第6話
また別の日の放課後。広輝は一年五組の教室からぼんやりとグラウンドを見下ろしていた。そこでは今まさにサッカー部が練習を始めたところであり、朱鷺が盛大にシュートを外している。
「下手くそが」
広輝が小声で悪態を吐くと、前方で監視役である生物の先生が立ち上がった気配があった。
そっちの方に視線を移すと、ひょろがりの体型で背中を丸めながら近づいて来た先生が、無言で広輝の机に一枚の紙を置く。
「なんだよ、これ」
広輝が鋭い視線を教師に向けた。
しかし教師の方も怯むことなく、蔑んだような目を広輝に返す。
「よそ見をしていた分の、追加課題だ」
先生は冷たくそれだけ言い放つと、広輝に背中を向ける。
「チッ」
広輝は隠す気もなく舌打ちをする。すると、一度は背中を向けた先生が振り返った。
「宿題を忘れて居残りになった挙句、よそ見をして、さらには舌打ちとはどういうつもりだ?」
冷たく相手を嘲笑するような嫌な話し方だった。先生の顔に皺が寄る。
「うるせぇ、だまれ」
広輝はそう言いつつ、貰った紙を脇に退けて元々の課題を再開した。すると先生が嫌味な口調で釘を刺してくる。
「ちゃんと追加課題もやれよ。そうでなければ親御さんに連絡しなければいけなくなるからな」
先生はそう言い捨てると、教卓の方へ戻っていく。それに対して広輝は貧乏ゆすりをしつつも、今度は舌打ちをすることはなかった。
「卑怯者め」
そうやって小声で悪態を吐くに留める。すると隣の席に座っていた広輝以外で唯一の居残り組である陽菜が首を伸ばして広輝の方に身を乗り出してきた。サラサラな長髪が肩にかかっている。その顔はなぜか満面のにやつきを浮かべていた。
「どうして親に連絡されると不味い訳?」
陽菜はさっきから課題に向き合っているようなふりをしているが、実は何も考えていないことを広輝は知っていた。彼女は目を開けたまま寝られるタイプなのだ。
「うるせぇ、だまれ」
広輝は課題から目を逸らすことなく、耳障りな虫を払うかのようなジェスチャーをする。
「あぁ、怖っ」
陽菜はそう言いつつ、首を引っ込める。その言葉とは裏腹に、口調はとても面白そうだった。そして広輝が一瞬隣に視線をやると、また先ほどまでのように前かがみになって問題を見るようにしながら眠っている。
そのとき教室の扉が勢いよく開いた。
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