ROUND 9 消毒液原液は大体劇薬

 ニュートラルにギアを入れ忘れた世界から逃れること十数分、堕天使は対邪神戦線の最前線に来ていた。地平線の彼方に消えた偏愛神の玩具箱を見やり一息。


「散々な目にあった」


 疲弊しきった様子の堕天使。しかし場所が場所なので気合いを入れなければならない。


「この状態でヒャッハー共の相手をするのやだなぁ……」

『推奨:撤退』

「天地も開闢したとしてボクの居場所がこの地にしかないんだ!」

『提言:流刑』

「ヴォエエエエエエエエエエ!」


 入れた気合いが鳩尾に入ってきて吐いた。ばっちい。


 さて、ここまで来たのなら人類サイドと合流するのがベストであろう。移動しつつ奴らと合流を目指す。信号弾を上げれば……否、『上がれば』合流は用意だろう。であれば。


「う"ぇが……信号弾」

『承諾:赤色終息閃光砲CRYMSOM使用開始。吸呼待機に移行』

「これ反動すごいから嫌いなんだよね……出来ることなら使いたくないんだけど」


 在る筈の無い虚構が構築されていく。次第に『堕天』という禁忌と溷濁し、虚構はやがて現実へと再構築、臨界、更には収束を始める。

 その金属腕の先に顕現するのは身の丈の7倍もあろうかという砲身。燐光が隙から散り、幻想的な光景と見える……低い咆哮が聞こえた。


「この駆動音どうにかなんないの?」

『無理:無駄』

「そんな同じこと2回も言わなくても良いじゃんか!!!!!!!」

『到達:規定エネルギー量蓄積完了。発光パターン紅』

「……今からでも色、変えて良い?」

『冷却:射出用意完了。シーケンスカウントダウン』

「せめて回答しろ!!!!!!!!!!!!!!」


 ツインテールが漏れ出るエネルギーに靡く。ずっと腕を上げてて辛い。泣きそう。


「ていうか威力は置いといて、こんなにもチャージが必要なのは兵器としては欠陥なんじゃないの?」

『回答:周囲確認済。敵性反応無し』

「なるほどね」

『提示:思考』

「バカじゃないもん!!!!!!!!!!」


 自分の武器にバカにされる。何なのさ一体。


 そうこうしているうちに射出の用意が全て終了。後は射出するだけである。

 しかし得てして神の使いというものは突然唐突に現れるものであった。そこに善悪の区別は一切存在しない。


 要するに。


「ヒャッハァー!神敵おぶつ誅滅しょうどくだァーーーーー!」

「ヒャッハァー!」

「ヒャッハァー!」


「うわああああああ邪神の使徒やべーやつらだぁあああああああああ!」

『推奨:シーケンス破棄』

「はやくはやく!」

『了承:即時発射』


 ガンギマリのムキムキ大男達、天へと伸びる影の柱より出でる。なお前方5mに十数本纏めて出てきた模様。急いで腕を下ろしそこを標的にする。

 なんかチクチクというかドスドスしてそうな装甲に身を包むお兄さん達に向け。


「うてうてGOGOはりあーーっぷ!」

『照射:開始』





 音が消える。瞬間、世界が紅に染まる────


 ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


「ぴーっ!」

『提唱:軟弱』

「わるいかー!」


 気付けば奴等は消し飛び、眼前にはただクレーターが残るのみであった。その遥か後方に股をおっぴろげて倒れる蝿もまたあった。


 だが、それよりも。


「良い余韻を楽しんでいたのだろうが、時間は急を要するわ。起きなさい、天使」

「……久し振りですね。おこしてください」

「それぐらい自分で出来ないのかしら?」


 場にそぐわない、バニーガールが歩いてくる。その姿は滑稽ながら、自分のドレスとでも言うように堂々と歩む様はまるで王女のようであり。


「全く。漸くビームを会得したと思ったら」

「別に上位存在が全員出来る訳じゃないんですが?」

「でも撃てたじゃない」

「ボクは撃ってないの!!!!」


 頭に冠を被っているかの如く───否。勇者とは違い、確かに載冠していた。


 本物の姫である。





 Phase 1 finished

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