第30話

「ね、あのさ……」

「何?」


 味噌ラーメンを吐息で冷ましながら、私は平静を装って尋ねる。


「おかめは、その、もし彼氏、か何かできたとき、どうやって話す?」


 ちょっぴりしどろもどろになってしまったものの、おかめは気に留めていないようだ。心の中でホッと一息。


「どうやってって?」

「え? それは、ほら……」


 聞き返されて、返答につまる。


「け、敬語か、タメ口か、とか」

「敬語がいるような相手とはそもそも付き合わない」

「……いや、それは、まぁ、そうなんだけどさ」


 はっきり切り出せない自分がもどかしかった。

 かといって、思い切って打ち明けて、バッサリ一刀両断されるのが怖い。

 だって多分、悪いのは私なんだ。

 分かろうとしない、私の。


 数秒間の沈黙の後、トントン心地良く響いていた包丁の音が、前触れもなく止まった。


「……前から気になってたんだけど、あんたたち、なんで付き合ってるの?」

「え?」


 答えられて当たり前のはずの問いに、私の頭は、真っ白になった。



────────────────────────────────────

この小説のトップページ(表紙)または最新話のページの『★で称える』の+ボタンをいっぱい押したり、ハートを押したりして応援していただけるととてもうれしいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る