第2話 ぼうしみたい
「いやー、あの時はありがとーねー!!!」
「何?いつの話よ」
某焼き鳥で有名な貴族なお店。
そこで久しぶりに顔を合わせた友人モコちゃんは開口一番、感謝の言葉を紡いだ。
「何って…えええー!?覚えてないのー?!ちょっとォォォォォォ!!」
めちゃくちゃうるさい。
個室で障子で囲われているとは言え、鴨居の上は繋がってんだぞ。
「騒ぐなっつの」
「いひゃぁ?いひゃい!いひゃい!!」
うるさ過ぎるので、相変わらず柔らかそうな頬をつまむ…両方ともだ。
痛がる彼女を見て私はふと記憶をフラッシュバックした。
あー、そう言えば…そんな事あったっけ?
思考に耽ると癖で眉間に指を当てる。
「おーい?帰ってこーい」
やかましい、思い出せそうなんよ。
黙って待ちなさい。
あ、
なんか、
思い、
出した。
ふと瞼を閉じた。
そして閉じたはずの瞳に映った。
それは、あの日の翌日の景色だった。
「あのー。これはどゆこと?」
翌日のお昼に呼び出しを受けた。
同級生ではあるけど、ほとんど会話したことが無い人物…同じクラスの斎藤さんが「一緒に来て」と、腕を掴まれての連行だ。
ひたすら私の脳内にクエスチョンマークが浮かぶ中、あっさりと現場に到着。
そこで、いきなり目に入ったのは…女の子が女の子を足蹴にしている状況であった。
私はパニック寸前です。
だから、私は疑問をぶつけた…その足蹴にしている、目の前にいるモコちゃんに。
「これは何なの?」と。
すると
「やっと来てくれたわね!こちらが今回の戦利品ですのよ!」
ふんす!と腰に手を当て胸を張る姿はやたらと力強く、美しい…じゃなくてさ。
「いやその…戦利品て何?」
「だからね」
現状を説明すると。
モコちゃんの足元にはおかっぱ髪の女の子が一人うつ伏せで倒れており、呻き声を上げていた…たぶんライフはゼロだ(死んではいない)。
「やっちゃった、テヘッ」
モコちゃんは拳を逆さまにして親指を立てる仕草でアピールする…うん、訳分からん。
「…ちゃんと安全な場所に届けなさい」
私は努めて冷静に言葉にした…たぶんアレだ、現実から目を背けたいのだ。
「はーい」
そう返事をするやヒョイとまるで俵を持ち上げるように肩に女の子を荷物のように載せた。
そーいやモコちゃんてパワフルなキャラだったなと改めて思った。
なんせ体力測定で金メダリスト(?)と言う謎の肩書きを持つほど。
体力測定で金メダルって何?
そしてすぐに帰って来た。
「はーい!元に戻して来たですわよっ!」
丸でご褒美を待つようなワンちゃんのように返事を待っていた…マジ大丈夫?
どうすれば良いか分からず、とりあえず頭を諫めるように撫でた。
「えへへっ」
モコちゃんは猫のように喜んでいるようだ。
「んで?なんでヤらかしたの?」
私の素直な疑問だ…なんでおかっぱ頭の女の子を足蹴にしたのか。
「だってその子、わたくしをイジメてましたから」
「はぁ?」
ざっくり解説すると…
某会社の社長令嬢がモコちゃんをイジメの張本人。
それはモコちゃんの見た目が気に入らないから、と言う理由。
モコちゃんは英国と日本のダブルで確かに目立つ見た目だが、目をつけられたキッカケはその社長令嬢が慕っていたサッカー部のエースの告白を拒否したから…プライドが傷ついたとの事。
オマケにそこの会社にはモコちゃんの父親が勤めていて嫌がらせを匂わせたらしい。
クソだな。
で、昨日の夜にモコちゃんは父親にカミングアウトしたとの事。
父親曰く、通訳がメインの仕事らしくて何処の会社に行っても潰しが効くから問題無い、潰してこい!と言われたらしい。
お父さんは分かっていたのかな?
らしいと言うのは、その部分を語るモコちゃんが余りにもテンション高く早口だったから理解が追いつけなかったのだ。
ひと通り語ったモコちゃんは両拳を胸元にムフーとヤケに自慢げだ。
ちなみにモコとは私が付けたあだ名で、本名は…長いからいいや。
「分かった分かった。ほら用事済んだなら帰るよー。あ、斎藤さんありがとうね」
「…はっ!い、いえ…大丈夫、です」
斎藤さんは終始現場では空気だったが、モコちゃんに話掛けられると笑顔になった。
私以外の理解者も出来たようだと安心した。
駆けつけ一杯をグイッとあおり、私は目を開く…モコちゃんがジッと見ていた。
ついついその日の場面に出会した時の気持ちが声に出た。
「あの日はショックだったんだよ?」
「何が?それは私の方が」
「帽子みたい!ってさぁ、ひどくない?!」
話をぶった斬られた上にそんな言葉なんか言ってないけど?と私は憤慨する。
「そんな事は言ってない!」
「いーや、言いましたぁ。…確かに前髪パッツンだったけどさ、そんな言い草無くない?」
「だから言ってないってば!」
「いーや、言った!乙女の尊厳を踏み躙った!」
「昔も今も乙女じゃないじゃん」
「なんだとー!」
「まあまあ…」
斎藤さんに嗜められつつ、楽しい時間が過ぎた。
「わたくしは、もう死にたい…と言ったのに。わざとそんな聞き間違いしちゃって…ありがとう」
その小さな声は周囲の喧騒に消えていった。
その後、モコちゃんの父親は会社を辞めて独立。
だいぶ便利にその会社で使わられていたらしく、辞めた会社はそれがキッカケで大事な取引先を失ってしまうのだが…それは別の話である。
ステラ 火猫 @kiraralove
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