08

「ここに来たタイミングで弱るなんて申し訳ない……」

「気にするなよ」


 しかも約束の相手のことは急用ができたとかで出ていってしまった。

 なんで私もすぐに帰らなかったのか……はごう君が誘ってくれたからだけどなにをしているのかと呆れてしまう。


「ん-家まで運んでやった方が休めるか、よしいこう」

「重いからいいよ」

「駄目だ」


 あっという間にお部屋まで運ばれてベッドの上でひっくり返っておくことになった。


「なにか無茶なことでもしたのか? 夏休みだからってはな先輩が夜更かしをするとは考えられないからそれぐらいしかないよな」

「ううん、いつも通りにしかやっていないよ、さりのお家にいることが多いから一人起きておくのもできないからね」


 そもそも私が遅くまで起きておくのが不可能というのが大きい。

 昔よりマシになったとはいえ、私は依然として暗いところが苦手なのだ。

 夜に外に出ることにならなくても夜に屋内で一人でいるのもなるべくしたくなかった。


「というかなんだよそれ、俺には全く言ってくれていなかったよな」

「あきが言ったりしなかったんだ」

「そういうときにほいほい情報を吐く人間じゃないだろ」

「別に言っても全く問題ないことだったけどね」


 相手のお家でイヤらしいことをしているとかでもないのだからそうだ。

 何度も言っているようにただお泊まりしたりお泊まりさせたりを繰り返しているだけ、さりも一緒にいられればいいのか一度も文句を言ってきたことはない。


「前も言ったかもしれないけどさ、俺は確かにあきが好きだけどはな先輩とだっていたいんだよ、だから距離を作るのはやめてほしい」

「うん」

「昔みたいにしてくれよ、すぐに『ごう君』って来てくれていただろ」

「わかったよ、それなら夏休みが終わってからは守るね」


 それでも学校のときだけ変えればいい気がした。

 少なくともいまは頑張るところではない、姉が邪魔をしてはいけないのだ。


「いや――あ、そういうことか」

「うん、この時間を上手く使わないと。というわけで、いまはお部屋にいるからあきのところにいってきなよ」

「……いってくる」

「ここまで運んでくれてありがとう」


 近くにいなければなにも発生しようがない、だから彼はここまで来たのだ。

 そう考えると弱ってよかったと思った、少しだけでも役に立てたみたいで嬉しい。


「はなっ」

「うわ」

「どうしてか戻ってこないと思って探してみたらそういうことだったのね」

「うん、中途半端な感じだよ」


 喋ることはできるけど怠いから動きたくない。

 一時間でも寝てしまえば楽になると考えて寝てみたものの、起きてからも同じような感じだった。


「あ……冷たくて気持ちがいい」

「体が熱いわ」

「ん-……水分補給だってちゃんとしていたのになんでだろうね」


 暑いのが得意ではないとわかっているから他の季節のときよりもしっかり意識して飲んでいたのにどうしてこうなるのか。

 確かになにもせずにごろごろしたい願望はあるけど弱ってしまっていたら楽しめない、気持ちよくもない。

 なにより、こうして一緒にいるだけで迷惑をかけることにしかならないのが問題だ。

 そういうのもあって今日は諦めて回復させることだけに専念した。

 寝て寝て寝て、日が変わっても寝ることを頑張った結果、


「うーん……まあ……」


 昨日よりはマシ? 寧ろ寝すぎて怠い状態になった。

 確認してみるとさりはいないようだったから一人で一階へ、寄り道もせずに洗面所に入った。


「あっ、お姉ちゃんおはよう!」

「おはよう」


 なっ、どうしてこんな時間にシャワーなんか浴びていたのか。

 急いで玄関に移動するとそこにはごう君の靴が、ま、まさか!? と一人でハイテンションに。

 ただ、また再発するかもしれないからすぐに落ち着かせて戻った、妹は朝から楽しそうだ。


「お母さんには内緒にしてほしいんだけど真夜中にね」

「う、うん」

「ごう君と一緒にコンビニにいってお菓子を買ったんだ! それでさっきまで盛り上がっていたの」


 盛り上がっていたと言う割には静かだった、寝すぎていた私が気づかずに寝てしまえるぐらいにはね。

 いやまあ、真夜中だから声量を抑える常識があって実行していたということだろうけど……正直に言って怪しい。

 一番怪しいのはいちいちそっち方向に捉えてしまうお前の頭だろと言われたらどうしようもなくなるものの、少し興味がある身としては……。


「そ、そう」

「眠気が一気にきて眠たくなっちゃったからシャワーを浴びたってわけだね」


 うん、これ以上はやめておこう。

 とりあえずは顔を洗ったり歯を磨いてからまたベッドで大人しくしておくことにした。

 まだ本調子ではないのだ、だから変な自分が出てきてしまった。

 寝れば直るということなら喜んで寝るだけだった。





「一緒にいたけどなにもなかったわよ」

「あ、そう……」


 そうか。

 もう夕方でオレンジ色に染まっているぐらいなのにこれまでなにをしていたのか……って、だから二人と真夜中から朝まで盛り上がるだけでは足りずにいままで私を放置して楽しんでいたということだよね。

 いまはもう仲を深めているからあれだけど妹やごう君のところにいきやすくしたことで十分返せている気がした、これでお泊まりをすることはあってもするように言われることもないだろう。


「じゃ、気を付けて帰ってね」

「お買い物にいけていないからスーパーに寄ってから帰らないとね。もう大丈夫よね? さ、いきましょう」

「ちょ、間違ているよ、私はあきやごう君ではないんだけど」

「まだ治りきっていないのね、それならあなたをお家まで運んでから一人でスーパーにいってくるわ」


 スーパーには付いていくことにした。

 だって妹のことでお世話になるかもしれないから先程のそれとは別扱いでいい。

 彼女にはなにも持たせなかった、こうしておけばここぞという場面でわかりやすく動いてくれるはずだ。

 当然、求められてもいない私は玄関のところで別れて帰るつもりだったけどなんか悲しそうな顔をしていたから上がることになった。

 いやほら、これが最後になるだろうからここで楽しんでおくのも悪くないということでさ?


「あの二人といられるのもいいけどやっぱりあなたといられるこの時間が一番好きよ、二人きりなのがいいわよね」

「もしかして女児趣味なの?」

「え……? あのね、あなたは小さいけど流石に幼稚園及び保育園生、小学生には見えないわよ」


 な、なんでこんな目で見られなければならないのか。

 呆れや驚き、だけど生温かい感じのそれが本当に嫌だ。


「だって小さいから好きなんでしょ? 私だったらあきを選ぶけどね」

「待って、それってあきちゃんをそういう意味で好きということっ?」

「落ち着いて、恋をするならという話だよ。私はあの子のお姉ちゃんだけど他の子目線ならこうかな~という例として出しているだけ、魅力的なのは確かだからね」


 だからごう君だって好きになっている、幼馴染の域を超えようと頑張っているのだ。


「姉妹とかは関係ないわよ、あの子なんて諦めただけじゃない。あとは……そうね、小椋君のことを考えてのことでもあるわね」

「諦めただけって……はは、さりはまだあきのことをわかっていないんだね」

「当たり前よ、理解できているなんて考えたこともないわ。でも、あなたのそれも見ないようにしてしまった結果よ」


 と言われても困る。

 確かに昔よりは距離ができたけどそれでも甘いところに負けて一緒に過ごしてきたからだ。

 怒られることも多かったものの、喧嘩になるまではいかなかった、妹だってずっといてくれた、なのになにを見ないようにしたと彼女は言うのか。

 本当に見たくないならもっとわかりやすく拒絶をする。

 当たり前だ、強くはないのだから自分の本当のところを抑え込んで行動なんかはできない。


「まあ、理解している風な言い方をしたけど私もわからないんだよ。少し前の話で言えばお泊まりの件で凄く怒ってきたことがあったよね、それってさりと過ごしてほしくないからなの?」

「気になるからよ、大好きなお姉ちゃんを取られたくないのもあったと思う。ただ一番は……いや、これも勝手な想像、押し付けね。なにより私がそうなったら嫌だもの、なにかが内側にあったとしても抑えたままでいてくれた方が好都合なのよ」

「あ、それだよ、こととかに比べたらイマイチ頼りない姉でもやっぱりいなくなったら寂しいからだ! 私が勝手に想像して言うのはだいぶ願望からによるそれが大きいけどさ、まあ……少しだけでも求めてくれていないと寂しいからさ……」


 それならあのときの私は煽りたくはないけど煽ってしまったようなものか。

 多少ではあっても求めている相手が「なにをそんなに興奮しているの?」と呑気に聞いてきたら気になるに決まっている。


「はな、私は――出てくるわ」


 経験がない分、また同じような感じになっても嫌だから黙っておくことにする。


「せめて言ってから出てよ!」


 まあ、すぐになにも言えなくなっただけだけど……。


「送ってくるってはなは言ったわよね?」

「でも、お家にいくとは言っていませんでした」

「つまり、私が悪いだけよね、だからはなを責めるのは違うわ」

「うわーん! そういう淡々と対応をされるのが一番傷つくんですからねっ、さりさんはなにもわかっていないんですっ、煽っているようなものなんですよ!」


 とりあえずは落ち着かせた。

 意識していないのに煽ってしまうなんて私達はお似合いではないだろうか。


「我慢をして束縛はしないでいたけどもう無理だから、今度こそ付いていくから」


 うん、確かにこっちのお家のときは来ていなかったから嘘ではない。

 でも、ごう君といい感じなのにいいのだろうかと心配になるところもある。

 拗ねたごう君に急襲されてしまっても困るから夜以外は一緒にいさせておいた方がいい。


「それならその方がいいわ、この子が弱ってしまったときに対応しやすくなるもの」

「はいっ、協力してお姉ちゃん――はなを支えましょう」

「あら、ふふ、やっぱりあきちゃんの方がことよりも手強いわ」


 これは彼女の勢いに負けないために始めたことなのだろうか。

 嫌ではないからしたいなら名前呼びでもなんでもよかった。




「それでこの結果なんだ?」

「うん、今度は有言実行しているみたい」

「もう離さないから、仮にさりさんとお付き合いをした後でもこのままだよ」


 これのせいでごう君は妹と一緒にいられていないから申し訳ない気持ちになる。

 というわけで連絡先は交換できているから呼んで外で集まることにした、当然のようにみんな付いてきた。


「どうせ集まったなら今度は海にでもいくか、はな先輩も一度だけで終わらせたくないだろ?」

「みんながいきたいならいくよ、だけど水着はいいかな」

「そうか? でも、年に一回ぐらいは海までいきたいからいこう」


 何故か彼はこちらばかりを見てきている、ではない、妹がくっついてきているからだ。

 本当なら彼が一番妹に対してこうしたいはず、ちなみに私はまたまた黙っているさりにくっついていたい。

 落ち着くとわかったからだ、泳ぎたいなら水具を持ってきてもいいけどそうではないのならずっと側にいてもらいたい。

 これは最近、変わったことだった。


「さりとことはどうする? 水着を取りにいきたいなら付き合うけど」

「私の分はごう君に持ってきてもらったから大丈夫」

「え、ごう君……」

「た、頼まれたんだから仕方がないだろ」


 昔から気にしないタイプだからお友達ならと考えて少しからかってみたくなっただけだ。


「はなが着替えないなら私もいいわ」

「水着で遊びたいなら付き合うよ?」

「そこまではいいわよ」


 それならいこうか。

 ここからも商業施設からもそう遠くはないからやはりそんなには時間もかからない。

 海の近くには木が沢山あるから日陰になる場所は多くある、弱らずに休むのも容易だ。


「小椋姉弟と離れられて私からもそのまま離れられると思ったんでしょ? 残念でした、私からは逃げられません」

「うん、くっついていていいよ、私はさりにくっついておくけどね」

「あ、あれ。さりさん、ここまで奇麗に流されるとそれはそれで気になるんですけど」

「あなたなんでまだいいじゃない、この子なんていつの間にか側に来てくっついてきては一人で満足して離れてしまうのよ? 抱きしめ返そうとしてもできないのよ」


 私はさりの冷たかったり温かかったりする体温が好きだった。

 あとは自分より大きいからなのもある、元々負けているから敗北感なんか出てこない。

 寧ろ小さいからこそ甘えなければならないと言い聞かせて抱きしめさせてもらっていた。

 だからやはり周りの子から影響を受けるというのは本当のことなのだ。


「うっ、苦労しているんですね……お姉ちゃんは残酷なことをする人です」

「そこまでは言わないけどもやもやすることも多いわね」

「ちゃんと応えてあげて、応える気がないなら中途半端なことはしないであげて」

「うん」


 そこらへんのことは緩々になってしまっているけど恋関連のことで余計なことを言わない自己ルールはまだ守れているから安心している。

 でも、内では言う、彼女こそ中途半端なことはやめてあげてほしい。

 ただムキになって張り合おうとしているだけならやめてごう君のために時間を使うべきだ、無理ならはっきりとするべきだ。


「あきー! どうせなら来いよー!」

「水着じゃないけどー!」

「それでもいいから来い!」

「はぁ、わがままな男の子がいるからいってくるね」


 いってらっしゃいと見送った。

 曖昧な態度でいても彼がはっきりしすぎているからなんとかなりそうだ。


「いたたっ、なんで強く腕を掴まれているのっ?」

「あ、ごめんなさい、羨ましく感じてしまったのよ」


 なんでそれで攻撃しようとなるのかがわからない。

 ただ、不満は溜まっているみたいだから上手く発散させていこうと決めた。

 もうお祭りもあるから楽しみつつ頑張ろう。

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