風邪をひいて失敗してしまう少年の話 第3話

体を起こすけど、まるで骨がないみたいに倒れてしまう。頭がぐるぐるして、力が入らない。

「おにいちゃん、おにいちゃん、」

 床に這いつくばりながら、部屋の外に出る。電気はついているけど、いつもお兄ちゃんが履いている靴がない。

「ッヒ、おにいちゃん、いないの?」

 お腹がズクズクってなって、今にも出ちゃいそうで、ぎゅっと前を押さえるけれど、もうほんとに限界で。廊下の上で一歩も動けない。

 もしかしたらあのおんぶしてくれたお兄ちゃんは全部夢だったのかもしれない。嫌になって、出ていっちゃったのかもしれない。


きゅぅぅ…

「ぁっ…」

床が冷たくて、体が震えて。

じわりと手が温かくなる。足をバタバタしても、ちょっとずつ、手が濡れていく。

(おしっこ、やだ、でちゃう、)

キリキリと痛かったお腹が少しずつ、治っていく。でも全然嬉しくない。

「あ、あぁ、あ…」

お尻、お腹、足がどんどん濡れていく。 おちんちん、ぎゅうぎゅうしてるのに、足を重ねているのに、全然止まらない。

しょぽぽぽぽ…

(あったかい…)



「ただいまー。あれ、ユウタ!?どうした!?」

「ぇ…おにいちゃん、?あ、…」

出て行っちゃったと思っていたお兄ちゃんの声。その声にひどく安心を覚えるけれど、今の僕の格好を見られたくない。

「っあ、やだ、ちがうの、これはっ、」

とまって、とまって…そう念じてお腹に力を入れれば入れるほど、おしっこの流れは強くなっていく。

「おしっこいきたかったんだな。ごめんな?買い物出かけてて。もうここで全部だしちゃいな」

体を起こされて、後ろから抱えられて、お腹を撫でられる。

「ぁっ、でちゃう、それ、やだぁ…」

「出ちゃっていーの。どう?すっきりした?」

「…うん…」

「もう出ない?」

「…うん…」

「じゃあお着替えして、ご飯食べような?給食食べてないんだろ?」

「…っ、うん、でも、おにいちゃんも汚れちゃった…」

「そんなの一緒にお着替えすれば済む話。おいで、あったかいとこ行こう」



「熱あるからタオルで拭こうか。熱くない?」

「うん、きもちい…」

温かい濡れタオルで足とお尻を拭いてもらう。気持ちよくて、頭がぼーっとして、また眠くなる。

「おかゆ、食べれるか?」

「ん…たべるぅ…」

「わかった。じゃあできるまで寝とけ。お布団行こう」



「じゃあお粥作ってくるから。ちょっと待っててな」

 降ろされた布団は冷たくて、急に寂しくなってしまう。

「やだ…ひとり、やだ…」

 また起きたら誰もいないんじゃないか、そんないつもは思い浮かばない不安が次々と出てきて、嫌だ。

「どこにも行かないよ。材料も全部買ったし。十分だけ待てる?」

「やだ、おかゆいらないから…」

「わかった。じゃあ一緒にリビング行くか。それならいいか?」

「っうん!」

「そうだ、今日プリン買ってきたぞ。お粥のあとに食べような」

「…いいの?」

「風邪の時は特別。ほかにしてほしいことはあるか?なんでも言っていいんだからな」

「じゃあ…」

食べさせて欲しい、お兄ちゃんの膝の上で。

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