第30話 挑む者たち
その悪魔らしきものがどういう訳か俺の屋敷の前を徘徊している。何かを探しているような、もしくは何かを待ち受けているようにも見える。
「マダイの国にも色々な奴らがいるが、さすがにあんなのは見たことがない。ルルーゼはどうだ?」
「あ、あぁ、私も同じだ」
場が静まり返り、二人の視線が俺に向けられる。
「確かに俺は様々な異世界の者達と交流して来たが、あれは初めてだ」
「何か考えられる節は?」
「俺もまだ理解出来ていないが、とにかくあの屋敷には不思議な力がある。その一つに、異世界者たちを集めてしまう、そんな奇妙な性質があるように思う。そうなると、あれもその類いだと思うのだが、あれは全く異質だ。存在からして、俺たち、そして異世界者たちとも違うのではないかと思う」
「交流は出来そうか?」
「難しいだろうな、全く予想もつかない」
とにかくその存在は危険な雰囲気を漂わせている。話しかけるまでもなく、接近、もしくはそれの視界に入っただけで攻撃されそうな危険性。そんな理不尽な恐ろしさを漂わせている。
「何よ、本当にどうなっているの。ロジタール、あなたが現れてから、今まで見たことがないことのオンパレードよ! ほんと、どうなっているの」
ルルーゼはルルーゼで妙な興奮を見せている。そこには戸惑いも含まれているが、それよりも興味を刺激された度合が勝っているようだ。
「肝が座っているな、感心だ」
悪魔を見張りつつフィッシャーが何気なく言葉を投げた。だがそれは彼の予想に反して新しい波乱を産んだ。
「そりゃあ、何度も死んでると、少しは抵抗がなくなるものよ」
「……うん?」
「言ってなかったかしら、私はこの国で、特定の時期を何回か繰り返してるの。転生と言えばいいかしら」
……。
男二人は凍り付いたように身動きせず、ただ目線だけがルルーゼを捉えていた。
いわゆるループものだろうか。
俺はそういう知識があるから、驚きの割に理解ができる。女騎士や配信者、勇者や魔王を見ていると次第に感覚もマヒしてくるというものだ。だが、フィッシャーはどうだろう。案の定、怪訝な顔をしてルルーゼの横顔を眺めている。
「繰り返している?」
そうだ、戸惑うのが当然だ。だが、彼の反応は俺の思っていたものとも異なった。
「驚いた。なるほど、もしやルルーゼは大魔導士などか? 転生魔法でも使用しているのか」
瞳に狼狽はなく、むしろ畏敬の念を込めてルルーゼを見つめている。
「お、驚いたのは私の方よ。あなたたちがそんなに簡単に信じてくれるとは思わなかった。……でも、私にそんな力はないわ、どういう訳か、自然とそうなっちゃってるのよ」
「まあこの世界には色々な魔法があるから何も言えないが、珍しいケースだと言っていいだろう。ロジタールもそうだが、全く奇妙な奴らだ」
ルルーゼの話は確かに衝撃的だが、しかしあの悪魔を目の前にして悠長と話している訳にもいかない。俺は二人の会話をたしなめようとした。
しかし、フィッシャーの続く一言が俺の考えをさっぱり変えてしまった。
「自らの意志でない転生。まるでこの世界に封印されてしまったみたいじゃないか」
「封印!?」
俺は思わず声を張り上げてしまった。
「ちょっとロジタール!?」
「どうしたんだ、急に?」
反応があったのは彼らだけではない。
「おい、奴が近づいて来るぞ……」
フィッシャーの警戒の声が、俺たちの緊張感を高める。
茂みの中からでは、その姿は直接的に見えないが、確かに不気味な足音が迫っている。ずさっ、ずさっと這うような物音。周囲の空気が張り詰めると共に、空気がどんよりと重くなり、否応なしに不吉なものを予感させる。
「近付いて来るなら仕方ないわね、フィッシャー、あなたの力量は?」
「……王国近衛部隊だ。元、な」
「ふぅん、そちらも何か事情がありそうだけど、腕前は十分って訳ね、私のことは心配しないでちょうだい、自分の身は自分で守るわ」
二人の目が輝いている。俺は嫌な予感を隠さずに尋ねる。
「おい、どういうつもりだ?」
返事は両者からほぼ同時に返って来る。
「そりゃあ、相手の力を知らなくっちゃな」
「もちろん、相手の力を確かめるためよ」
ある程度は予想出来ていたことだが、まあ仕方ない。
「無茶はしないでくれよ」
俺はそれとなく自分が参加しないという意志表現をした。我ながら自然な表現だ。二人が解決してくれるなら、それが一番いい。
結局、彼らが即座に臨戦態勢に入ったこともあり、俺はそっと彼らから距離を置くことに成功した。
じりじりと悪魔が接近して来る。それに合わせてルルーゼらも位置を選んで移動し、木陰から飛び出すタイミングをうかがっていた。
俺は気配を消して遠ざかり、成り行きを見守る。
双方の距離が少しずつ縮まっていく。
やがて。
ついに双方の距離が5メートルほどになった時、双方の視線が交わった。互いに動きを止め、きっと睨み合う。
ただ、どうやら彼らの間には決定的な優劣があるようだった。
「な、何よコレ!」
ルルーゼの叫びが轟いた。
「体が動かぬ!」
フィッシャーも同じく悲壮な声を絞り出す。
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