第3話 孤児院②

時刻は間もなく8時。

レイズエルとイザリヤは、部屋の明かり―――ささやかなランプ―――を消して、消灯したようにみせかけ、同じベッドに入った。

1人用ベッドなので狭苦しいが、離れたベッド同士の話し声は見回りに引っかかるだろうと思っての事である。


「で………他に分かった事だけど」

 まず簡易鑑定にも表示されていたように、このせかいには、レベルの概念がある。

 レベルのあげ方は、モンスターを倒して「経験値」を得る、のみ判明。

 他のあげ方は、あるのかどうかも不明。

 経験値をどれだけ貯めればレベルが上がるのかも不明だ。

 レベルが上がると、HPとMPに今の(1レベルの)HPとMPの半分が加算される。

 その他の能力値に関しては不明。

 だが、レイズエルとイザリヤの場合、HPとMP以外は元々の能力が引き継がれているので上がらないと推定されるとレイズエルは推測する。

 ちなみにザックのHPを聞き出してみたが40で、それでも大人よりだいぶ高いという事から自分たちの能力値が規格外なことが判明。

 普通の10歳ぐらいはHP・MP共に「5」ぐらいなのだ。

 あのHPとMPと、転生前の能力――― 筋力・生命力・敏捷力・知力・精神力・器用力―――があるのだから、規格外にも程があると言えるだろう。

 おそらく「破壊の蛇」はこれ以上私たちの能力を下げられなかったのだろう。


「やろうと思えば先生たちから孤児院を奪えるかもね?」

「それはレベルが上がってから考慮する方がいいだろう。大人たちの能力も分からないしな………他は?」

 イザリヤなら冷静な判断を下すだろうと思っていたレイズエルは、その通りであったことに満足すると続きの情報を口にする。


 経験値を稼ぐなら、村から近い所なら弱いモンスターが出る「レトマの大森林」に行くのがいい。奥まで行くと加速度的に敵が強くなるので注意だ、とザックが言っていた。何度か入った事があるらしい。

「休みの日に行くのがいいな」

「そだね、慣れてきたら後は夜とか」

「それも考慮しよう」

 夜はレイズエルたちの時間なので、候補に入るのである。


「さてと、レベル上げの話が出たから冒険者についてだね」

「頼む」

 このせかいに冒険者は存在する。

 八個になる国家にまたがる大きな組織だそうだ。

 国家の名前はザックが把握してなかったので、今後調べる。

 ただ、この国はセタンマリー王国というらしい。

 あと、冒険者には階級があり、アイアンが最低で、冒険者ギルドの試験を突破したら飛び級もあるらしい。階級の種類は―――

 アイアン・カッパー・シルバー・ゴールド・プラチナ・ミスリル・オリハルコン。

 飛び級できるのはどこまでなのかは、ザックも知らなかった。

「ふむ………平民上りがのし上がるには丁度いいか?」

「あちこちに働きかけて、脱出の条件を探るには、どこかで爵位を得るような活躍が必要かもしれないね」

「そうだな、それで、他にはあるのか?」


「そうだね―――私たちはこの村「ライク村」ではおおむね好意的に受け入れられてるみたい。手伝いする、悪さしないっていうのが効いてるみたいだね」

「なるほど、明日・明後日の奉仕活動みたいなやつか」

「そういうこと。今回のは村中を手伝うとあって特に評判がいいみたい」

「ノルマを達成できない奴とか出てこないか」

「それは、あの先生たちの出番でしょうね………」

 イザリヤは嫌な顔をした。


「あと、オマケ程度の情報だけど、この孤児院はセタンマリー王国の第2王女が各地に建ててくれたものの1つらしいよ?だから先生も公務員」

「あれで公務員………嘆かわしいな」

「それは、多分、あの彼女あくま―――シュリちゃんの影響だから」

 レイズエルとイザリヤを含む悪魔には、そこに存在して意識するだけで、その場の人間の意識を悪徳に向かわせる事ができる。

 それは、生まれついた種族に根ざすものがほとんどで、レイズエルとイザリヤは後天的に獲得している。

 レイズエルなら魔帝領民の『傲慢』を。

 イザリヤなら戦魔領の『憤怒』を撒くようにできているのだ。

 あの食事の場でシュリが振りまいていたのは『憤怒』と『権力欲』だった。

 そこから権魔と戦魔のハーフだろうと推測できるのである。

 隠蔽していたようだが、レイズエルとイザリヤにとって、彼女の瘴気の質を読み解くことは容易かった。それゆえの判断である。

「抑え込むことはたやすいと思うよ。私たちがレベルを上げればね」

「次の休みの日まで我慢か………」

「森にレベルアップできる敵が本当にいるのなら、ね」

「疑問だが仕方ない。それよりは寝る前なのだしアレをやらないか?」

「アレ?」

「『最上級:無属性魔法:上位鑑定』だ。MPは足りるのだろ?」

「あ―――情けないけどギリギリ。一応足りるかな」

「なら、それを頼む」

「分かった。『上位鑑定×2』」


名前:レイズエル=ライラック=リリス 髪:絹のような艶やかな黒、膝まで

瞳:メタルレッド 肌:雪花石膏のような白 その他:超越した美貌

誕生日3月23日

初期能力:HP100/100、MP20/100

種族:オーバーロード(超越者)、吸血鬼の祖、超常の歌姫、神の器

職業:魔術師(10Lv)、賢者(10Lv)、治癒師(10Lv)

   戦士(5Lv)、狩人(4Lv)、魔具作成師(10Lv)

   最高司祭(10Lv)、真名取り(10Lv)etc

能力値:(最高値1000)

筋力………560

生命力………520

敏捷力………970

知力………1000

精神力………1000

器用力………920


他、特殊能力多数。


名前:イザリヤ・フォン・アーデルベルク

髪:腰まであるはちみつ色のストレート

瞳:バラ輝石のような赤 肌:雪花石膏のような白

誕生日:10月23日

初期能力:HP100、MP100

種族:悪魔、人間、吸血鬼の祖

職業:騎士(10Lv)、魔法戦士(10Lv)、魔具作成師(5Lv)

   魔術師(10Lv)、狩人(10Lv)、盗賊(7Lv)

能力値(最高値1000)

筋力………900

生命力………1000

敏捷力………1000

知力………880

精神力………870

器用力………550


他、特殊能力多数


「ふーむ、やはり低いのは、この星特有のHP・MPというやつだけのようだな」

「それさえ気にしなければ普通に振る舞えるけど、油断は禁物だよ」

「分かっている。とりあえず明日からの課題をこなす事にしよう」

「じゃあ、今日はお休みね」

「ああ、、また明日………」


 次の日


 レイズエルとイザリヤは5時半に同時に目を覚ました。

 向かい合わせの状態でお互い顔を見合わせる。

 が―――イザリヤから煙が上がっている。

 イザリヤは慌てて『定命回帰』をかけなおす。朝日が体を焦がしていたのだ。

 窓にはガラスなどないので、木戸を閉め忘れたのが失敗だったようだ。

「イザリヤ、大丈夫なら顔洗いに行こう」

「………毎朝かけないといけないのか、窓の締め忘れは致命的だな。」

「気分は分かるよ………私もそうだった」

「お前、ヴァンパイアを超克した先がヴァンパイアじゃなくて良かったな」

「オリジンヴァンパイアってやつ?それでもよかったけどね」

 でもヴァンパイアは弱点が多いからねえ、とレイズエルは呟く。

「まあ………その通りだな。顔を洗いに行くぞ」

 

 顔を洗い、また緊迫した食事を終えると―――今回は獲物になった者はいなかった―――草むしりに行く。

 レイズエルとイザリヤは同じ班だった。

 その他はメリアとミロ。

 メリアは炎の様な髪を長く伸ばした、そばかすのある、活発な女の子。

 スターマインドからもらった情報によれば8歳。

「レイズエルちゃん、イザリヤちゃん、頑張ってノルマを達成しようね!先生が怖いから!担当はログズさんの畑だよ!」

 元気にそう言ったメリアとミロに連れられて―――というか初めてな事がバレないように後ろについていき指示通りにした―――農具をしまっている小屋に入る。

「今日はこれだね、はい」

「村の皆に恩返しできるようにがんばろー!おー!」


 草刈り&むしりをしながら、レイズエルは気になった事を聞いてみる。

「村の皆に恩返しって、何?」

 メリアに問いかけてみる。

「え?孤児院を建てたのも、食料をくれるのも村の皆なんだし、当たり前でしょ?」

 ミロも頷いている。

「ああ………そっか、そうだね」

 それでレイズエルは理解した。

 先生からの体罰だけが余計で、村人の手伝いは孤児院の子供たちが、ほとんどの子は望んでやっているのだと。

 ただ大人たちの体罰は、シュリの存在によってエスカレートするだろうし、どこまで黙って見ていればいいのか迷う所である。

 

 作業を予定通り済ませた―――イザリヤの身体能力によるところが大きかった―――レイズエルとイザリヤは、食事を終え、部屋に帰って来ていた。

 が、レイズエルは完全にへたばっていた。

「いたたたた、もう体が痛い………」

「お前な………500オーバーの生命力があるのに、何で体が痛い!?」

「知らない!身体訓練は昔から毎日してきたよ。でも体が肉体労働に慣れてくれないのー!」

「………そうか(呆れてる気配)明日も頑張れよ」

「もー!!」


 レイズエルとイザリヤは休みの日まで頑張った。

 井戸の水汲み、野菜の収穫、村人たちに出す炊き出しの手伝い―――

 順調に終わったのだが―――レイズエルは魂が抜けそうになっていたが―――ノルマを達成できなかった班がむち打ちされた時には真剣になった。

「イザリヤ、早く私たちはHPとMPを上げる必要があるね」

「そうだな………ただの喧嘩なら放っておくが、権力をかさに着たあの振る舞いには吐き気がする。カスが」

 明日は休み、森の中にレベルアップできる魔物がいる事を願って―――

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