではないが、適度な明るさがあり暗すぎて見えない事はない
通路は左程長くはない 突き当りに桃色のドアが見えている…
そのドアに到着 扉には鍵が掛かっている…
桃色のドアの鍵を開錠して中に入ると・・・
そこは高級ホテルのような、かなり広い玄関だった
玄関には、間取り等が書かれたパンフレットのような冊子が置いてあった
内部は、6帖の和室が1つと洋室が2部屋の計3部屋
リビングとダイニングキッチンは20帖もある
ベランダや窓は一切無く、廊下を通り抜けた反対側にも同じように玄関があり、
こちらには”Welcome”と書かれていた
テレビやラジオは無く、Wi-Fiも電波も無い スマホでの通信はできないようだ
だがコンセントはあり、充電はできる
ちせは、部屋を隅々まで確認した
冷蔵庫には食材がたっぷり入っているが、賞味期限は書かれていない
肉、魚、野菜、調味料… なべ、フライパン、ポット、一通り揃っている
戸棚には、カップラーメンやチンするご飯などの保存食も大量にある
玄米と精米機、お菓子もそこそこあるがジュースは無い 水か炭酸水
お茶と紅茶は、ティーバッグと茶葉の両方と、ペットボトル
コーヒーは、インスタントとペットボトルも用意されている
「水もお湯も電気も使える…
最悪の場合、ここに居ればなんとかなりそうね…」
ちせは丈の長いバスローブを羽織り、セレブ気分を満喫中・・・
「正直・・・ このプライベートルームだけでも、
10万円以上の価値があるんじゃない? フフフ 私の勝ちのようね」
小粋にゆったりと寛いだちせは、当初の目的を思い出した
「何か… 異世界超めんどいかも… でも、そっちがメインだし…
いっちょ行きますか~!」
ちせはもう一方の玄関に向かう
”Welcome”と書かれたピンクのドアを開錠し… ドアを開けた
ドアを通り抜け、来た道同様の通路 突き当りに桃色のドアが見えている
ちせは開錠し扉を開けた
「誰も居ませんように・・・」
ちせは少し開いた隙間から外を覗く…
「人はいない感じ… 行っちゃうか…」
ちせは扉を普通に開けた
その部屋は、何かを祀っているいるようだ
ボウリングの玉ほどの大きさの石には、何やら文字が書かれている
その石は、簡易的な祭壇に鎮座している
御利益とは関係なく、一応拝んでみた
「多分このドアから、この玉のある所に出られるみたいだね…
今度、玉を移動させて実験してみるか」
屈んだ態勢から、足を伸ばし立ち上がる
これが"流行りの異世界"なのだろうか? 疑問は尽きない
スマホを取り出し、写真を撮ったりした
やはり電話やネットもダメ繋がらない 電波は来てないようだ
充電し忘れたので充電残量は25% 写真撮影以外は余り使えない…
その建物自体は、とても簡素な掘っ立て小屋のような作り
ちせはその建物から外に出てみた
「柵で周囲を囲っている… 違う この建物だけ、柵の外側に建っているんだ…
入っちゃおう おじゃましま~す」
コソコソと気取られないように柵を乗り越えると・・・
「コラ~!! 勝手に入ったら、イケないんだよ!
園長先生に言いつけるからね! とうとう悪者を捕まえた!」
女の子の声が聞こえたが、辺りを見回しても誰もいない
「ねぇ? あんたどこにいるの~?」
「ここに、いるじゃない!!」
「え~? どこ? どこなの?」
「もうちょっと上! 少し右… 違った左、 下 そう!」
指示された方向を見ると、羽の生えた虫… 蝶々 いや!
小さい人形に羽が生えてる?
「あんた妖精なの?」
「そうよ! わたしはピクシーのピコ! この村の警備をしてるんだからね」
アニメでよく見る、いわゆるド定番の妖精だ
この子があるあるの"最初の相棒"って流れ? いや… 確実に違う!
※※※妖精ピコの活躍は、相当先の未来である事をまだ誰も知らない・・・
「私は "木野村ちせ"って言うの よろしくね!」
「あなた… 怪しいわね! ドロボーね 連行するから、ついてきなさい!」
「なんか"ちゃいちい奴"に連行されちゃったよ トホホ…」
妖精ピコの後をついて行くと、ある建物の前でこう言った
「ここが園長先生とわたしのお家 "太陽園"だよ 園長せんせー! ぴゅ~」
妖精がドアを開け中に入り、誰かを呼んでいる
ピコは年の頃50歳くらいの女性を連れてきた とても綺麗な人だ
「ピコ、一体どうしたのよ?」
「園長先生! わたしが村の警備をしてたら、怪しい子を見つけたの!」
「怪しい子?」
「そう! きっとドロボーなの だからここまで連行したのよ!」
「あら? あなたは初めて見る方ね? どこから来たの?」
「ええと… 実は迷っちゃって…(嘘) 北砂は分かりますか?」
「キタスナ…? ちょっと存じ上げないわねぇ・・・」
「ここはどこなの?」
「ここは泡沫国ノア様のご領地 【タカミ村】よ
私はこの施設の園長、シスターテクラ この子はピコ あなたのお名前は?」
「私はちせです!」
「ティセさんね」
「・・・」
「迷ってしまったって、それは大変ねぇ 何か当てはあるのかしら?」
「いやぁ… ちょっと探してみますけど…」
「園長先生! この子はドロボーなのよ! それか魔王かも…
早くノア様に言わないと! 〇刑にしてもらわなきゃ・・・」
「(ドロボーは兎も角、魔王って・・・)」
「コラ! そんな事を言ってはいけません
ティセさんは迷ったって言ってるじゃない」
「でも・・・ (シュン…)」
「(ブフッ… 怒られてやんの)」
「もしもの場合は、ここに居れば良いわ」
「ありがとうございます ここはどんな施設なの?」
「ここは太陽園 孤児院なの
この村だけではなくて、隣のハルヨシ村の子供もいるの
両方とも、ノア様が治めているのよ」
「へぇ~ そうなんだ…」
「このタカミ村はついこの前… ノア様のご領地になったの」
「戦争したの?」
「いいえ 話し合いで決まったのよ
ノア様はご領地を得て、村は庇護下に入ったの」
「ちょっと、この村を見て良いですかね?」
「ええ、大丈夫よ ピコ、ティセさんを案内してあげて」
「ピコ… パトロールが…」
「なら、一緒にパトロールしてもらえば良いじゃない?」
「し、仕方ないわね… じゃあパトロールに行くわ
リーダーの私についてきて」
「では、行ってきます」
「そうそう 柵から外には出ないでね 魔物がいるから」
「魔物… この辺の魔物って強いの?」
「辺鄙な村だからね 王都や深淵と比べたらそうでもないけどね
それでも危険な魔物はいるから ティセさん魔法は?」
「私… 魔法は使えないの…」
「ピコはヒール(極小)使えるよ この前覚えたんだから」
「ヒール(極小)って、凄いんですか?」
「ウフフ ささくれが治るくらいかな…」
「ブホッ… (ささくれが治るくらい… それ使えねぇ~…)」
「魔法が使えないなら、多少の武器は扱えるようにした方が良いわよ」
「さいですか… 考えておきます」
「じゃあピコ、一緒にパトロールしてらっしゃいな」
「は~い ティセ… 行くよ」
「はいはい…」
ティセとピコは、太陽園を出た
「ねぇピコ、園長先生は魔法使えるの?」
「園長先生は、ヒール(小)使えるよ」
「へぇ~ 凄いね(小の強さが分かんねぇ~…)
この村の中で、魔法に詳しい人って誰かいる?」
「ピコ分かんない…」
「ピコと仲が良い人は?」
「兵士さんのミーアとアルゼかな アルゼはピコの・・・
ピコの・・・ 何て言うの?」
「(全然ヒントが無くて分かんねぇ~) 先生?弟?師匠?パパ?
彼?弟子?子分?」
「それ!」
「どれよ?」
「子分、ピコの子分」
「子分… (こいつに合わせてあげてんのね… 優しいじゃん)
その人は… アルゼさんって、男の人?」
「そう、ミーアとアルゼはカップルなの」
「ほ~… そんで強いの?」
「ん~… ピコの方が強いかな? 中々やるんだけどね」
「ガフッ… (自信満々に… 真面目に答えてんのもヤバし…)」
「でも… 悔しいけど、私でもミーアには敵わない…」
「そうなんだ… (いつまでも手を抜かないでほしい…)」
「ほら… ここの2階は、兵士さんがいるところ
なんちゅ~の… イケおじパラダイス♡」
「そんな言葉知ってるんかい! ん~そんじゃあ兵舎って事か…
ここに領主様がいるのね?」
「こっちに(村に)来た時はね 今はハルヨシ村だからいないよ」
ティセはピコの案内で、色々と見て回った
「魔法に詳しい人、誰かいないの?」
「それならあそこが、前の村長さんのお家だよ 今は長老さん」
「ふ~ん いるかな?」
「じゃあ行ってみようよ こんにちは~ ピコが来たよ~」
「おぉ、ピコか いらっしゃい ん!? その子は?」
「こんにちは 初めまして ちせです」
「こんにちは、私はエドガーじゃ
君は初めて見るが、どこから来たんじゃ?」
「いやぁ~ 知らないと思うけど… 北砂村って所から来たの…
てか… 迷い込んで はい」
「はて… 片道15里(約60キロ圏内)で、そんな村は聞いた事がないが…」
「まぁそれはそうと… 魔法について聞きたいの」
「魔法についてかい? 良いよ、上がんなさい」
ティセとピコは、元村長で長老 エドガーの家におじゃました
「そんで、魔法のどんな事を聞きたいんじゃ?」
「え~と… とっても基本的な事から教えてもらいたいの」
「そうじゃな~ 私も極めた訳じゃないんでなぁ~
基礎中の基礎でええんかな?」
「うん、それで良いよ」
「この地に宿る護(五)精霊 火・水・風・土・雷の5種
それに創造の光と破壊の闇とかあるみたいじゃが、なんも知らん・・・」
「へぇ~ 雷も入るんだね(まぁ、異世界モノと大差ないね…)」
「まずは、護(五)精霊から説明しよう
火の精霊:マンドラウオ 水の精霊:ウンダータ 風の精霊:ニュルン
土の精霊:ノムサム 雷の精霊:カミナリサマ と言い伝えがあるんじゃ」
「全部変な名前 ゲラゲラ! 雷の精霊はカミナリサマって…
私のせか… 地域だと、火はサラマンダー、水はウンディーネ、
風はシルフ、土はノーム、雷の精霊は… なんだろ… ラムウ?
電気ウナギとか電気ナマズとかで良いじゃん ゲラゲラ!」
「なんじゃそれ? かっこええな! その名前貰ってもええかな?」
「貰うって・・・ 言い伝えなのに勝手に変えちゃダメでしょ!」
「言い伝えじゃから、変に伝わってた可能性もあるじゃろ?
後世に伝えるなら、その名前の方がええじゃろ かっこええから」
「そんなに言うなら、使っても良いよ(上から目線)」
「そうか、ありがたい!
そんでな… 各魔法には【下位と上位】があるらしいんじゃ」
「"あるらしい"ってなんなの?」
「質とか威力とか違うらしいんじゃ 戦闘に幅が出るとかじゃな」
「ほほう…」
「私は火と水しか使えんし、威力も無いが… 例えばじゃ
ボワッ このように火の玉が出せる 上位が使える術者なら、
なんちゅうの… 伝説の火竜【ドラドラ】のような… 炎をばーっと!」
「ドラドラ・・・(マージャンかよ!)
長老さん… ドラドラかっこ悪いから、【ドラゴン】にしようよ」
「【ドラゴン】とな… それも採用しよう!」
「ドラゴンのブレスね 口からばーっと」
「"ブレス"っちゅ~んか… 口じゃなく手からだけども…
そんな感じでできるらしいぞ」
「"口からのブレス"じゃなくて手からなのね…
(つまり… 下位は火球で、上位は火炎放射みたいな)
じゃあ… 水なら氷とか?」
「そうじゃ 地なら石つぶて 雷なら… 雷かのぅ?
見た事無いんで知らんのじゃ… 光も闇も知らんがな」
「大体の人は何かしらの魔法は使えるの?」
「これが、全く分からんのじゃ… ここの村人は34人いるが、
私を含めて使えるのは3人しか居らん しかも大した威力もない
じゃが、ノア様の御配下の方たちは結構使えるみたいじゃ
若い時からの鍛錬の賜物じゃろうか? 知らんけど」
「へぇ~ 火と水なら、使い手はどっちが多い?」
「う~ん… 半々か… 火の方が少し多いんじゃないか? 知らんけど」
ピコは退屈している
「ねぇ~ パトロールは?」
「じゃあこれが最後(うっさいのぅ…)
この村のお店… 何か売ってお店はどこにあるのかしら?」
「お店って… この村に商店なんてないぞ 元々自給自足で暮らしてたんじゃ
ここから北に6里(約23.5km) ノア様の本領【ハルヨシ村】がある
そこには色んな商店があってな
ここ数年は、肉や野菜を定期的に売りに行ってな
その金で、村人たちが必要な日用品を買ったりしてるんじゃ」
「この村にお店は無いんだね… 残念
冒険者の装備が欲しかったからさぁ…」
「君が冒険者をやるの!? 危ないよ… 何でもやりたガール年頃じゃな
その気持ちは分からんでもないが…
危険だから止めろと言っても、コソコソと隠れてやられる方が余計危ない
やるなら充分気を付けてやるんじゃな ちょっと待っとくれ…」
「はい・・・」
「これは鉄の短剣じゃ 銅の剣じゃ重くてまともに振れんじゃろう
一応これを持っていなさい」
「ありがとう! これで冒険者デビューできるよ」
「でびゅー? 念の為に忠告しておくが、この辺りの魔物は大した事はない
だが… それでも危険なのは幾らかいる
ワイルドボアは巨大なイノシシじゃ 突進してくるからな、大人でも危ない
毒を持つスラップスネークも危険じゃ 見かけたら逃げるんじゃぞ」
「逆に、どんなのを狩れば良いのかな?
簡単に捕まえられるのがいれば… おすすめはある?」
「おすすめなら【ブルーラビット】が群れでいるから狩りやすいぞ
群れからはぐれたブルーラビットは、寂しすぎてすぐ死んでしまう
わーっと追いかければ、何羽かすぐ死ぬじゃろうから獲るのは簡単じゃ
こいつはとても美味いぞ
「(おいおい・・・)」
「鳥なら【ウェイキーバード】か【ゲレロチャボ】の若いのは美味いな…」
「分かった 参考にするね 色々と教えてくれてありがとう
もしも獲れたら持って来るね」
「そうかい? 期待して待っとるでな 楽しみじゃな
そうそう… 夜は柵の外に出ちゃいかんぞ
アンデッドがたま~に出るからな 夜の森は真っ暗で何も見えん」
「アンデッド・・・ ゾンビとか?」
「霊体やらバンシー ゾンビもたまにじゃが、魑魅魍魎の何かじゃ
ハルヨシ村には、アンデッド専門に狩る冒険者がいると聞いたぞ」
「そんなの怖いから夜は出ないよ…」
「それがええ」
「また何かあったら教えてね」
「おっけー! いつでも遊びに来なさい」
ティセとピコは、長老の家を出た
「ティセ、話が長い~!」
「どこがよ? 15分くらいでしょうよ…」
「15分って言ったら、1日の半分くらいじゃんか!!」
「時間の感覚、バグってんのかよ!」
「ピコは待ちくたびれたよ…
ちょっと待って ピコお水飲むから」
「分かった」
ピコは馬用の水飲み場で水を飲んでいる
「ゴクゴク プファ~ 美味しい! ティセも飲めば?」
「そんなに美味しいの?」
ティセは馬用の水飲み場を覗くと・・・ どよ~ん そこそこ濁っている
「これ… お腹壊すヤツだよ… 飲んじゃダメだよ!
これはさすがに飲めない…」
「ティセってワガママガールね こっちに来て!」
「どこ行くのよ?」
「こっちに井戸があるよ」
村の端 日陰で目立たない場所にその井戸があった
「・・・ "あいつ"が出てきそうな井戸ね・・・」
「"あいつ"って、誰?」
ティセはピコに "あいつ"の説明をしながら、井戸に近づいて行く
「・・・その時… 井戸の中から… ルールー、きっとルル~♪」
「うぅ…」
「ぬっと手が…」
「ぎゃ~!!!」
「ギャ~!!!」
「あわわわ… 本当に出た… 今回はティセがやられるんだね…
可哀そうだけど、ピコは用事を思い出したから… これで…」
「なんでやねん! 逃げるな!」
井戸に手を掛け、這い出したその身は… 大人の男の人の大きさだ
「・・・」
「RPGなら負けイベよね・・・(必ず負ける戦闘イベント)」
「ヒール!(極小)」
「いきなり回復させてどーすんのよ!!」
「ピコ… これしかできないから…」
「お前たち… 何やってんだ! この井戸に近づいちゃ駄目だ
またピコか・・・ ノア様とシスター、どっちに・・・」
「あわわわ… 違うの! 美味しいお水が飲みたいから・・・」
「底が見えるほど水が少ないんだよ… 僅かに染み出してはいるけどな
もうこの井戸も終わりかもしれんな…
ん? 君は初めて見るな… この村の子じゃないだろ?」
「初めまして 迷いに迷ってこの村に辿り着きました
ちせって言います よろしくお願いします」
「ティセと言うのか 私はスタン
迷ったって… 一体どれだけの距離歩いてきたんだ…?
ん!? ささくれが治った! ちょっと痛かったんだ」
「・・・それよりも、何で井戸から?」
「水が少なくて井戸の調査をしてたんだ 飲み水と畑にも必要なんだが…
済まないが報告に行かないと・・・ じゃあな」
「ちょっと待って! 井戸が涸れそうで水不足か… そんなの簡単じゃん
水の魔法でちょいちょいと…」
「あぁ… 言われてみたら そうだな… そんな単純な話だったのか…
ありがとう 参考にするよ」
スタンは行ってしまった・・・
その後ちせとピコは、ダラダラと色んな所を見て回った
「ねぇピコ、今何時か分かる?※」
※腕時計の時間が異世界の時間だと分かってて聞いてる
「えっ? ピコ分かんない」
「じゃあ、園長先生の所へ戻ろうよ」
「うん、じゃあ帰ろう」
ティセとピコは、太陽園に戻った
「園長先生、今何時ですか?」
「今は… 18時ちょっと過ぎね」
「では… もう失礼するね…
(腕時計の時間とほぼ合ってるけど、スマホの時間とは違うんだよなぁ…)」
「でもお家は分からないのでしょう?」
「あぁ… まぁ、何とかなるかなぁ~って… じゃあ…」
「ここに泊まれば?」
「いや… 今回は… もしも何かの時はお世話になります」
「遠慮しなくて良いのよ… いつでもいらっしゃ」
「はい、ありがとうございます 失礼しま~す」
ちせはそそくさと出て行った
誰にも見られないように、専用ルームに到着した…
「ふぅ~… リアル異世界は大変だわ… 情報収集も体力使うし…
アニメやゲームみたいにはいかんよね~」
鉄の短剣をテーブルに置き、"EXIT"の扉から現実世界の自分の部屋へと戻った
ちせはベッドに横たわり、時計を見て驚いた…
「ふぅ~ 疲れた・・・ あれ!? 時間が・・・???」
次回 第2話『初めての依頼』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます