調彩のプライマリア
シロイロ
an encounter with scarlet①
夢を見た……。
金色に輝く夕日が静かに照らす森の中、木々の香りと心地よい風に包まれて……、あなたと言葉を交わしたあの日のことを……。
魔術や魔石のことを笑顔で話すあなたの姿は自分にとって好奇心をもたらしてくれる。あなたがいなくなった後もこの気持ちは変わらない。だって、大切なものだから……。
だからいつまでも持ち続けよう……。
どんな時だって……。
そう、それが例え死の危機に直面したとしても……。
「……動けッ!! 動いてくれ――」
目の前の危機を前に、アーロ・ガーナーは己の体に訴える……。それは目の前の
あるのはたった一人……、捕えらえた少女を助け出すこと。それだけが頭の中にあった。
「クソッ!! 彼女だけが希望なんだ……! 彼女だけが……」
しかしその体には二つの深い傷があった……。血は多く流れ、頭がくらくらする。さらに足がけいれんし、動くことすらままならない……。
「くッ……!」
だがそんな時、突然首飾りが光り始める。
「な、なんだ!?」
――キィィィン!!!
光はどんどん強まる。それは太陽のように眩く、周囲を照らすほどの輝きとなって大きくなっていき、周囲を飲み込んでいく。
そして次の瞬間、目の前は白く染まっていく――
♤♤♤
〈新生活に新たな光、あなたの暮らしを大胆に照らす魔装具〉
「……なんか違うなぁ」
書き上げたメモに悩ましげな表情が向く。
『う~ん』
と唸るような声を出しながら、にらめっこをするとくるくるとペンを回す。
「何が違うんだ?」
横から声が入る。
声をかけてきたのはアズマだった。
彼とは仕事上ともに行動することも多く、今日だって仕事上こうして一緒にいる。同じ記者としてだろうか? そんな職の不思議がそうさせているかもしれない……。
「実は先週取材した記事を考えていたんだ……」
首を傾ける彼に対し、アーロはそう答えると書いたメモを見せる。
「あ~、確か新しい魔装具についてだったか?」
「それなんだが、全然いいアイデアが浮かばなくてなぁ」
ホント、困った話である。このところこんなことばかりだ……。書いては斜線を引いて、書いては斜線を引いての繰り返しだ……。
今日もこうやって飛行船のエンジン音がずっと聞こえている中、狭い席に座ってコーヒーを飲みながらずっと考えている。が、結果は見ての通り……。
そんなスッキリしない様子を見て、アズマは『やれやれ』と口をこぼす。
「ま、そうやって考えるのもいいが、今日の目的を忘れるなよ」
「ん? ああ……」
彼の言葉を聞いて、スゥーと一呼吸してペンを静かに置く。
――確かに今日のことをおろそかにしてはダメだな
そう思いながらふと窓の奥に広がった青々とした景色を見るとふと今日のことを思い起こす。
「魔石の都かぁ」
その場所は歴史上で初めて魔石で栄えた場所である。
遥か昔、1人の魔術師が”カーラ”という村においてとある鉱石を見つけた。”魔石”と名付けられたその結晶物は内に莫大な流動エネルギーが巡っており、魔術とともに使えばたとえ小さな術でも周囲を荒野に変えられるほど大きな力を秘めていた……。
そんな性質を魔術師は長い間研究し、やがてある技法を編み出した。それは魔石の持つエネルギーを他のものへと変換し、使用するというものである。
この技法はこの世界に革新的な発展をもたらし、いつしか村は大きくなっていった。そしていつしか国へと変化していき、現在では〈世界の中心国〉の1つとまでに数えられるまでに至った。そんな国に仕事とはいえ、行くことになるとは思いもしなかった……。
だけど……
「まさか”初めて”が仕事とはな」
「なんだぁ? ”憧れの場所”だったんだろ?」
確かに間違ってはいない。けれどどうせだったら仕事じゃなくてプライベートで行きたかった……。
だけどそう贅沢は言ってられない。
そんな複雑な想いを抱え、アーロは自身の首元にある首飾りに触れる。
――ご乗船の皆様まもなく魔石都市カーラに到着いたします。
そこへ船内にアナウンスが流れる。船の高度はだんだんと下がっていく……。
「おぉ~」
乗船所から一歩外に出ると、その喧騒に驚かされる。大小さまざまな建物が近くから遠くまで並び立つ。
「これが中心国の都会……」
並び立つさまざまな屋台、人混みの数、魔石製のオブジェクト……、今まで見てきた街並みとはまた違った世界に心躍らされる。「色んな歩いてみたい」そんな純真な好奇心が自身の中から湧き上がってくるのを感じる……。なんなら目の前に広がるこの華やかな広場でさえもそう思えてくる。
「うぁ~、どれも気になってしまうなぁ」
「おいおい、そういうのは後にしてくれよ」
「だって、こんななもの気になってしまうだろ?」
「おまえなぁ……前に一緒になった時、オレがどんだけ苦労したと思ってるんだぁ」
「あ……」
「まったく……」
「はぁ」アズマは軽くため息をこぼす……。
そんな中、「あ、」と何か思い出したような表情を浮かべると「そういえば」と一言口にする。
「おまえ、あれ知っているか?」
「あれ?」
「例の神隠し」
「あ~、確か二年前から起きている奇怪な現象だっけ?」
――二年前、カーラ内の”綺飾区”という地区で不可解な現象が起きた。
それは次々に人が忽然と姿を消すというものだ。
刑査団は当初、”魔装具”による人為的な「誘拐」や「通り魔事件」と見て調査をしていた。しかし現場には人や魔力の残滓は見つからず、血痕のみが残されただけの状態だった……。
だけど普通だったらありえない……。これだけ大きな街で人がたくさん出入りする場だと”迷子”にはなっても人自体が”消える”ことはまずない。しかもこれが連続で起きている。
この一連の出来事について連日議論が交わされていたが結局は不可思議な現象として落ち着くこととなった。そのため、これは〈神隠し〉の名として通っている。
「――でそれがどうしたんだ?」
「最近またまたあったらしい……」
そういえば、最近新聞に出ていたのを見たような……。しかも珍しく総合面に載っていたから驚きだった。
「なんか今までと違った感じだったんだろ?」
「ああ、何せ魔獣が食い荒らしたような跡だったらしいからな」
さらに驚いたのがこれだ。今までは血痕だけだったのが、今回のはなぜか「遺体」それも無残に喰いちぎられたような状態で発見されたそうだ。
「……恐ろしいねぇ、ああはなりたくない」
同感だ……とはいえアズマほど心配したくはない。
だってそうだろ? そればっかり考えていたら、興味が冷めてしまう。こういうのは頭の片隅にしまっておくぐらいがちょうどいい。
「ま、大丈夫でしょ」
「おまえなぁ……いつかろくな目にあわんぞ」
「ま、今日ぐらいは神様が空気を読んでくれるって」
そうアーロは前向きに答える。
そんな時……
――ドサッ!
突然、何かに当たったような感覚がすると『きゃっ!』という甲高い声が上がる。
何事かと思って前を見ると少女が尻もちをついており、痛そうにしていた。
「イテテェ」
「大丈夫か?」
「うん……、平気」
そう言うと手で汚れを払いながら立ち上がるとせかせかもその場を後にしようとする。
しかし――
「……まっ、待った!」
そんな彼女に声をかける――
「君、どこかで会ったがことないか?」
なぜ、こんな質問をしたのか、自分でも不思議だった……。
初対面のはずなのになぜか彼女を見ているとそうじゃないような気がする。
既視感といえばいいだろうか、そんな感覚が自分の中にあった。
しかし少女は首を横に振る。
「ううん、初めて」
まぁ、当然か。変な質問をしてしまったなぁ……。
少し足を止めてしまったことに対し、少し申し訳ないと思ってしまう。そんな二人の間にはぎこちない空気漂い、お互いしばらく沈黙した状態に陥ってしまう……。
しかしそんな中、「ねぇ……」と今度は彼女の方から一言がかかる。
「さっきから気になってたんだけど、胸元のそれって魔石?」
「これか? 確かにこれは魔石だけどよく――」
しかしアーロの口は止まり、戸惑ってしまう……。
なぜならそこにはキラキラと青い瞳を輝かせ、嬉しそうにしていたからだ。
「わぁ~!! やっぱり」
すると少女はグイッと体を前に出す。
のわッ!? きょ、距離が近い……
「おっ、おい!?」
「透き通るような奇麗な黄色と艶、それを際立たせるために造形された三日月のようなフォルム、あ~、なんてすてきなんだろう!」
ダメだこの子、のめり込んで自分がどんな状況か分かっていない……。
「ねぇ、なんで下がるの?」
「い、いや……」
「い~じゃん!」
今でも密着しそうな距離……目のやり場に困ってしまう。
うぅ……、今時の都会の子って全部こんな感じなのか? い、いや、地元でもこんな子見たことがないぞ。あ、そういえばここは都会の中でも〈大〉が付くほど大きかったような……。
あぁ! 分からん……。と、とにかくどうしよう、これ……。
しかしそこへ「待て待て!」と横からアズマの声が入り、2人を離す。
「おら、離れる!」
「ぶぅ~、せっかく見てたのにぃ……、ケチィ」
「まったく、こういうのはどっかの知りたがりバカだけでいいっての……」
助かった……。だけどなんだろう、なんかムカつくような言い方……。
だけどこんなに興味を示すなんて……ちょうど良かった。
「もしかして君は”魔石士”だったりする?」
「そ~だけど、どうして?」
「実はこれについて何か知らないかと思ってな」
「おい!」
「分かってる」
だけどこれだけは聞いておきたい。
幼い頃からあるこの首飾りは常に謎に満ちていた……。きっかけは何気なしに実家の倉庫のものを物色していた時だった。魔術の道具やらなんやらで埋もれていた中にこれがあった。最初はなんとなくただ眺めるだけだったが次第に好奇心が湧き、調べることにした。だが、結果は分からずじまいだった……。そこから実家を離れて、仕事で色々な場所を訪ねてはこの首飾りについて情報を集めようとしたが手がかりはなかった。
ここに訪れたのも単に
そんな淡い希望をアーロは彼女に抱いていた。しかし少女はむつかしいような表情をしていた。
「う~ん、ごめんね、正直アタシもよく分からないんだ」
「……そうか」
「だけどこの「感じ」を知っているような気がする……」
「それってどういう?」
彼女の不思議な呟きに首が傾く……。
「う~ん、口で説明するのは難しいなぁ。そうだ、店に来てよ」
「店? すまないが予定があって――」
「別に今すぐじゃなくていいの」
「はい、コレ」と言って渡されたのは一枚の紙だった。
――魔石と色香の煌めくお店【コーラル・ガーデン】
「ここに来たら、おにぃさんが気になっているものも知れるかもしれないよ」
少女はそう言い、去っていった……。
すごく印象的な子だったなぁ。嵐のように現れ、去っていった。しかし、あの子が言っていた『知っているような気がする……』とはどういう意味だったのだろうか。それに本当に……この店に行けばほしいものが手に入るのだろうか……?
「あぁ~、すごく気になる」
――だけど今は仕事に集中しないとだな……。
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