第31話 東の国ハオの将軍 弐

 東の国、タオの都。

 そこは美しい運河に囲まれ、水路が張り巡らされた水の都。

 広大に広がる中州に発展した立地上、陸から攻める事が困難な鉄壁の国である。

 さらに国土のほとんどが険しい山岳と深い森に囲まれ、バルハラ大陸の東の果てにあることから、他国との交流があまり無く独自の文化が養われてきた。

 それ故に謎も多く、伝説の龍が政治を司るとまで言われている。


 ハナは、森で大蛇に襲われていたところを、謎の美男子バサラに助けてもらった。さらに、彼の屋敷に招待してもらえることになったのだ。

 漆と金箔で飾られた絢爛豪華な彼の船に乗り、都の玄関口である巨大な吊橋をくぐりぬけていく。

 東の国タオは、楼と呼ばれる背の高い建物が水路で区切られた陸地にひしめき合い、その間を船で移動するのが常のようだ。

 楼にはエレキタイトで輝く看板が沢山取り付けられており、水際では屋台舟が並び、にぎやかにで活気に溢れている。


 「うゎ〜、あのオコメのお団子、美味しそう〜。あっちは豚さんの丸焼き、そんなに食べられません! てへへ」


 ハナは自分が連れ去られてきた事も忘れて、異国情緒漂う風景を、船首で頬をつき眺めていた。


 「チェン、今度ばかりは勝手が過ぎるぞ! いったい何をしていたのだ?」


 ハナを連れ出した青髪の少女チェンが、バサラに叱られている。


 「む〜〜〜ん」


 しかし、チェンはアバロタイト毒気にやられて気怠いのか、まったく反応がない。

 きっとチェンには昔から手を焼かされたのだろうかなどと、ハナは勝手な想像をしてクスクス笑っていた。


 やがて船は堅牢な壁に囲われた島の、控えめに開いたトンネルの中へ吸い込まれるように入っていく。

 トンネルに近づくと、とても大きいことに驚き口をパックリ開けて見渡すハナ。島を取り囲む壁が、巨大すぎたのだ。

 トンネルを抜けると、船着き場がある大きな屋敷の中庭に出た。


 船着き場に停められた船から、軽快に飛び降りるハナ。

 チェンはアバロタイトの毒気が抜けず、いまだに意識がもうろうとしていたので、バサラにお姫様抱っこをされて下船していた。


 「よっと」


 船着き場に飛び降りるバサラ。その衝撃でチェンの意識が戻った。


 「はっ。 …えっ!? バッ、バサラ様!? 何故!? いけません、降ろしてくださいませ!」


 「ハハハッ、ダメだ! まだ足もおぼつかないだろう」


 飛行船から、アバロタイトをふところにしのばせて逃げてきたのだ。コークス隊長の時のように、変質が起きる前に大蛇に襲われたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。

 その後の意識が無いチェンにとって、気がついたら美男子上司のお姫様抱っこで目が覚めたのだから、驚くのも無理はない。

 顔を真っ赤にして運ばれていくチェンを、ハナはニヤニヤと傍観しながら後をつけた。

 白い玉砂利がひかれ上品に切りそろえられた木々が並ぶ広い庭園をぬけ、大きく立派な屋敷の縁側に寝かされたチェン。


 「私は、湯で汗を流してくる。君達も好きに使ってくれ。その後は、夕食だ。チェン。今回は、わんぱくが過ぎるぞ。後で、しっかり話を聞かせてもらうからな!」


 チェンは、アバロタイトの毒気とは違う意味で、全身が硬直している。


 「チェン…。貴方、もしかして………」


 「むーーー!」


 興奮した猫の様に、慌ただしくハナに飛びかかるチェン。そして、ハナが聞こうとしている事をさえぎるように、ハナの口を抑えてきた。

 チェンの手を振り払い、落ち着いて話すハナ。


 「ん〜〜〜っ!?、どうしたのよ。貴方が、何故私を連れ出したのか、聞きたかったの!」


 「ほへ………。あぁ〜〜〜、何というか………。それは、その………。お告げた!」


 「お告げ!? 神様の?」


 「そうだ! 龍神様のお告げだ!」


 「私を連れ出すのも、アバロタイトの毒気に侵されるのも、大蛇に襲われるのも、全て神様のお告げだと言うの!?」


 「む〜〜〜。まったく、オマエとは文化が違いすぎる! 明日、連れて行ってやるから!」


 「神社に参拝なら、結構です! 私、目に見えないモノは、信じませんから!」


 「龍神様は、実在する!」


 「はいはい。さ〜てと、お風呂に入りましょう〜。汗、いっぱいかいちゃったから」


 「むーーー!」


 ハナとチェンは、言い争いながらお風呂に向かった。


 「(ブツブツ)じゃあ、お告げにしたがったら、帝国軍に追いかけ回されるの? (ブツブツ)」


 小言を言いながら、脱衣所で服を脱ぎ、かけ湯で汗を流すハナ。

 何故か突然黙りこむチェン。そして、チェンの手がじっとりとハナの身体にのびてくる。


 『ガシッ ガサガサ』


 口を塞がれ声も上げれず、物陰に引きずり込まれるハナ。

 乱れた呼吸が、塞がれた指の間から漏れ出す。


 「ん〜っ、ん〜〜〜っ」


 「シィーッ」


 息を潜めるように促すチェン。


 『チャプ………チャプン』


 2人以外の気配。

 ハナとチェンは、物陰からそっと様子をうかがった。


 そこには、湯けむりをまとい湯船から出てくる男性の影が、うっすら見えた。


 (バサラさまだ………!!)


 引き締まった身体に、はりでた肩、弾力のありそうな胸板に、ゴツゴツした腹筋………。おぼろげに見える男性の姿に、ハナとチェンが赤面する。


 バサラであろう人影が去っていくのを確認してから、湯船に飛び込むハナとチェン。

 2人は、火照った顔を隠すように鼻まで浸かり、ブクブク音をたてていた。



 夕食………、

 箱膳の上には、真っ白なご飯と、キノコと根野菜の煮物、おそらく暖かかったらフカフカの食感がするであろう焼き魚と、同じく冷めなければ上品な風味のするお吸物が並べられている。


 「こっほん! 君達は、ずいぶん長くお風呂に入るのだな! おかげで、夕食が冷めてしまったぞ!」


 バサラは、ハナとチェンがお風呂から戻るのを腕を組み待っていたようだ。


 『ホヘェ〜〜〜』


 虚ろで火照った顔のハナとチェン。

 完全にのぼせてしまった彼女達は、美男子の前だとゆうのに浴衣から生足をさらけ出し、背中合わせでだらしなく座っていた。


 「プッ………、ハハハッ。チェンの事情聴取も、明日にしよう。今日は、ゆっくりしてくれたまえ」


 うら若き乙女のだらしない姿に、思わず吹き出してしまったバサラ。


 暗い夜空に、真っ赤に輝く月。

 3人が食事をする部屋は、穏やかな明かりを灯していた。


 やがて、都の明かりが徐々に消えていく………。

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