↓第22話 ン? これは……

「え、戻ってない?」


 羊小屋についた迷子たちは目を丸くする。

 ソルが言うには、ビリーは休憩のために一度家に帰ったらしい。


「とっくに時間は過ぎてるがな。電話にも出ねぇし、どこ行っちまったんだ?」


「あのぉ、ちなみにこれまでもこういったことはあったんですか?」


「いや、今回が初めてだ。時間にルーズなヤツじゃねぇし、ましてや連絡もよこさねぇってのは……」


「…………」


 灰色の雲が徐々に太陽を隠していく。

 迷子の心臓がザワついた。


「ソルさん、わたしたちビリーさんの家に行ってみます」


「ああ、すまねぇが頼むよ」


 迷子たちは走り出す。

 とりあえずソルは携帯端末で、引き続きビリーに電話をかけた――


☆       ☆       ☆


 一同はビリーの家に到着する。すると見覚えのある後ろ姿があった。

 神父のアンヘルだった。


「アンヘルさん、ここでなにを?」


「あ、メイコさん。実はビリー君に呼び出されましてね」


「呼び出された?」


「ええ。厳密には今夜部屋に来るようにとのことなんですが、詳しいことは記載されていなくて」


 アンヘルは端末をかざしてメッセージを見せる。

 たしかに内容はその通りだが、そこでなにをするのか詳細が記載されていない。

 一応、ビリーの端末から送信されたもので間違いはないようだが。


「気になって家を訪ねたのですが、カギが掛かっているんです。連絡しても一向に出る気配がありませんし……」


「留守、ですか?」


「おそらく。やはりこの時間だと農場でしょうか?」


「いえ、さきほどソルさんに聞きましたが、休憩から戻っていないようです」


「え? じゃあどこに?」


 迷子はテラスから窓を覗く。

 室内は静まり返り、人の気配はなかった。

 食事をしたのだろうか、チーズやパン、食器やミルクの入った瓶がテーブルの上に置かれている。

 カミールも横から覗き、ぼそりと呟いた。


「食事の途中でいなくなったのか?」


「お皿を見る限り、少なくとも二人はいたようですね」


「あの~、ビリー君の身になにか?」


 心配した様子でアンヘルが問いかける。


「わかりませんがイヤな予感がします。とにかく手分けして探しましょう」


「それなら私は森を捜します。のちほど行く予定だったので」


 神父は傍に停めてある車を指す。

 助手席には、クマ対策の猟銃が置かれていた。


「わかりました。なにかあれば連絡を」


 迷子と連絡先を交換し、アンヘルは家を離れる。


「さて、わたしたちはどこを――」


「そういえば迷子、あいつになついてた羊が見当たらなくね?」


 うららが辺りを見渡す。


「ビリーさんについていったのかしらぁ?」と、ゆららが顎に指を這わせた。


 迷子は羊のダンと鉢合わせたときのことを思い出す。


「たしかあのとき、こうやって窓の外からノックしてましたよね――」


 そう言いながら窓に視線を這わせていると、枠に細長く光るものが挟まっていた。


「これは……」


 それを手に取った迷子は、空にかざして目を細める。

 非常に長い、赤い髪の毛だった。


「もしかして……」


 脳裏にピンとくる。この長さと色に一致する人物の顔が目に浮かんでいた。

 ――エリーザ。きっと彼女のものだと、そう確信があった。

 迷子はみんなに髪の毛を見せる。


「おいおい、じゃあアイツは直前までビリーっちと会ってたのか?」


「そのあといなくなったってことはつまりぃ……」


 うららとゆららの脳裏に、悪い想像が巡る。

 あの大きなキャリーケースの中身に、なにが入っているのか?


「迷ってる場合じゃありません! エリーザさんを追いましょう!」


 考えている時間はない。

 一同は一斉に駆け出した――

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