an encounter with scarlet②
「それでは魔石研究家、マーク・ティーエンス氏にご登場していただきましょう」
――カーラ国際会館
暗闇と静観に包まれた一つの講堂で紹介アナウンスが流れる。
一斉が注目する中、スポットライトが照らす舞台に一人の人物が上がり、手に持ったマイクを口に運ぶ……。
「只今、ご紹介にあずかりました魔石研究家のマーク・ティーエンスです――」
男は白衣に身を包んで優雅に喋り、自身について説明する。そんな姿を遠い客席から見つながらアーロはノートに走らせる。
彼には二つの目的があった……。1つは「首飾り」について知ること、そしてもう1つはマークが見つけた「未知の魔石」について取り上げることである。
二年前……マーク率いる研究チームはヴィオラート大陸にて、魔石の調査を行っていた。その過程で彼はどんな形にも変化する魔石を発見した。
その魔石は一見、何の変哲もないただの魔石のようだった。しかし何かのきっかけで突然、それは別の物質に変わっており、その現象を目撃したという。それ以来、彼はその解析と研究に長い月日をかけて尽力を費やしていった……。
今回はその結果について発表されることになる。このことは近年注目を集めており、あらゆる者たちがその内容に興味を示していた。
「ではまず皆さんこれをご覧ください」
そう言って出されたのは握り拳一つ分くらいの大きさの球体だった。血を彷彿とさせるような赤黒さが特徴的なその球はなんとも不気味な色合いをしており、まるで本当の血液が含まれているんじゃないかという疑念を抱かせるような生々しさがあった。
「今回私たちが研究してきたものですが、これは従来の魔石にない〈柔軟性〉と〈あらゆる状況で変化し形成〉する性質を併せ持っていることが分かりました」
二つの性質……だとしたらすごい発見だ。
魔石は生命の流脈、別名「魔力」が結晶と化したものだ。これは莫大な流動エネルギーを秘めており、そのまま使用することは難しい。
そこで「魔石士」が手を施す。彼らは魔石加工の専門家で魔術構築の
しかし今、紹介されたあれはその常識を覆すことになる。特に魔石士の手を必要としないこと、つまり誰にでも扱えてしまうということになる。
ありえそうな未来、頭の中で怖い想像してしまう……。
「実際にお見せしましょう」
すると手元の魔石が歪み、ドロっと液化していく。この現象に会場全体はざわついた。さらに驚くのはこれだけではなかった。なんと手のひらの上で液体がだんだんと凝縮していき、何かを形作っていく。
そうして出来上がったのは一つの水晶のような鉱物だった……。
「これはほんの一例ですが、このように形を変えることができます」
――この発見は、今までの魔石の技術に革新的な発展をもたらすことになるでしょう。
今日まで私たちの生活は、魔石の形を変えることなく中のエネルギーを使うことがほとんどでした。しかし、これは自由自在に形を変える性質があるため、応用すれば機械のパーツや建物の一部、果ては乗り物自体といったものに作り出すことができるようになると考えられます。
ですが、現時点で課題点も多く存在しており、まだまだ研究が必要になってくるでしょう……。
「そしてこれは研究の最中ですが、もっと驚くものを皆さんにお見せしたいと思います」
会場全体がざわつく中、マークは魔石にそっと手をかざす。するとさっきと同じように液化すると今度は球体へと形を変化させていく。だがここで終わらなかった。
なんと風船のように徐々に膨らんでいき、最終的には人一人分くらい入りそうな大きさまで肥大化する。
――ドクンッ! ドクンッ!
球は心臓のような規則的な動きを見せており、さらに変化を続けていく……。
「こ、これは……」
この時、まるでありえないものを見たかのようにアーロの目は大きく見開いた……。
マークの横……、なんと彼の隣には四足歩行の魔獣が立っていたのだ。
この瞬間、会場全体がシャッターの嵐に包まれ、驚きの数々が示される。
「皆さん、驚かれましたか?」
――実は私も最初に発見した時、皆さんと同じような反応でした。ですがこれは紛れもない事実なのです。
今、造り出したもの以外にも他の種も作れることも確認されております。ですがこれもさっきと同様、さらなる研究が必要となります。
この仕組みを解明できれば、「医療」にだってこの魔石を生かすことができるかもしれません。もしできたとしたら、移植用の臓器や手足などの部位を造り出して、難病を抱える患者の治療にだって活かせれるかもしれません。
「最後ニなりますが……」
するとパッと場内の明かりがつく。
「あれ……?」
しかし目に映る光景は何かが変だった……。
最初、ここに入ったときの内装はどこにでもある講堂だったはずだ。だがこんなに全面真っ赤だったか? それとも何かの演出か? そう思ったが、こういう場でわざわざするようなことではないような気がする。それに仮にそうだったとしても、こんな気味の悪いような感じにするものだろうか?
すると突然、悲鳴が上がり顔がそちらの方へ向く。舞台の方を見た時、アーロは驚いたように目を見開いた……。
そこには赤い液体がすごい勢いで噴出し、飛び散っており、その前には軟体動物のような長い触手を振るうマークの姿があった。
「皆さん二はこれから我々ノ餌にナっていただきます――」
そんな意味深な言葉を言い放つと魔獣が液体の方に向かって勢いよく飛びつく。その先には人の遺体があり、それを貪っていく……。
さらにそれに続くようにマークの背後から同じような個体が二体も現れると周囲に散っていき、次々と人々を襲い始める。
逃げ惑う者たち、連続して上がる悲鳴、絶え間なく降り注ぐ血の雨、会場はパニックに陥ってしまう。
「おい、逃げるぞ」
「逃げるってどうやって……!?」
「確か、出口があったはずだ。そこに……、!」
すると「グルルルル……」唸る声が聞こえ、アーロは振り向く――
「……アーロっ!!」
この瞬間、アズマの手はアーロの肩を掴み、クイッと後ろに引っ張る。
一瞬、何が起きたのか分からなかった……。だが今、この体が倒れる数秒……、この目に映ったのはその彼が凶暴な牙に腹部を貫れるところだった……。
「……ア、アズマ!!」
衝撃と驚愕が脳を刺激する。
「おまえ……、オレを庇って……」
「ウッ……!! 早く……逃げろ……」
逃げるそんなことは分かっていた。だが、そのあまりにもショッキングな光景に足がすくんでしまう。
「おいっ!!! 早くッ……!!」
その時、食い込んだ牙が皮膚を喰いちぎる……。裂かれたところからは血が溢れ、その隙間から腸が露わになる。すると今度はそれをグッと口で噛むと引きずり出し、中を貪り始める――
「うぅっ……!」
あまりに惨い光景を前に彼の顔は青ざめ、無意識に足が後ずさる……。だがその血塗られた鋭い眼光がそれを逃すわけもなかった……。今度はアーロに狙いをつけるとゆっくりと近づき、一気に腕に飛びつく。その勢いは体を大きく後ろへのけぞられせ、数名とる先までいく――
イ、痛い……。ああ……喰われていく……。
喰らいつく力が強くて、苦痛に耐える中で口を抑えるのが精一杯だった。だがそれももうできなくなっていた。
ああ……死ぬんだ……。無残に転がって、跡形も残らないほどに……。
腕から力が抜け、抑える手が自然とダランと下がる。この時、脳裏によぎったのはあの時のアズマの言葉だった。
『オマエなぁ……いつかろくな目にあわんぞ』
まさにその通りだ。あの時、彼の忠告を聞いておくべきだった……。だけど分かるわけがない……いつ、どこで、何が起きるかなんて……。
「ク、クソォ……死にたくない……」
そんな切実な思いをアーロは口にする。しかし現実は残酷だ……ただ自身の死を待つだけしかできないのだから……。
そんな時――
コツ、コツ、コツと靴の音が聞こえる。
「はは……こんな時に幻聴が聞こえてくるなんて……」
だんだんと近づいてくる足音、見るとあの時の少女の姿がそこにあった。
走馬灯ってやつか……。ああ……そういえば店に行く約束をしてたっけ……。
「悪いが……行けなさそうだ……」
やるせない表情で見下ろす彼女にアーロはそう呟く。
すると少女は人差し指を向け、パンッ! と一言呟く――
きゃいんッ!!
そんな甲高い声とともに破裂音が聞こえ、目が大きく見開く。
幻覚じゃない? い、一体……。
何が起きたのかさっぱり分からなかった。けれど目の前には彼女の差し伸べた手があった……。
アーロはその手を取り、立ち上がるとその先で柔らかな表情が語りかける。
「大丈夫?」
「この状況を見て、よく言えるな……」
「ふふ……」
ホント、この子は相変わらず……
だがそんな彼女の背後に二つの獰猛な牙が先を光らせ食らいつこうとする姿が見える。
「あぶねっ!」
しかしその瞬間――
ザザァッ!!
突如として二つに裂く音が走る。
「もう! お話している最中なんだけど!」
「……」
な、何が起きた、急に魔獣が二つに……。
「き、君は一体……、何者?」
困惑の表情を示すアーロに対し、少女は振り返えると軽くほほ笑む――
「ヴェルメリア、ただの”魔石士”だよ……」
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