第40話 武人ゲンブ

 『カキーーーン』


 ゲンブの振りかざす薙刀を、バサラが太刀で弾き返した。

 すぐに身構えて、再び睨み合う二人。


 「あの巨大な機械は、まさに禁忌! 対人ではなかろう。白龍様と戦う気だな! やはり東の国々に災いをもたらすのであれば、このワシが天に代わって成敗してやる」


 『カキンッ』


 ゲンブが薙刀を振り下ろし、それを太刀で払い避けるバサラ。

 今度は、バサラが連撃を繰り出していく。


 「禁忌、禁忌、禁忌、何が禁忌だ。主君に武器を向けるゲンブ殿と、やっている事は同じであろう。主君がいなくなって収まるのであれば、白竜がいなくなれば禁忌も悪習も無くなるであろうに!」


 『カキンッ、カキンッ、カキンッ、カキンッ、ギリギリギリ』


 ゲンブは、バサラの連撃を受け止め鍔迫り合いにもちこんだ。


 「東の国の、何が気にくわんのだ?」


 「個人の意思よりも、強さと慣習に縛られている。全てだ!」


 「貴様は、その頂点である将軍なのだぞ? 全て有るではないか?」


 「大切な“モノ”は、将軍になった時に全て失った」


 「………“唯一無二の血統”………、自分の子以外の血族を断つ儀式のことか………」


 『ガキンッ』


 バサラは、ゲンブを太刀で押し飛ばした。


 「私が望むのは、強さではない………」


 バサラの端麗な顔が、修羅のように変わっていく。その気迫に、薙刀を強く握り身構えるゲンブ。



 一方、シシアカに説得をこころみるチェン。


 「シシアカ。そんな“モノ”を使って、何をする気なのだ? タオの都で戦闘が起きている。東の国の民どうしで、戦っているんだ。バサラ様にお願いをして、戦いを止めてくれ」


 「東の国の民? この国は、強い者だけが民なのだ。金も、家柄も、力も、なにも無い者は、何者でも無い! ただ搾取されるだけ、それが正義………。龍騎士共と戦っているのは、バサラ様に拾われた者達。バサラ様に、名を与えられた者達だ! 死ぬまで戦うであろう、もともと死んでいたのだからな!」


 「あんた達の都合なんか、知るかよ!」


 ロンがコルルを操り、バサラの船にいるハナのもとへ向かおうとした。


 『ピィーーーッ』


 ロンの目の前に、閃光がはしる。


 「うわわっ! 何だコレ!?」


 「二人の邪魔をするな………。この線上より先に進めば、誰であろうと容赦はしない」


 鋼鉄の虎“白虎”の口が開かれ、湯気げが立ち上がっている。その“白虎”の頭上で、閃光がはしった線上を指差すシシアカ。


 「だったら、その機械ネコを操るオマエを倒せばいいんだろ。行くぞ!」


 ロンは、クマさんから受け取った散弾銃に弾を装填し、チェンに合図を送った。コクリとうなずくき、チェンは青龍の手綱を引くと力強く叫んだ。


 「貴様が立ちはだかるのであれば、こちらとて容赦はしない」


 『ズビーーーッ』


 青龍が、シシアカに閃光を放つ。しかし、シシアカは回転推進機を広げ、その閃光を防いだ。


 「横が、ガラ空きだぜ!」


 『バンッ』


 すかさずロンが発砲するが、シシアカはサッと飛び上がりそれをかわした。


 『シュルルルル〜〜〜』


 高く飛び上がっていくシシアカを、青龍とコルルが追撃する。

 チェンとロンはシシアカに狙いをさだめ、攻撃を仕掛けようとしていた。するとシシアカの上昇がピタリと止まり、体を回転させながら落下を始める。


 「いけない! よけろ!」


 ロンの声に、薙刀をかまえシシアカの攻撃に備えるチェン。

 落下と回転の勢いを使い、閉じた回転推進機でチェンに打撃を与えようとするシシアカ。


 『カキンッ』


 チェンは薙刀で攻撃を受け流すが、バランスを崩し青龍から落ちてしまった。

 シシアカは、チェンにあたえた打撃の反動を利用し、落下の向きをロンに変え刀を抜く。


 『シャン』


 シシアカの斬撃を、すんでのところでかわすコルル。


 落下するチェンとシシアカが、睨み合う。お互い体をひねらせて、刀と薙刀を振りかざす。


 『カキーーーンッ』


 空中で火花が飛んだ。

 落下していくチェンを、青龍が追いかけ受け止める。シシアカも回転推進機を再び回し、両者は運河に落ちるすんでのところで水しぶきを上げながら離れていく。


 船上で鍔迫り合いをしていたバサラとゲンブが、チェンの戦う姿を横目で見ていた。


 「立派に、戦うではないか。父として、誇らしいな」


 話しかけるバサラを、押し払うゲンブ。


 「武人の子として、当然のこと!」


 薙刀で突きかけるゲンブ。バサラはサッと横にかわし、ゲンブの耳元に顔を寄せた。


 「素直に喜べ………。先程の目つき、心がこぼれておったぞ」


 「黙れ! 貴様に、父親の気持ちが分かるのか」


 『ドンッ ガキン ガキン ガキン』


 バサラを突き飛ばし、次々に斬撃を振り放つゲンブ。そして、渾身の一撃を振り放とうとした。


 『ズブッ』


 ゲンブの視線が止まる。

 その先には、昇り上がる龍に乗る勇猛果敢な青い髪の少女がいた。


 「思い残すことは、無いな………」


 バサラが、ゲンブの胸に突き刺さった太刀を引き抜いた。


 青い髪の少女の姿が、徐々にぼやけていく………。


 『ドサッ』


 『キュゥ〜〜〜ッ』


 二人の戦いを見守っていたゲンブの龍が、締め付けるような甲高い声で雄叫びを上げた。


 チェンの目に、広がる血の上で横たわるゲンブが映る。


 「あ……、あ………、ああああああああああ」


 急転回をして、バサラの船に飛んでいくチェン。


 「ダメだ、閃光にやられるぞ!」


 ロンの制止は、とどかなかった。

 シシアカがバサラの船に向かうチェンを指さすと、“白虎”の首が動き大きな口を開けて光りだした。


 「や〜め〜ろ〜〜〜!」


 ロンはコルルから飛び降り、シシアカにしがみつくと空中でもみくちゃになった。


 「お父様ーーーーーー!」


 水上を水しぶきを巻き上げながら物凄い速さで飛ぶチェンに、“白虎”の閃光が放たれた。


 『ビッ…ビ…ビ………、ドッバーーーン』


 シシアカの制御を失った“白虎”の閃光は、チェンに届くことなく運河の水と接触し水蒸気爆発を起こす。直ぐ側にいたチェンと青龍は、飲み込まれる様に水しぶきの中へ消えていった。


 「とりゃぁぁぁぁぁぁーーーっ!」


 チェンはものともせず、水しぶきの中から飛び出し、そのまま船上にいるバサラに薙刀を振りかざす。


 「やめろ、君とは戦いたくない」


 『カキーーーンッ』


 太刀で、チェンを弾き飛ばすバサラ。

 顔をグシャグシャに濡らし、バサラを睨みつけながら立ち上がるチェン。

 口もとをおさえて、バサラを見つめるハナ。


 バサラは、二人に目を合わすことなく、また声もかけずに、その場から逃げだし“白虎”へ飛び移っていった。

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