離婚

山川タロー

第1話

結婚生活を始めた。本来なら楽しいはずの結婚生活がまったく楽しくない。うちに帰るのが苦痛であった。なにが苦痛だったのか。正直なところあまり覚えていない。その記憶は断片的だが覚えていることを羅列してみよう。

 結婚前からその兆候はあった。結婚する前私が独身寮の部屋で寝ていると彼女が寮の私の部屋まで入ってきて寝ている私を蹴り上げた。私はびっっくりして跳び起きた。すると彼女は何も言わず去っていった。

 喧嘩して玄関口で取っ組み合いになり鍵で手のひらを突かれ手のひらに凹みができた。たいそう痛かった。

 ある日家で言い争いになり怒った彼女は階段の手すりを揺さぶって引き抜き階段下の方に投げた。階段下にはトイレがありその扉に手すりが突き刺さった。

 ある日嫁が暴れてガラスの窓を手で叩いて割り血だらけになる事件が起きた。すぐに救急車を呼んだ。警察も来て私たちは事情聴取を受けた。

 夜喧嘩になり私は家を飛び出した。物陰から家を窺っていると嫁が金槌を持って外を窺っていた。京都には魔物が住んでいるのかと思った。私は下着姿であったが公園のベンチで一夜を過ごした。翌朝家に帰りトイレの窓から家に侵入し着替えて会社に行った。

 喧嘩して玄関から逃げようとして捕まり玄関の植木鉢で頭を叩かれた。そのままベランダに逃げたが頭に手をやると血が噴き出していた。嫁に血を見せ解放してもらい車で救急病院に行った。鉢で殴られたとは言わず洗濯の棒に頭をぶつけたと言った。数針縫った。

 ある日喧嘩をして顔中傷だらけになった。翌日会社の上層部との会食であったが大変恥ずかしい思いをした。

 ある日喧嘩をして両腕をひっかかれて傷だらけになった。翌日会社の医務室で手当てをしてもらった。

 ある日喧嘩をして手の甲に爪を立てられた。あまりの痛さに歯を食い縛ったいたら顎の骨の噛み合わせがずれて、それ以来ずれたままになった。顎を動かすと今もがくがく鳴る。

 ある日嫁が京都に帰ったのを機に連絡を取るのを止めていたら嫁が裁判所に持ち込んだ。そして離婚した。その後私が再婚したことを嫁側がかぎつけてクレームをつけてきた。その筋の人からも電話があり今度は私の方から裁判所に持ち込んだ。

 そんな結婚生活ではあったが前妻との間に男の子がいた。哺乳瓶を洗い赤ん坊にミルクを飲ませるなど、家にいる時の赤ん坊の世話は私の担当だった。泣いてもパパが抱きかかえると泣き止んだ。パパっ子だった。

 しかしながらパパは疲れていた。当時父親が家族に手をかけるという痛ましい事件が起きていた。私もああなってしまう恐れを感じた。私は決心した。最悪の結末を迎える前に別れようと。

 長男とはよく遊んだ。別れる時は苦渋の思いであったがやむを得ない判断だった。別れた後長男のことを思うと心の中に冷たいものが流れるのを感じた。当時上司と酒の席で家族の話をすると涙が止まらくなった。家族と別れるのは嫁も含めて辛いものがある。たとえそれがDVであったとしても何年か一緒に過ごした家族である。つらくないわけがない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

離婚 山川タロー @okochiyuko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ