第18話 スカイエルフの晩餐

 エレキタイトのランタンが灯り、空に浮かぶシャンデリアの様に輝くバル・バル・バルーン。


 空に浮く巨大なリングの中央に、スカイエルフ達が集まってきた。

 サンターレと呼ばれる話し合いが、執り行われるのだ。

 そして、この場でロン達の処遇も決められる。


 ステラに連れてこられたロン達は、集まったスカイエルフの輪の真ん中に座らされた。


 集まって来たスカイエルフ達は、和気あいあいと雑談をしている。

 料理がふるまわれ、ロンとハナは何かの串焼きを受け取った。当然、機械のベルマンは拒み、配ったスカイエルフもとりあえずといったところか、苦笑いをして次にまわっていった。


 「ふんにゅ〜〜〜っ」


 弾力があり、ハナの力では噛み切れずにいる。

 隣で首を引き伸ばし、ブチブチと肉を食いちぎるロン。


 「オマエの食いっぷりは、立派なものだな。今日は、特別なご馳走だ。本当なら、オマエ達が食べられるモノではないぞ」


 冷たい目つきだか、ステラがロンの食べる様子を褒めた。


 「もにゅもにゆ…、ゴックン。ちょっとスジっぽいけど、噛めば噛むほど味が染み出てきて旨い。何の肉なんだ?」


 「神の使いだ」


 「………ゴッ…クン」


 それは、ロン達にとって考え深い事であった。すっかり口が止まったロンとハナ。

 そんな事は知ってか知らずか、スピカの楽しそうにコルルとたわむれる声が聞こえてきた。


 「ほ〜ら。あ〜んして〜 (ポイッ)」


 『コルルルル〜〜〜(パクッ)』


 「いい子いい子〜」


 楽しそうなコルルを見つめるロンと、無邪気なスピカを見つめるハナ。

 ロジャーの姿は、無いようだ。


 気がつくと祭場は静まりかえり、スカイエルフ達の視線が一箇所に集まっていた。

 おごそかな雰囲気につつまれた祭場に、銀色に輝く髪のスカイエルフが歩いて行く。


 銀髪のスカイエルフが高座に着席すると、右の手のひらを掲げた。それに応えるように、集まったスカイエルフ達も、右の手のひらを銀髪のスカイエルフへ掲げる。


 「サンターレ」


 『サンターレ』


 銀髪のスカイエルフの凛とした掛け声に続き、集まったスカイエルフ達が声をそろえて返事をした。


 さっそく銀髪のスカイエルフが、ハナをじっくり見つめる。


 「そのもの達を、前へ」


 銀髪のスカイエルフは、ステラに指示を出しロン達を呼び寄せた。


 「ターニャ様が、お呼びだ」


 ターニャ様と呼ばれる銀髪のスカイエルフの前で、横に並ぶロン達。ステラがひざまずいたので、ロン達も慌ててひざまずいた。


 「ふふふっ。楽にして下さい。」


 さっきまでの凛々しさとはうってかわり、穏やかな笑みを浮かべるターニャ。ロン達は思い思いに足をくずして座るが、ステラは姿勢を崩すことはしなかった。


 ロン達の処遇を話し合う準備が整った。

 ターニャが優しい声で、ステラに話しかける。


 「ステラ。決めつけは、よくありませんよ」


 「しかし、この者達は、帝国のドラゴンに、帝国の機械人形。どこからどう見ても………。」


 「貴方は、ヨルムンガンドの先代の姫様をご存知ですか?」


 「えっ…え〜っと…、知りません。ソレとコレと、何の関係が?」


 話の意図が理解できないステラに、ターニャは変わらず優しい声で話し続けた。


 「先代も先々代も…さらに前の方も……、それはそれはお美しい方々でした。………貴方のように」


 ターニャは、視線をハナに変えニッコリと微笑んだ。


 「私の母や、そのまた母をご存知だなんて!? そんな………貴方は、とてもお美しい姿なのに………」


 「(………姫様。どの様な理由かは分かりませんが、族長となるスカイエルフは長寿になるそうです)」


 一見、若い女性にしか見えない、美しい容姿のターニャ。驚くハナに、ベルマンが小声で耳打ちした。


 「で………では、この者は、ヨルムンガンドの姫様だと………?」


 問い返すステラに、ニッコリと微笑みうなずくターニャ。


 「はい。解放してあげなさい」


 「しっ…承知しました。ご無礼をお許しください」


 すっかり気後れしたステラは、ハナに深く頭を下げた。


 「知らなかった事は、仕方がありません。よいのですよ。でも、知ろうとしない事は、いけませんね。 次は………スピカですね」


 「はい。………スピカ、前へ」


 「………」


 ステラがスピカを呼ぶが、スピカはうつむいたままコルルの側からいっこうに動こうとしなかった。


 「スピカ!」


 苛立ったステラは、スカイエルフの群衆を掻き分けスピカのもとまで来ると、乱暴に腕をつかみ引き連れようとした。


 「ステラねー。私………」


 「スピカは、いつもワガママばかり! 速く相棒となるドラゴンを見つけて、一人前にならなきゃだめだ!」


 「私、ドラゴン乗らない! 一人前にならなくてもいい。ロジャーの、機械作りのがいい」


 「スピカ!」


 ステラが腕を振り上げ、スピカが目をつぶる。姉妹喧嘩が始まり、ザワつく祭場。

 そこへ、ターニャの不思議とよく響く声が止めに入った。


 「構いません!」


 『ザワザワザワ』


 その言葉にどよめく祭場。誰よりも驚いている2人は、ピタリと動きを止め今の言葉の意味を深く考えているようだった。


 「ステラ、構いません。スピカが、そこまで言うのであれば、好きな様にしなさい」


 「し……しかし……それでは、スカイエルフとして、一人前に………」


 困惑するステラに、ターニャが一言そえた。


 「ただし、ラ・グリシーヌには、行きなさい。この者たちと共に!」


 『ザワザワ…… 何故だ…… よそ者が!? ザワザワ』


 ターニャの発言に、スカイエルフ達がざわめきだした。

 意味も分からず、唖然とするロン達。

 おそらく、ラ・グリシーヌに行き相棒となるドラゴンを見つける事が一人前になる過程のようだが、よそ者のロン達が関与していい事ではないようだ。

 さすがに納得のいかないステラは、ターニャに抗議をする。


 「スピカの面倒は、姉である私がします! 何故、あの者たちを!? たとえ姫様であったとしても、我々の聖地であり、ワイバーンの住処であるラ・グリシーヌに、何故よそ者を!?」


 ターニャは、東の空を見上げ呟く。


 「………あの御方が、そうしろと………」


 東の夜空には、一筋の光の筋が流れていた。


 唖然とする一同。

 ターニャの意図はいったい………。

 そして、ラ・グリシーヌとは、いったいどんな所なのか……。




 サンターレも終わり誤解がとけたロン達は、さっきまでとは打って変わり、おもてなしを受けていた。


 「コレも食べてくれ。私が作った、雲海マンタのマリネだ」


 ステラが差し出した大皿には、赤身肉と色とりどりの野菜がお酢に浸されていた。一切れ指でつかんで、口に放り投げるロン。


 「旨い! コリコリして、コレならハナでも食べられるぞ」


 「ロンったら、フォークを使ってよね。ハムッ………、ふゎ〜、本当だわ〜。鼻からぬける、お酢の爽やかな酸味が、とても美味しい。………あれ………、スピカちゃんは?」


 「あぁ………。機械をいじるって、行ってしまったよ。まったく、身勝手な妹だ」


 ステラ達を見て、まるで母親の様にほがらかに微笑むターニャ。


 「フフフッ。そこまでのめり込むなら、何が出来るか楽しみなものね。ところで、スピカの事ですが、突然のお願いを引き受けていただいて、感謝いたしますわ。フフフフフ」


 ターニャから、スピカのお供の件を満面の笑みでお願いされたハナ。心の声がこぼれそうになりながら、頼まれ事の行き先をたずねた。


 「(引き受けた覚えはないのに………) そ…その…、ラ・グリシーヌとは、どんな所なのですか?」


 「バルハラ大峡谷を北上した先、青い花に覆われた巨大な石柱が連なる、とても素敵な所よ。野生のドラちゃん達も沢山いるわ」


 「(野生のドラちゃんだなんて…、凶暴じゃないのかしら………) わ…私も、お花が大好きなんです………」


 「ワイバーンの住処があるんだろ!? コルルが喜ぶぞ〜〜〜」


 「(相変わらず、のうてんきね。いったいロンは、何に興奮しているのかしら………) そうですね。コルルも、お友達が沢山できますね」


 「そうと決まれば明日、ラ・グリシーヌへ私達もご一緒しましょう」


 スピカに聞いてもいないのに、ベルマンも乗り気になって明日出発することにしてしまった。


 『えっ、ちょっと…』


 偶然にもハナとステラが、先走った流れを止めようと、話に割って入ろうとした。


 「それでは、よろしくお願いします!」


 満面の笑みで話を締めるターニャに、ステラは慌てて抗議をする。


 「たっ、ターニャ様!? 妹の面倒は、私が………。それに、私は………?」


 「ステラは、少し休みなさい! 働き過ぎは、スカイエルフの美容によくないわ!」


 ハナも、能天気なロンとベルマンに抗議した。


 「べっ、ベルマン、ロン!? 私達は、ヨルムンガンドへ向かわなくては! それに、野生のドラゴンだなんて、凶暴じゃないのかしら………」


 「今の姫様にとって一番大事なことは、世界を見て回り何をすべきかを考えることです! 急がば回れ! ちょっと、寄り道をすると思って下さいませ」


 「そうそう。ワイバーンは、ドラゴンの中でも人懐っこいみたいだよ」


 お互い言いくるめられ見つめ合う、ハナとステラ。


 ハナとステラ、そしてスピカの気持ちを置き去りにして、和気あいあいと宴会が終わった。

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