第4話(ルート1)

とん、とん…

 背中に振動が伝わる。ほとんど眠れていない体は正直だ。瞼が少し、少しずつ落ちていく。

(またあの夢みちゃう…やだ…)

「ゆうた?」

思わず体を起こす。

「…それやめて…」

「ん?あー、トントン、いやだった?」

「うん、いや。」

「そ、っか。分かった、しないからおいで」

「ねないから」

「え、何で?」

「ねたくないっ!!」

眠くて、頭がボーッとして、イライラして。

「ねたく、ないっ、もーやだっ、」

「え、おい、」

「なんでっ、なんでねなきゃいけないのぉ、」

自分で何を言っているのか、わからない。布団をバンバン叩く。

「ねないから!!ぜったいねないっ、」

「ゆうた!!」

今までに聞いたことのない、どなり声。思わず動きを止めてしまう。

「夜なんだから静かにしなさい。…お兄ちゃんも眠いんだ。早く寝るぞ」

「…じゃあおにいちゃんだけ寝てればいいじゃん」

「そういうことじゃないだろ。ほら寝るぞ。俺と寝るのが嫌ならそこの布団で寝なさい」

 なんで、そうじゃないのに。好きでこんなこと言ってるわけじゃないのに。本当は寝たいのに。

「~~っ、もういい!!」

このまま暗いところにいたら、どんどん眠たくなってしまう。部屋を出て、台所に向かう。何か、眠くならないもの。

(あ、)

冷蔵庫を開くと、ペットボトルに入っている黒い液体。毎朝お兄ちゃんが飲んでる、コーヒー。眠気覚ましになるってよく言ってた。

「にがぁっ、」

フタを開けて、一口飲み込むけれど、苦くて苦くて、まずい。

(でも、あの夢見るよりはマシ…)

ごく、ごく…

一口、また一口、それを流し込む。

「おいっ、何やってるんだ!」

後ろからそれを奪いとられる。背後にはお兄ちゃんが立っていた。

「こんな時間に飲んだら寝れなくなるだろ!?」

「寝たくないからいいの!!返して!!」

「だめだ!!あーもー、それにゆうた、コーヒー嫌いだろ」

「きらいくない!」

「嘘つけ。口まずいだろ。ほらお水、お口すすいで」

「いらないっ!」

ばしゃっ、

「あ…」

しまった、と思った時にはもう遅かった。お兄ちゃんの手をはたいた瞬間、水は飛び散る。プラスチックのコップは床に転がる。

お兄ちゃんのシャツはびしょびしょ。顔は、怖くてみれない。

「…着替えてくる。あともうお兄ちゃんは何も言わない。好きにしろ」





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