第4話 孤児院③

 とうとう休みの日が来た。

 レイズエルとイザリヤは朝4時に起き、装備などは無いのでさっさと身支度を済ませて、森の方に向かう。

 途中この村―――ライク村の人々が朝餉の支度をしているのが目に入る。

 村の人たちはすごくいい人達なんだけどなぁ………とレイズエルはぼんやり思う。

 それを横目に、レトマの大森林の入口に到着する。

 入口でイザリヤは怪力を発揮し、2人分の棍棒を、そこらへんに生えている木から枝をもぎとって作った。

 それでもケロッとしているあたり、本当にHPとMPだけが低いのだ。

 筋力は1000―――世界上限なのだから。

「私、棍棒使うかなあ………」

「お前もMPが心もとないんだから持っとけ」

「………はいはい」

 もっともだとは思いつつも、使わないと思うんだけどなあ、と思うレイズエル。

 そして、しばらくは棍棒を使うような事態は何事もなかった。

 イザリヤの提案を聞くまでは。

 道沿いは安全な可能性が高いから、道を逸れよう、と。

 レイズエルも同意し、道を逸れたので連帯責任かもしれない。

 狭い獣道に入ってしばらくの所で降って来たのである。

 何が?

 降って来たのはスライムの雨であった。

「っ!『最上級:無属性:物理範囲結界』!!」

 MPだけでは足りなくて、HPまでMPの代償に持って行かれる感覚がする。

 だが続けて「特殊能力:装具作成」を使って―――特殊能力は何も消費しないので問題はない―――鋭い槍を2つ創り出し、イザリヤに一つ渡す。

 現状は、スライムの張り付く透明なドームの中といった感じである。

「イザリヤ、スライムは核を―――」

「分かってる、貫けば水に戻るんだろう?」

「それだけじゃないの。この星ではどうか知らないけど、大抵結構高値で売れるから、できるだけ無傷で―――一撃でお願い」

 イザリヤがズッコケた。

「レイズエル、お前なあ………」

「難しいのは分かるけど、あんたならできるでしょ。私もがんばるけど………」

「わかったわかった。半分づつだからな」

「均等なLvUpのためにはそれがいいよね………私HP削れてるんだけどなあ」

 レイズエルとイザリヤは結界内から、スライムをチクチクと削り殺していく。

 驚いたことにスライムは逃げるどころか、追加で降ってきた。

「何匹倒したらいいわけ?私だけでも100は倒したよ」

「こっちもそれ位だな。結界は持つか?」

「あと1時間ぐらい。私はMP切れだから、次はる時はあんたに頼むことになる」

「HPを削ってかけるのか?ゾッとするな」

「さっき私もやったんだから」

「そんな事態になる前に掃除してしまおう、それっ!」


 結局結界の切れるギリギリで掃討し終わった。

「イザリヤ、核に簡易鑑定かけて。値段が出るかも」

「わかった『簡易鑑定』」


 名前:青スライムの核 Lv2

 青スライムがドロップする。150ドルドル(金貨1枚、銀貨5枚)の価値がある。

 魔法の触媒になる。


「どれぐらいの価値なのかは分からないが、金貨というのはいいフレーズだな」

「そうだね、どれぐらい集まった?」

 2人で数える事しばし。

 150ドルドルが162匹分で24300ドルドル(金貨243枚)にもなった。

 多分それなりに価値があるだろう、危険を冒したかいがあったというものだ。

 ちなみに2人は後で知ったのだが100ドルドルが金貨1枚、10ドルドルが銀貨1枚、1ドルドルが銅貨1枚だ。

「つっかれたー。これはもう私は戦力にならないよ。今日はもう帰ろ?」

「まあ仕方がないな」


 帰った私たちは、どこ行ってたのと孤児院の仲間につつかれつつ、精神的な意味で不味い夕食をとって部屋に帰った。

 そして、イザリヤが2人に簡易鑑定をかける。

 Lv5 イザリヤ:HP350:MP350 レイズエル:HP350:MP350

 期待以上に上がっていたレベルにホクホクしつつ、2人は寝床に潜り込んだ。


 それからは普段の日のノルマをこなしつつ、森へ入るの繰り返しだ。

 簡易鑑定により、ゴブリンとオークからも素材がはぎ取れた。

 ゴブリンは薬用に肝、オークは丸ごと食用に需要があった。

 レベルは7に上がり、HPとMPも増えた。

 順調だった。

 ただ、先生たちの暴力が酷くなっていくのは困りものだった。

 1度、最年少のアリシャがノルマ未達成でボコボコにされたときなど、先生たちの―――レイズエルとイザリヤ的にはカス野郎でいいと思っているが―――目を盗んで回復魔法をかけなければかなりきつかった。

 その時に回復魔法が使えると皆に知られてしまったため、その後頼りにされるというオマケもついた。

 そして、皆に信頼され始めた頃、それは起こった。


「お前たち!とうとう禁止されている森への出入りの現場を掴んだぞ!」

「度々入っていたんだろう?殺しはしないからこっちに来なさい」

「でないと代わりに、他のに罰を与えるぞ!」

 髪を引っ張られ「先生」の前に引き出されたのはアリシャだった。

「いやぁ!もういや!やめて!」

 アリシャの泣き声に―――レイズエルは静かに不快感と怒りを感じていた。

 カス共は、1番幼いアリシャを生贄に選んだのだ。

 非道な事は魔界で見慣れているが、自分をダシにというのは気にくわなかった。

 そしてその程度の事で、自分たちを好きに出来ると考えている相手の思考も気にくわない。

「『特殊能力:時間凍結:対象・ライク村全域』」

 その特殊能力は発動させた瞬間、周囲から動きと音を奪っていたていた。

 村人も、孤児院の子供達も、「先生」も―――完全に動きを止めていた。

 レイズエルとイザリヤ、その他一名―――孤児院の子供シュリを除いて。

「シュリ、あなたでしょ、大人たちの精神を蝕んでいたのは」

 シュリは焦ったように左右を見回す。

「え………なにこれ、空間凍結!?」

「時間凍結よ、お嬢ちゃん」

 シュリは悪魔としては幼いだろうと見抜いて、レイズエルはお嬢ちゃんと呼んだ。

 まあ、レイズエルとイザリヤにかかれば、魔帝、魔王でも坊や、お嬢ちゃんだが。

「わたしっ、ここにいただけよ!奴らは勝手に私にあてられて―――」

 こちらを上位者と見抜いたのだろう、媚びるようにそう言って来る。

「それだけで人を殺す寸前―――いえ、私たちがいなければ殺してたね―――まで行く事はないんだよ。同族に吐く嘘としてはおそまつだね」

「同族?そんなバカな。何の気配もしないわ」

 レイズエルとイザリヤは顔を見合わせてから、体内で瘴気を練り上げ、シュリの方に叩きつける。純粋な悪魔ではないレイズエルとイザリヤは体内から瘴気の自然発散はできないのだが、瘴気を練って発生させることは可能だった。

「この瘴気は………嘘、当代ベフィーモス様!?もう一つは、すごく濃密………だけど知らないわ。ごっ、ごめんなさい」

 シュリは瘴気のあまりの濃度に真っ青になりうろたえている。

 当然だ、浴びたのが悪魔でも下手押したらダメージを負う濃度だからだ。

「その通り、私は当代ベフィーモス、イザリヤだ」

「私の方は、元の姿なら分かったでしょうね。第4王子の妃よ」

 シュリが絶望的な顔になる。

「わたしを殺すの………?」

「そんな事はしない、悪魔としては当然の行動だし」

「だが、私たちには邪魔なんだ。魔界に帰ってくれないか?」

「………わかりました。もう一息で悪魔に堕ちる大人たちは貰って行っても?」

 それは、孤児院に保護者がいなくなるという事だ、が確かに「先生」達を置いて行かれても困る、と2人は考えた。

 イザリヤが言う。

「新しい先生を送ってくれるように国に要請できるか?」

「わたしの方でやっておきます」

「それなら、問題はない。やると誓うか?」

 悪魔や天使は誓いに強く縛られる。破れば死ぬので、誓った事は信頼できるのだ。

「誓います。3ヶ月ぐらいで来ると思います」

「わかった。じゃあ先生たちの時間凍結を解くね」

 レイズエルがパチンと指を鳴らすと、先生達が動き出す。

 訳が分かっていない先生たちの元にシュリが駆け寄り、濃密な瘴気を浴びせる。

 それを浴びた先生たちの足元に堕天の魔法陣が現れる。

 もう瘴気を浴びただけで堕天する状態だったのか………と2人は少し驚いた。

 忘我の状態で魔法陣に吸い込まれていく元先生たち。

 それを見届けたシュリは、レイズエルとイザリヤに礼をして『テレポート』でどこかに消えていった。


「と………解決したのはいいけど、集められた子供達どうする?」

「ヴァンパイアの魔眼のひとつ、記憶操作を使おう」

「どういう風に操作するつもり?」

「ここに集まったのは先生の辞任の報告を聞くため。先生はもう旅立った。今後の予定は新しい先生が来るまで、最年長者が村長さんと相談して決める。解散」

 最年長というと14で成人で孤児院を出るので、13歳ということになる。

 7歳児の外見のレイズエルとイザリヤよりマシであろう。

「そだね、それでいこうか」

 レイズエルは一人づつ時間凍結を解いていく。

 解かれた子を一人一人記憶操作して放流。

 そして全員が終わった。


「これでとりあえずは最年長者に任せておけばいいな」

「夕方には食堂に予定表が貼り出されてるといいね」


 期待通り、多分村長さんの好意で、今までの予定表より良心的になった予定表が、食堂に張られる事になった。

 2人はようやく邪魔なく孤児院で過ごせるようになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る