第29話 不謹慎な気持ち

 屋上から、復興もままならない都内を眺めた。

 爽やかな青空だけが綺麗で、希望が湧いてくる。

 アコースティックギターの音色が――シャッテンが弾く音は、凄く温かくて、優しくて、柔らかい―—聴こえてきた。

 振り返ると、シャッテンが壁に凭れて、指先で弾く。

 本当なら、ナハトが食いついて、シャッテンが軽く払う光景が続いてた。

 でも、ナハトは今、作戦に行くのを躊躇っている。

 司令とどんな話をしたんだろう――。

 3人でチームだから、スタジアム制圧だって1人でも欠けたら、うまくいかない。


「……」


 だいぶと、建物が崩れ落ちちゃったから、前は見えなかった競技場スタジアムの丸い屋根が見えた。

 あそこで、あの暴走が起きた時、試合があった。ナハトの友達や仲間がたくさん亡くなった場所。

 辛い、よね。みんなの亡骸を見るなんて――。

 鉄柵が揺れた。

 屋上の床も、景色全体が、一気に揺さぶれられた。

 爆音? 黒煙が舞ってる。


「爆発? ブリッツ、そこから離れてください!」


 ギターを片付けて、シャッテンが強く呼ぶ。


「うん」

『ブリッツ、シャッテン! 今すぐ司令室に集まるんだ!』


 司令から直接連絡が入る。

 急いで司令室に向かったけど、ナハトは来なかった。

 焦りが隠せない司令は、帽子を深く被って、奥で鋭く前を睨む。


「ナハトは来ないのですか」

「あぁ、ナハトは今、医務室で診てもらっている。とにかく今は、ブリッツとシャッテンで行動してもらう。準備ができ次第合流する予定だ」


 話はこう――オートパトロールロボット通称APRが突如行動範囲を広げはじめ、安全エリアまで侵入。攻撃をしていないのにAIが自爆を行い、被害が拡大。誰かがAPRを裏で遠隔操作している可能性がある――だって。

 都内どころか、メディアのヘリにも攻撃を行い、警察、救急車までも攻撃するなんて、AIにそんなプログラム、してたら内乱罪になるのかな。

 首謀者は誰? もし内乱が成功したら、新しい国家が生まれるの?

 でもそれって、なんだか、不謹慎だけど希望的にも思えちゃうな――。

 

「このまま放置しては危険だ、急ぎスタジアム制圧計画を実行する。スタジアムに首謀者がいる可能性も捨てきれない。とにかく、慎重に行動するように」




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