sonic casket
ロボットSF製作委員会
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快晴と呼ぶには居心地が悪い、そんな初夏のある1日だった。太陽から背を向けるように、私は死角に潜り込んだ。
「母艦は暑くてかなわんな」
強がりつつ振り絞った言葉はそれだけだった。身を預ける材木も、その温度差によってかよらずか、ミシミシと音を立てている。
拝啓、それだけ書いて筆が乗らなかった手紙には、当たり障りのない文章をしたためた。郷里の家族に宛てた謝意は真実である。だが、どうにせよ検閲が入るので、私の真意を伝えることは叶わない。私はもう諦めていた。そんな些細な諦観も、今に始まったことではない。
学校に落ちた時、仕事にありつけなかった時、身なりの違う人間と街ですれ違った時。
極め付けは、私が令状を受け取った時のことだ。家族は虚な目をして、軒先で万歳を叫びはじめた。あまりの突拍子のなさに驚いたが、その後、家中では声を押し殺して泣いていた。もはや、心意を口にすることも能わぬ。そのような世の中で、私は黒い絶望に苛まれた。かつての無念さには、いささかの希望が帯びていた。だが、今は全て黒に塗り変わる。漆黒だった。
こうなっては、祖国の未来に想いを馳せる余暇もなし。祖国が祖国であるのかも分からぬようになった。国を滅ぼすのは敵国であるとして、しかし、私を滅ぼすのは祖国であったからだ。
そんな世の中で、希望を見出し積極的に働く者もいた。代表的なのは、名うての家の者だろう。隣家の子息を戦場に送れば、少なくとも名士の家から出すことは遅延できる。そうした事例は枚挙に暇がなかった。彼らは懸命に働いていた。私たちが滑稽に思うほどに。また、少し郊外に向かえば、これまた空襲に我関せずという態度で、成金の邸宅が軒を連ねている。彼らもまた、我々とは反対によく働いている。
ただ、そうした働きに時間を費やすことができるのも、地縁血縁、金銭の多寡が全てである。かろうじて人としての体を保つ我々は、犬のように吠えることがせいぜいであろう。そして、畜生の如く、骨の端切れのみで郷里に戻り口を閉ざすのだ。こうした不条理もまた敵である、と一度は考えるものだ。しかし、郷里における家族の行末を考えれば、目を瞑り命を差し出す他に方法はないと思わされた。
私の愛する者達を、この世界は人質に変えた。
一つ、誤解のないように言い添えれば、私の境遇はまだ良い方だ。
何の骨かも分からないカケラが、辻褄合わせのように壺に入れられ郷里に戻る。そのような激戦を経験していない。近いうちに定められた死以外は、概ね自由の美酒に浸かっているとも言える。文字通り酒もたらふく飲んだし、出撃の際には、多くの女学生に旗を振って見送られ、これがそう悪い気もしなかった。何日も飢えに苦しみ、病にうめき、救いのない日々を過ごしながらも捨て駒にされる者達へ、私は後ろめたさを覚えた。
さて、もうこのくらいにしておこう。全てのロケットが燃焼を終え、衝突軌道に載った。太陽を背にした進入ルートを取れたのは、我ながら幸運だった。機体は喫水線ギリギリ、目標は前方のターゲットスコープに捉えている。この瞬間、私は世界一の操縦士だった。
「俺は誘導装置じゃない……」
「てめえらの部品になった覚えはねえぞぉお!!」
「勝手に始めて自分の尻も拭えねえ軍部!」
「前線から逃げ続ける将官!」
「クズばっか生き残りやがって!」
「くそったれ
sonic casket ロボットSF製作委員会 @Huyuha_nabe
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