第27話 お腰につけた三色団子

 委員長の叫びが聞こえて来る。


 そちらに目を向けると、霊子の前に立ち、まるで自由の女神のように何かを掲げた委員長の姿があった。


 何かではない。


 ナニだ。


 お茶の間には見せられない、大人のおもちゃだ。


 ラブホの廃墟になら、あってもおかしくはないが――


『キイイイイイイイイイイイイ!!』


 効果はてきめん、平定がそれを見て絶叫した。


 いまの思考回路では、本物とおもちゃの区別もついていないのだろう。


 俺にはもう目もくれずそのまま突っ込んで行く。


 委員長と霊子はそれを確認して駆けていく。


「ぐ、ぐ」


 放っておくわけにはいかない。


 腰の痛みに耐えて起きる。


 傷口を押さえてみたが、あまり血は出ていない。実際の包丁より鋭すぎたんだろう。


 これなら、行ける。


 女の子二人、危険にさらして寝てたら何のための筋肉だ。


 そのために鍛えたわけじゃないが、そのために使わなきゃ何に使う。


 腰の傷口を押さえ、俺も急いで部屋の外に飛び出した。


 廊下のストロークの奥のほうを、委員長が走っている。


 その先の階段の入り口辺りで、霊子が5Qを必死に動かそうとしていた。


 吸い込み口が階段側に向いてしまっているのだ。


 前後ひっくり返さないといけないが、彼女の細腕では動かせない様子だ。


 ブラックホールの関係なのか見た目の数倍重い――というか、実際、米俵よりはるかに重い。100キロはないと思うが、女子が持てる重さじゃない。


 俺が行くしかないが、間には平定がいる。


 くそっ、どうする。


 そんな俺の様子に気づいたのか、それとも霊子のほうから引き離そうとしたのか、委員長は手近な部屋に飛び込んだ。


『キイイイイイイ!! 間女ァアアアアアア!!』


 平定は赤い残光を引きながら追いかけて行く。


「!」


 おかげで道が空いた!


 全速力で廊下を突進する。


「霊子! 俺に任せろ!!」


「それでこそわが助手!!」


 バズーカ状に変形した5Qをひっつかみ、持ち上げる。


「よっしょおあ!!」


 気合を入れないと持ち上がらない重さ。


 やはり神輿を担いだ時のような凄まじい重圧がのしかかる。


「ぐっ」


 その重量で、腰の傷口から血が噴き出した。


 ぬるりとしたものがズボンとの間にたまっていくのがわかる。


「お、おい! 大丈夫なのか!」


「心配するな」


 大きな血管はない所だから、大丈夫のはずだ。


「なら傷口はボクが押さえておく!」


 霊子の小さな手が、傷口を圧迫した。


 ひんやりとした感触に不思議と痛みが消えていくようだ。


「委員長を助けるぞ。ついてきてくれ」


「無論さ」


 お腰につけたきび団子ならぬ三色団子。


 二人三脚の要領で、委員長の入った部屋に飛び込む。


 そこには巨大な回転ベッドがあり、その分狭く逃げにくそうななのだが、委員長はそれを苦に思わせない華麗な動きで避けていた。


 小気味良い連続ジャンプは、新体操がフィギュアスケートのようだ。


 もう真っ暗になった中、これほどまでに見事な動きが出来るのは驚異的だった。


 如何に平定が鬼火に包まれているとはいえ、よほど夜目が効くんだろう……いや、メガネだし、そういうわけでもないだろうから、たぶん度胸が凄いのだ。


『キィイイイイイ!!』


 捕まえられないことに憤慨したのか、怒り狂って包丁を振り回す平定。


 しかし、それが当たることはない。


 安心したのもつかの間、包丁が、天井近くのシャンデリアもどきの照明をたたき割ってしまった。


「あらら」


 いつも通り呑気だが、地面にガラス片が散らばってしまった。


 これでは飛び跳ねることができない。


 しかし助けようにも、委員長との間に、またしても平定がいる最悪の配置。


 くそっ、どうしてこうも位置取りが上手く行かないんだ!


 委員長はもう回転ベッドから動けない――

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