第20話 飛行船フライハイト②
バル・バル・バルーンの最上部にある祭場には、スカイエルフの男達が酒に酔いつぶれてあちこちで寝ころんでいた。
ロンとベルマンも、コルルの尻尾を枕に深い眠りについている。
「あの女………、やはり姫様の娘だったとは………。姉か、妹か、どっちなんだ………。そんな事より、何故こんなへんぴな所に………」
朝霧ただよう祭場に、ブツブツ一人言を言いながら人影が動いていた。
「………それにしても、この男………、アイツにそっくりだ………。いったい、何なのだコイツ等は………」
人影が、そろりそろりとロンに忍び寄って行く。やがて、人影がかけていた眼鏡にロンの顔が映った。
『アギャーーー』
突然、コルルが叫びだした。
人影が、誤って尻尾を踏んづけてしまったのだ。
「ひぃ~〜〜」
『ガシャ〜〜〜ン』
鋭い牙が並ぶ大きな口を開き、尻尾を踏んだ人影を威嚇するコルル。
人影は驚き、持っていた工具をばらまいてしまった。
「ムムッ! 何者!?」
「ムニャ…ムニャ………。コルル………どうしたんだ………?」
『バサッ バタバタ バサッ』
寝ぼけたロンが目を擦りながら起きると、コルルが謎の男の頭にかぶりついていたのだ。隣では、ベルマンが左腕のガトリングガンを構えている。
「コッ、コルル!? 落ち着け、落ち着け。ベルマン、左手を下げて」
「ロン、油断してはいけません。私達に忍び寄ってきた男ですぞ」
「悪い奴とは、かぎらないだろ。ベルマン、足を引っ張って。コルル、口を開けるんだ。せ〜のっ!」
『ゲボっ ドサッ』
ロンがコルルの口に手を突っ込み無理やりこじ開け、ベルマンが男の足を引き抜いた。
『ロジャー!?』
「こんな所で、何をしていたんだ?」
コルルの口から引き抜かれたのは、なんとヨダレまみれのロジャーだった。
救けてもらった手前、バツが悪そうに話を始めるロジャー。
「運命を確かめに来たのだ。君達こそ、何故 姫様の娘と一緒にいるのだ?」
ロジャーと分かると、ベルマンが膝をつき答える。
「私は、帝国に幽閉されていたヨルムンガンド王の長女ホア・ジー・ヨルムンガンド様の執事ベルマンと申します。姫様は今、帝国から脱出し、ハナと偽名をよそおいヨルムンガンドへ向かう途中でした。道中、そちらの若い男ロンに帝国兵の追手から助けてもらい、それから行動を共にしております。貴方は、伝説の冒険家ロジャー・フックですね」
コクリとうなずくロジャー。
「やっぱりそうだ! あんたは、雲海の底に墜落していた飛行船フリーダム・ナイツの船長ロジャー・フックだ! 確かめるって、ハナの事か?」
ロンを見つめ、顔をこわばらせるロジャー。
「その通り。今は亡きヨルムンガンド王妃の福音を受けた探検隊フリーダム・ナイツ、そして同じ名前の飛行船の船長ロジャー・フックだ。私が確かめたいのは、君達の運命だ。亡国の姫様が、辿り着く先に何が有るのか。そして、憎むべき敵国の機械人形と、機械に改造されたドラゴン………。そして………ロン、君の目的はいったい?」
「目的って? 俺は、ロン・デッキランナー。ハナと旅をしたいだけだ! 俺が何だっていうんだ!?」
「ロン・デッキランナーだと!? やはり………、お前は、あの………」
驚きのあまり、目、口、鼻、体中の全ての穴が開き驚愕するロジャー。
その背後から、猛烈な突風が巻き起こり、巨大な飛行船が浮上してくる。
『ブオォォォ〜〜〜ン』
朝日を遮り広がっていく巨大な飛行船の影に、言葉を失うロン達。
振り返ったロジャーは、その光景に顎が外れそうなほど口を開き驚いた。
「何ということだ!? 何故動いているのだ!?」
ロジャーが、ひといちばい驚くのも無理はない。バル・バル・バルーンの工業区にあるドックで、自分が作っていた飛行船が勝手に動き出していたからだ。
飛行船のブリッジの窓が開き、スピカとハナが大きく手を振ってきた。
「はっ、ハナ!? 何で乗っているんだ!? それに………その船、メチャクチャ、カッコいいじゃないか」
「姫様!? いったいぜったい、何をしているのですか!?」
満面の笑みのスピカ。さらにハナまで、ウキウキしているようだ。
「ロジャー、見て! 私達の飛行船、ちゃんと飛ぶよ! 失敗作なんかじゃないよ」
「スピカが動かしているのか!? その飛行船は、他のなによりも、速く、高く、あの伝説の飛行船フリーダム・ナイツを超える設計で造った………。だがな………、失敗作なのだ!」
「何がいけないの? ほら、飛んだよ!」
「飛びはする………。他の飛行船のようにな………。だが、………明らかに欠陥品なのだ!」
『ん〜〜〜、勿体ぶるな!』
全員から、ツッコまれるロジャー。
その時、息を切らしながら、ステラがターニャを連れてやって来た。
「ターニャ様! ハァハァ………。スピカのバカが、………ロジャーの大切な船を勝手に! ハァハァ………」
「あらま〜〜〜。スピカがしたかった事は、これなの?」
特に慌てるでもなく、あっけらかんとしているターニャ。
スピカは、眉毛を釣り上げて叫んだ。
「この船が有れば………。皆が、この船を見れば、誰もドラゴンを戦争の道具にしなくなるの!! だから、お願い!!」
スピカの叫びに、心を打たれたターニャ。手を組むと、ロジャーにうったえかけた。
「ロジャー、お願いします。スピカが、あのような想いをもっているのです。せめてラ・グリシーヌまで、冒険させてあげてください」
「そうよ! この船でラ・グリシーヌまでひとっ飛びすれば、一石二鳥だわ!」
ターニャの提案に、ハナもノリノリのようだ。
しかし、そうはいかないのがロジャーとステラである。
「たっ、ターニャ様まで、お気は確かですか!? ロジャー、あなたも説得して!」
「もっ、もちろんだとも。あの船は、欠陥品なのだよ!」
『だから、何が〜〜〜!?』
再び皆からツッコまれるロジャー。
「ターニャ様が、良いって言ってるもんね〜〜〜」
「ね〜〜〜」
ハナとスピカは、意気投合してラ・グリシーヌに向かう気満々になっている。
「よしっ! そうと決まれば、冒険の始まりだ! コルル、行くぞ! ベルマン、つかまって!」
「ワクワクしますな」
『コルルルル〜〜〜』
ロンとベルマンも、ラ・グリシーヌへ行く気満々になったようだ。
シートに座る、ハナとスピカ。
スピカは、専用のヘッドギアとゴーグルをかぶり、シートベルトをしめた。
「ハナねー。しっかりつかまってね!」
親指を立てるハナ。
「スロットル、全開!!」
「やめろ〜〜〜! この船には、欠陥があるのだ〜〜〜!」
『飛行船フライハイト、発進!!』
ワイバーン達も興奮し、飛行船とともに飛び立っていく。
皆の希望をのせ、飛行船フライハイトが発進しようとしていた………。
(………)
「………発進。………あれれ〜〜〜?」
………ゆっくり飛行するフライハイト。
「はぁ〜〜〜。この船は、飛行船の最速・最高度を追求し過ぎて、手に入るエレキタイトでは動力が足りないのだよ。今この船は、どの飛行船より、遅く、重たい………。」
皆、呆然とし、バル・バル・バルーンに静かな時がながれた………。
「コルル………。とりあえず俺達も、あの飛行船に合流しようか………」
『コルゥ〜〜〜』
「わ…、私もお供していいかね? あの飛行船、まだ調整がいるかと思うのでね」
「もちろんですとも」
あっけらかんな表情のステラと、優しく微笑むターニャが見送る中、バル・バル・バルーンからロン達が飛び立っていく。
パワー不足の飛行船フライハイト、謎だらけの冒険家ロジャーもくわわり、スピカのドタバタ劇にすっかり巻き込まれてしまったロン達であった。
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