第13話:紅蓮の解放

「心氣顕現――それなら、制御不能なあなたの氣を正しく扱えるようになるでしょう。私の補助があれば、十分に可能です」


ゼロはそう言うと、静かに両手を前に差し出した。

手のひらに集束されていく氣の波動が、空気を震わせる。


「心氣顕現――ガーディアンスター」


次の瞬間、彼女の手に円形の小型盾が顕現した。

左右それぞれに浮かぶそれは、まるで夜空に並ぶ双星のように淡く光を放っていた。


「それが……お前の武装か?」


「はい。私は“守護”に特化した型です。顕現能力は《防壁展開》。

 衝撃、暴走、氣の流失を抑制することに特化しています」


「なるほど……確かに心強い」


「さらに、心氣顕現には“能力”が宿ることがあります。

 使用者の内面、記憶、欲望に応じて、独自の特性が顕現するのです」


「……自分の欲望、か」


「あなたにも、きっとふさわしい能力が現れるはず。

 さあ、始めましょう」


海人は深く息を吸い、目を閉じた。


「ただし、ひとつ言っておく。爆発するかもしれないぞ」


「そのためのバリアです。――全力で、どうぞ」


刀の形。重さ。手に馴染む感触。

海人は、これまで幾度となく握ってきた“武器”を、心の中で明確に描き出した。


氣を両手に集中させる。

だが、やはり氣は暴れ、形を定めきれず揺らぎ続ける。


「ぐっ……くそっ……!」


「《防壁展開・強制安定》――外部拡散を遮断。制御、補助に入ります」


ゼロの盾が青白く輝き、海人の手元を包み込んだ。

そして、彼の脳裏に過去が蘇る。


(……俺はずっと、奪われてきた)


家族に、仲間に、力に……

そして何より、“生きる意味”そのものを。


(なら、今度は――)


「俺は奪う。奪い返すんだ!! 全部……この手で!!」


激情が氣を突き動かす。

抑えられた怒りが、渦を巻いて刃の形へと凝縮されていく。


「来い……! 俺の力――俺の“武器”!!」


ドゥオン!!


氣の衝撃がバリアを震わせた。


「……ッ! バリアにヒビがっ……! マスター、停止を!」


「駄目だ! このままいく!!」


ゼロが必死にバリアを維持する。だが、ヒビは広がっていく。


そして――


パアァァンッッ!!


バリアが砕け、赤黒い爆風が洞窟内を吹き荒れた。

ゼロは咄嗟に再バリアを展開し、爆炎を弾いた。

視界が煙に包まれる中、センサーが一点を指し示す。


「……マスター……?」


煙が晴れたその場所には、海人が立っていた。


――微動だにせず。

そして、手には一振りの紅い刀。


血よりも濃く、炎よりも深い。

それは彼の氣が実体化した“存在”だった。


「……ふっ……ハッハッハ!

 やった……ついにやったぞ!! 心氣顕現、成功だ!!!」


「おめでとうございます、マスター」


ゼロが彼の氣の流れを再確認した瞬間、思わず言葉を失った。

暴風のようだった氣が――今はまるで、静かな湖のように安定していた。


完全な制御――ついに、成されたのだ。


「その刀の名前は?」


海人はゆっくりと目を閉じ、答える。


「“奪焔神刀(だえんしんとう)”。

 顕現の瞬間、頭の奥に焼き付いたんだ。そう呼べってな」


「奪い、焔で裁く神の刀……素晴らしい名です」


「……ありがとう、ゼロ。お前がいなかったら、ここまで来れなかった」


「私の存在意義が、あなたの力の補助です。感謝いただけて光栄です」


刀を握りしめた海人の目が、洞窟の外へと向く。


「……この力、試してみたい」


「魔獣狩り、ですか?」


「ああ。俺の力で――この島に“存在”を刻み込む」


もはやその瞳には、諦めや迷いの影はなかった。


焔木海人。

かつて“無能”と蔑まれ、幽閉された少年は今――


己の欲望を刃に変え、

“奪う者”として、再び歩き出す。


――その先にあるのは、奪還か、破壊か。

焔の運命が、動き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る